ラファエロ・サンティ
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1483年にラファエロは、小国だが美術史上重要な中央イタリアの都市国家ウルビーノ公国[5]、ウルビーノ公宮廷画家ジョヴァンニ・サンティ (en:Giovanni Santi) の息子として生まれた。

傭兵隊長として活躍し、ローマ教皇シクストゥス4世からウルビーノ公爵位を叙爵したウルビーノ公フェデリーコ3世は文人を庇護した君主で、フェデリーコ3世のもと当時のウルビーノ宮廷文化は高い評価を受けていた。フェデリーコ3世はラファエロが誕生する一年前の1482年に死去しており、当時のウルビーノ宮廷では芸術よりも文学のほうがより重視されていた。

ラファエロの父ジョヴァンニは画家であると同時に、フェデリーコ3世の生涯を物語る韻文詩を書き上げるほどの一種の詩的才能も持っており、宮廷の出し物として上演される仮面劇の脚本と舞台装飾を手がけることもあった。フェデリーコ3世に捧げたジョヴァンニの詩からは、当時美術の最先端だった北イタリアの画家たちと初期フランドル派の画家たちに強い興味を持っていたことが窺える。他国の宮廷と比べて小規模だったウルビーノ宮廷だったがゆえに、ジョヴァンニは他国の宮廷画家たちよりも君主一家とより親密な関係を築いていたと考えられている[6]

フェデリーコ3世の後を継いでウルビーノ公爵となったのは息子のグイドバルドである。グイドバルドは、小国とはいえ当時のイタリアでもっとも音楽と芸術が盛んだったマントヴァの君主フランチェスコ2世の妹エリザベッタ・ゴンザーガと結婚した。この君主夫妻のもとでウルビーノ宮廷は、フェデリーコ3世統治時と同じく文学の中心地であり続けた。高い文化的水準を有するウルビーノ公国宮廷での生活を通じて、ラファエロは洗練されたマナーと社交的性格を身につけていったとヴァザーリは記している[7]

1504年からバルダッサーレ・カスティリオーネがウルビーノ宮廷に出仕しており、カスティリオーネは人文主義溢れるウルビーノ宮廷での生活をモデルとして、後の上流階級層の規範となる著作『宮廷人』を1528年に出版している。カスティリオーネがウルビーノ宮廷に仕えだした1504年には、すでにラファエロはウルビーノ宮廷を主たる活動の場とはしていなかったが、それでもウルビーノ宮廷にはよく顔を出しておりカスティリオーネともよき友人関係を築いた。

その他にもラファエロはウルビーノ宮廷を訪れる多くの知識人たちと親しく交わっていた。とくに著名な文学者だったベルナルド・ドヴィツィ (en:Bernardo Dovizi) とピエトロ・ベンボは、後年両者とも枢機卿に任ぜられてローマに滞在し、同じく後年ローマに移住したラファエロと親交を持ち続けた。生涯を通じてラファエロは上流階級との交際が巧みで、このことがラファエロの画家としてのキャリアが順風満帆だったと思わせる要因の一つとなっている。しかしながらラファエロは十分な人文主義的教育を受けておらず、ラファエロが上流階級の共通言語であるラテン語に不自由しなかった理由はよく分かっていない[8]
若年期ラファエロが10歳代で描いた自画像といわれている。

ラファエロの母マージアは、ラファエロが8歳の1491年に死去し、その後再婚していた父ジョヴァンニも1494年8月1日に死去している。11歳で孤児となったラファエロの後見人となったのは唯一の父方の伯父で、聖職者のバルトロメオだった。バルトロメオは後年になってからラファエロの義母に告訴されることになる人物である。

ヴァザーリの『画家・彫刻家・建築家列伝』によれば、ラファエロは幼少のころから芸術の才能を見せ、宮廷画家だった父の仕事の「大きな手助け」になるほどだった[9]。10代で描いたといわれる美しいドローイングの自画像からも、その芸術的才能の片鱗がうかがえる[10]。ジョヴァンニの死去後もその工房は続いており、おそらく義母と協力して幼少のラファエロも工房の経営に何らかの役割を果たしていた。

当時のラファエロは、ウルビーノで宮廷画家を務めたウッチェロ1397年 - 1475年)や、1498年までウルビーノに近いチッタ・ディ・カステッロで活動したシニョレッリ1445年頃 - 1523年)の絵画作品を目にする機会を得ることができた[11]

ヴァザーリの伝記では、父ジョヴァンニが「母親の嘆きを振り切って」幼いラファエロを、ウンブリア派の画家ペルジーノの工房に弟子入りさせたとなっている。ただし、この弟子入りの記録についてはヴァザーリの『画家・彫刻家・建築家列伝』が唯一のものである。母親が存命時であればラファエロは最年長だと仮定しても8歳となり、弟子入りするには8歳という年齢はあまりにも若すぎるのではないかとして、ヴァザーリの記述を疑問視する研究者もいる[12]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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