ラドン(英: radon [?re?d?n]、独: Radon [?ra?don, ra?do?n])は、原子番号86の元素。元素記号は Rn。 ラジウムに接した大気が放射性を持つということはキュリー夫妻が発見していたが、1900年になって、ドイツの物理学者フリードリヒ・エルンスト・ドルンが元素であることを発見し、アーネスト・ラザフォードとフレデリック・ソディがトリウムから発見していた放射性の気体と同一であることを示した[1]。 ドルンはこの元素を「放射」を意味する “emanation” と呼んだが、ラザフォードは “radium emanation” と呼び、ウィリアム・ラムゼーはラテン語で「光る」を意味する “nitens” にちなみ「ニトン (Niton)」と呼んだ。結局、1923年になってラジウムから生まれる気体という意味から、ラテン語の radius を語源とする “radon” とすることが化学者たちの国際機関により決定した。 ラドンは無味無臭、無色の気体であるため、人間が知覚することはできない。標準状態では単原子分子として存在しており、その密度は9.73 kg/m3と海面における大気の密度1.217 kg/m3のおよそ8倍である[2][3]。標準状態では無色であるが、-71.15 °C(202 K)の融点以下まで冷却して固体状態になると黄色から赤橙色の鮮やかな放射線ルミネセンス ラドンは価電子がゼロである貴ガス元素に属している。そのような元素は最外殻電子が閉殻であることに起因して電子が最低のエネルギー準位を形成し、安定化する。そのため、ラドンは大部分の一般的な化学反応(例えば燃焼など)に対して不活性である[6]。最外殻の電子1つを引き離すために必要な第一イオン化エネルギーは1037 kJ/mol[7]。貴ガス元素は周期表上において原子番号が大きくなるほど電気陰性度が大きくなる周期的な傾向がみられるため、貴ガス元素の中で最も原子番号の大きなラドンは貴ガス元素の中では反応性が高い。初期の研究において、ラドンの水和物の安定性は塩素 (Cl2)もしくは二酸化硫黄 (SO2)と同程度であり、硫化水素 (H2S)のそれよりはかなり高いと結論付けられている[8]。 研究コストの高さと放射能のために、ラドンの実験的な化学研究はあまり行われてこなかった。そのため、ラドン化合物の報告はフッ化物と酸化物に関するわずかな報告があるのみである。ラドンは2、3の強力な酸化剤によって酸化することができ、例えばフッ素によって二フッ化ラドンが形成される[9][10]。二フッ化ラドンは250 °C以上の温度でそれぞれの元素に分解する。低揮発性の物質でありRnF2の組成を持つと考えられているが、ラドンの半減期の短さと放射能のために詳細な性質を研究することはできていない。二フッ化ラドン分子の理論的研究によれば、Rn-F結合の結合距離は2.08 Aであり、二フッ化キセノンよりは熱力学的に安定であると予測されている[11]。よりフッ素数の多いRnF4およびRnF6の存在が主張されており[12]、それらは安定な物質であると計算されているが[13]、実際に合成されたかどうかは疑わしい[12]。例えば、八面体分子構造を取るRnF6は、二フッ化物よりも更に低いエンタルピーを有すると予測されている[14]。[ RnF ]+は以下の反応によって形成されると考えられている[15]。 Rn ( g ) + 2 [ O 2 ] + [ SbF 6 ] − ( s ) ⟶ [ RnF ] + [ Sb 2 F 11 ] − ( s ) + 2 O 2 ( g ) {\displaystyle {\ce {Rn(g) + 2[O2]^+[SbF6]^-(s) -> [RnF]^+[Sb2F11]^-(s) + 2O2(g)}}} 酸化ラドンは他の数少ない報告されているラドン化合物の一つであり[16]、三酸化物のみが確認されている[12]。カルボニルラドン (RnCO)は安定な化合物であり、直線形分子構造を取ると予測されている[17]。二原子分子であるRn2およびRnXeはスピン軌道相互作用によって著しく安定化することが分かっている[18]。
歴史
性質1908年にアーネスト・ラザフォードによって撮影されたラドンの放出スペクトル。スペクトルの横に記された数字は波長を示す。中央のスペクトルがラドンのものであり、外側の2つのスペクトルは波長を校正するために添加されたヘリウムのスペクトルである。
物理的性質
化学的性質