リハビリ
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ICFの最大の特徴は、個人の生活機能はその人の健康状態だけで決まるものではなく、社会と個人の背景因子との双方向的な相互作用によって決まるものであるとしたことである。さらに大きな特徴は分類を(1)生活機能と障害、(2)背景因子の2部門に大別し、(1)生活機能を @心身機能と構造、A活動と参加の2構成要素に分け、(2)背景因子として、環境因子と個人因子の2構成要素を掲げたことである。ICFのもう一つの特徴は、表現を心身機能と身体構造、活動と参加という中立的用語を用い、その障害を機能障害、活動制限、参加制約としたことである。中立的な表現を用いた根底には障害を否定的なものと捉えるべきでないとする立場が窺える。

心身機能には@精神機能、A感覚機能と痛み、B音声と発話の機能、C心血管系・血液系・免疫系・呼吸器系機能、D消化器系・代謝系・内分泌系機能、E尿路・性・生殖機能、F神経筋骨格と運動に関連する機能、G皮膚および関連する構造の機能があり、身体構造も同様に8項目に分類されている。

活動と参加は@学習と知識の応用、A一般的な課題と要求、Bコミュニケーション、C運動・移動、Dセルフケア、E家庭生活、F対人関係、G主要な生活領域、Hコミュニティライフ・社会生活・市民生活がある。

環境因子は5項目で、@生産品と用具(採集・創作・生産・製造された自然あるいは人工的な生産品・装置・器具)、A自然環境と人間がもたらした環境変化(地理、人口、動植物、気候、災害、光、時間、音、振動、空気など)、B支援と関係(日常活動で提供される家族・友人・地域・上司・ボランティア・専門職などの人的支援)、C態度(家族・友人・地域・上司・ボランティア・専門職などの態度)、Dサービス・制度・政策(消費財・建築・土地・住宅・公共事業・コミュニケーション・交通・保護・司法・団体・メディア・経済・社会保障・社会支援・保険・教育・労働・政治などに関わる)で構成される。

これらの分類は階層的に5段階に細分化される。結果は生活機能が9段階に評価して、小数点以下1桁目を実行状況、2桁目は能力(現時点で発揮できる最高のレベル)をもって評価する。環境因子は阻害因子5段階、促進因子5段階に評価し、小数点以下1桁目を阻害因子、促進因子があれば1桁目に+記号をつけて記述する。個人因子の分類項目はまだ完成されていない。
診断と評価

一般の臨床医学で疾病の根本的な回復を目的に、疾病原因を究明する作業を診断と呼ぶ。これに対してリハビリテーションでは、心・身機能、日常生活の活動性、社会生活への参加を把握する作業を評価と呼ぶ。評価はこれらの障害の要因を分析し、解決手段を検討し、有効性を確認する作業をいう。代表的評価種目を以下に述べる。

問診は障害の予防・改善・解決が目的なので、本人の職業・趣味を含む日常の生活の活動と社会生活への参加の実態、家族・縁者の協力体制、経済状態、家屋と地域の環境も把握することが望まれる。関節可動域測定が骨・関節疾患では重要である。解剖学的基本肢位(ほぼ直立姿勢)を0度として、そこからの可動範囲を測定して記載する。身体前・後の運動が屈曲・伸展、内・外の運動が内転・外転、垂直軸周りの運動を内旋・外旋と呼称する。

徒手筋力測定は筋と神経系の疾患で重要な評価対象である。身体各部位の重量に打ち勝つ筋力を基準にして、5?0までの6段階に評価する。肩を例にとると、肘を伸展位で抵抗をかけない状態でのみ上肢を垂直まで屈曲(挙上)できれば3、中等度の抵抗をかけても屈曲できれば4、正常を5、重力の影響がない水平方向への運動なら可能な筋力を2、筋の収縮のみ認める状態を1、それもない状態を0と評価する。

脳卒中による痙性片麻痺の運動機能評価は共同運動という現象を基準に、その出現と消腿の度合いを評価する。発病の当初は随意性を喪失していることが多いが、やがて肩・肘・手指全体を生理学的な屈曲あるいは伸展方向に同時にのみ動かせる共同運動だけができるようになり、続いて各関節を単独で動かせ、さらに回復が進めば、複数の関節を屈曲・伸展逆方向に同時に動かすことができる複合運動が可能になる。評価は運動機能が以上のどの段階にあるかを把握して、解決方法を検討する作業である。

