リチウムイオン二次電池
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1981年、三洋電機から黒鉛炭素質を負極材料とする二次電池の特許が出願された[23][24][25]

1982年、ラシド・ヤザミ(英語版)らは固体電解質を用いて黒鉛内にリチウムイオンを電気化学的にインターカレーションさせることを実証した[26][27]

一方、当時京都大学山邊時雄らの量子化学的設計に基づいて提唱されたポリアセン高分子型炭素材料[28]が、一次元グラファイトの名のもとに注目を集め、その作成がいろいろな所で試みられた。これに応えて1981年、カネボウの矢田静邦が、安定な難黒鉛化炭素の一種であるポリアセン系有機半導体(PAS)を作成し[29]、これを用いて2種類のバッテリーが開発され、いずれも実用化された。一つは双方ともにPASを用いたキャパシタ的電池(PAS電池)、もう一つは負極にLiイオンをあらかじめドーピングしたPASを用いたもの(リチウムイオンキャパシタ)である。後者は、正極はキャパシタと同様に、負極はリチウムイオン電池と同様に作動する。このように、PASによって炭素材でもスムーズで安定なLiドープ、脱ドープが可能であることが初めて見出され、これを機に電気化学的に安定なドープ、脱ドープが可能な難黒鉛化から易黒鉛化を含む電極用炭素材料の開発が方々でなされることとなった[30]

1983年、マイケル・メイクピース・サッカレー(英語版)とジョン・グッドイナフらは、スピネル構造を有するマンガン酸リチウム(LiMn2O4)を正極材料として紹介した[31]。コバルト酸リチウムと比較して安価で安全という特徴がある。1996年に正極材料として実用化され、コバルト酸リチウムと同様に一般的に使われている。

1986年、カナダのMoli Energy(英語版)により、正極に硫化モリブデン、負極に金属リチウムを使用した金属リチウム二次電池が製品化されたが、金属リチウムの化学活性がきわめて高いため、可逆性(充電の過程で負極にリチウムのデンドライトが析出・成長してそれが正極に接して短絡する危険性)や反応性(ほんの少しでも水分に触れると激しく発熱して水素ガスを発生させて発火する危険性)に問題があった。1989年にはNTTのショルダー型携帯電話などで発火事故が相次ぎ[32]、実用化されたとは言いがたく、金属リチウムを負極に使った一次電池は市販化されているが、二次電池への応用は危険とされ広く用いられることはなかった。

1990年、ジェフ・ダーンらは、負極に黒鉛を用いた場合に、電解液としてエチレンカーボネートを用いると初期の充電で分解されるものの、黒鉛表面に保護被膜を形成することにより有機電解液の分解反応を停止できることを発見した[33]。(1994年に松下電池工業により電解液として採用され、現在に至るまでほぼ必須の溶媒として使われている。)
リチウムイオン二次電池の創出と実現

旭化成工業吉野彰(2019年ノーベル化学賞)らは、白川英樹(2000年ノーベル化学賞)が1977年に発見した電気を通すプラスチックであるポリアセチレンに注目し、1981年に有機溶媒を用いた二次電池の負極に適していることを見いだした。また、正極にはジョン・グッドイナフらが1980年に発見したコバルト酸リチウム (LiCoO2) などのリチウム遷移金属酸化物を用いて、1983年にリチウムイオン二次電池の原型を創出した[34][35]。しかし、ポリアセチレンは真比重が低く電池容量が高くならないことと、電極材料として不安定である問題があった。そこで、1985年、吉野彰らは炭素材料を負極とし、リチウムを含有するコバルト酸リチウムを正極とする新しい二次電池であるリチウムイオン二次電池 (LIB)の基本概念を確立した[36][25][37]

吉野彰が次の点に着目したことによりLIBが誕生した。
正極にコバルト酸リチウムを用いると、

正極自体がリチウムを含有するため、負極に金属リチウムを用いる必要がないので安全であること

4 V級の高い電位を持ち、そのため高容量が得られること


負極に炭素材料を用いると、

炭素材料がリチウムを吸蔵するため、金属リチウムは本質的に電池中に存在しないので安全であること

リチウムの吸蔵量が多く高容量が得られること

また、特定の結晶構造を持つ炭素材料を見いだし[36][25]、実用的な炭素負極を実現した。

加えて、アルミ箔を正極集電体に用いる技術[38]、安全性を確保するための機能性セパレータ[39]などの本質的な電池の構成要素に関する技術を確立し、さらに安全素子技術[40]、保護回路・充放電技術、電極構造・電池構造等の技術を開発し、安全でかつ、電圧が金属リチウム二次電池に近い電池の実用化を成功させ、現在のLIBの構成をほぼ完成させた。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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