脳性麻痺は出生前後に運動神経の中枢が損傷を受けて生じる運動発達の遅れが障害の主体なので、その程度を正確に把握することが重要である。運動発達の程度は座位をとる機能を基本に、歩行に至るまでを年齢別に粗大運動能力を5段階に評価する方法が、現在は広く採用されている。しかし粗大運動能力の把握だけでは、脳性麻痺をその他の原因疾患と鑑別することはできず、発達神経学的な診断が不可欠である。

知的機能は言語理解、語の流暢性、空間、知覚、数、記憶、推理で構成されるというサーストンの多因子説が有名である。知能検査法にはビネー法、WAIS法、WISC法などがある。記憶検査法としてヴェクスラー検査法、三宅式検査法、ベントン視覚記銘検査法などがある。

性格検査の方法として日常の行動観察による評定法、質問への回答特性から評価する質問紙法(YG性格検査、不安検査、CMIなど)、作業過程を評価する作業検査法(内田クレペリン精神検査ベンダー・ゲシュタルト・テストなど)、その他に投影法(ロールシャッハ・テスト、主題統覚法など)がある。

言語には言語概念の障害である失語症と言語発達遅滞、構音器官の運動麻痺による麻痺性構音障害、聴覚障害による聴覚性言語障害、口蓋裂による言語障害、吃音などがある。失語症は障害中枢の部位と程度によって全失語(言語理解と表出機能の喪失)、ブローカ失語(自己の意思を言語に表出する機能の障害)、ウェルニッケ失語(音声・文字言語を理解する機能の障害)、伝導失語(言葉を復唱する機能の障害)、健忘失語(名詞の表出が不良)その他がある。

運動麻痺がないにもかかわらず、目的にかなった行為ができない状態を失行と呼ぶ。動作を企画する中枢の障害が原因である。特定の指を立てたり目的のある協調運動ができない肢節運動失行、投げキスなどの慣習的動作や道具を使わないで整髪・歯磨きなどの動作ができない観念運動失行、歯磨きをブラシにつけて歯を磨くなどの道具の使用ができない観念失行、立方体の模写や積み木の組み立てができない構成失行、身体と衣服の部位を認識して着衣をすることが不可能な着衣失行などがある。

感覚・知覚障害がないにもかかわらず、対象を認識できない状態を失認と呼ぶ。視野欠損の有・無にかかわらず、一側の視空間が認識できない状態を半側視空間失認と呼び、脳卒中左片麻痺では出現頻度が高い。その他に、人の顔を判別できない相貌失認、見慣れたはずの建物・風景を認識できない地誌的失認などがある。

毎日の生活に必要で基本的な一連の身体的動作群を日常生活活動(ADL)という。この評価は食事、排泄、整容、更衣、入浴、起居・移動動作に項目を分けて、それぞれの自立可否を基準にして評価する。広く用いられる指標にバーセル指数FIMがある。高齢者の自立度を把握するために、外出、家事、金銭処理、書類作成、読書、訪問、対人関係維持などの可否を評価する老研式活動能力指標もある。

QOLの指標として医療行為の効果判定基準に広く健康関連QOLが使用されている。代表的な指標としてNHP、SIP、SF36、EuroQOLなどがある。一方で、安寧感、満足感、幸福感などの言葉で表現される主観的QOLは、患者が治療を選択する基準として最も重要だと指摘されているが、これを評価する標準化された指標はまだ確立していない。
その他

リハビリテーションと似た言葉としてハビリテーションがある。リハビリテーションは、すでに獲得済みの機能が何らかの原因で失われたときに行われる。対してハビリテーションの類義語は療育であり、先天的な障害を持った者が社会生活を送るのになるべく不都合の無いようにするために行われる。
脚注[脚注の使い方]
出典^ 国連障害者に関する世界行動計画、1982年。
^ 「介護職員初任者研修テキスト 第2巻 人間と社会・介護 2」 初版第4刷 p.347 一般財団法人 長寿社会開発センター 発行 介護職員関係養成研修テキスト作成委員会 編集
^ a b c 「介護職員初任者研修テキスト 第1巻 人間と社会・介護 1」 初版第4刷 p.298 一般財団法人 長寿社会開発センター 発行 介護職員関係養成研修テキスト作成委員会 編集
^ 地域リハビリテーション支援活動マニュアル作成に関する研究班(班長:澤村誠志)


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