今日のロマンス諸語(東ロマンス語:イタリア語・ルーマニア語、西ロマンス語:フランス語・スペイン語・ポルトガル語など)は、俗ラテン語から派生した言語である。また、英語・ドイツ語・オランダ語などのゲルマン語派にも文法や語彙の面で多大な影響を与えた。
現代医学においても、解剖学用語は基本的にラテン語である。これは、かつて誰もが自由に造語して使っていた解剖学語彙を、BNA(バーゼル解剖学用語)、PNA(パリ解剖学用語)などで統一した歴史的経緯が関連している。つまり、用語の統一にラテン語が用いられたのである。そのため、日本解剖学会により刊行されている『解剖学用語』も基本的にはラテン語である(ラテン語一言語主義)。ただし、臨床の場面では、医師が患者に自国語で病状説明をするのが当然であるため、各国ともラテン語の他に自国語の解剖学専門用語が存在する(ラテン語・自国語の二言語主義)。近年では、医学系の学会や学術誌の最高峰が英語圏に集中するようになったため、英語の解剖学用語の重要性が上がった。日本では、ラテン語・英語・日本語の三言語併記の解剖学書が主流となった(ラテン語・英語・自国語の三言語主義)。
「ウイルス (virus)」など、日本語でも一部の語彙で用いられる(ただし、元の母音の長短の区別はほとんど意識されない[注釈 2])。なお、森?外の小説『ヰタ・セクスアリス』は、ラテン語の vita sexualis(性的生活)のことである。
歴史
古ラテン語詳細は「古ラテン語」を参照
ラテン語が属するイタリック語派は、インド・ヨーロッパ語族内ではケントゥム語派に分類され、インド・ヨーロッパ祖語の *k および *g はラテン語でも K, G として保たれた。イタリック語派の話者がイタリア半島に現れたのは紀元前2千年紀後半と見られており、ラテン語の話者がラティウム地方(現在のイタリア、ラツィオ州)で定住を開始したのは紀元前8世紀だった。現在発見されているラテン語の最も古い碑文は紀元前7世紀に作られたものである。この時期から紀元前2世紀頃までのラテン語は、のちの時代のラテン語と区別され古ラテン語と呼ばれる。この時代のラテン語は、語彙などの面で隣接していたエトルリア語などの影響を受けた。
古ラテン語では以下の21文字のアルファベットが使われた。下段には現在の字形を記している。これは、西方ギリシア文字・初期のエトルリア文字・古イタリア文字のアルファベットをほぼ踏襲した:
?????????????????????
ABCDEFZHIKLMNOPQRSTVX
C(Γ の異字体)は[?] の音を表した。I は [i] と [j]、V は [u] と [w] の音価を持った。五つの母音字(A, E, I, O, V)は長短両方を表したが、文字の上で長短の区別はなかった。
紀元前3世紀になると、C は [k] の音も表すことが一般化し、Kは限定使用され特定の語のみに残った。さらに、[?] の音を表す新たな文字 G が作られ、使われなかった Z の文字[注釈 3]の位置へ置き換えられた。
古ラテン語は、古典ラテン語に残る主格、呼格、属格(所有格)、与格(間接目的格)、対格(直接目的格)、奪格に加え、場所を表す所格(処格、地格、位格、依格、於格などともいう)があった。名詞の曲用では、第二変化名詞の単数与格および複数主格が -o? だった。古典ラテン語における第二変化名詞単数の語尾 -us, -um はこの時代それぞれ -os, -om だった。また、複数属格の語尾は -?sum(第二曲用)であり、これはのちに -?rum となった。このように、古ラテン語時代の末期には母音間の s が r になる「ロタシズム」という変化が起きた。 短母音、長母音、二重母音を持っていた。子音、半母音、子音連続、同一子音連続(二重子音)を持っていた。 紀元前1世紀以降、数世紀にわたって用いられたラテン語は古典ラテン語(古典期ラテン語)と呼ばれる。のちの中世、また現代において人々が学ぶ「ラテン語」は、通常この古典ラテン語のことをいう。この古典ラテン語は書き言葉であり、多くの文献が残されているが、人々が日常話していた言葉は俗ラテン語(口語ラテン語)と呼ばれる。この俗ラテン語が現代のロマンス諸語へと変化していった。 古ラテン語と同様に、scriptio continua(スクリプティオー・コンティーヌア、続け書き)といって、単語同士を分かち書きにする習慣がなかった(碑文などでは、小さな中黒のようなもので単語を区切った例もある)。アルファベットもキケロ(前106 ? 43)の時代までは X までの21文字だった。また、大文字のみを用いた。 K は KALENDAE 等の他は固有名詞に限定されて常用されることはなくなり、C が[k] の音に常用された(ただし [kw] は QV と表記した) 。C は [k]、G は [?] と発音した[注釈 4]。 紀元の初めにギリシア語起源の外来語を表記するために Y と Z[注釈 5]が追加され、アルファベットは以下の 23 文字となった: Y を含めた6つの母音字は長短両方を表したが、引き続き表記上の区別はされなかった。 古典ラテン語のアクセントは、現代ロマンス諸語に見られるような強勢アクセントではなく、現代日本語のようなピッチアクセント(高低アクセント)であったとされる(強勢アクセントとする説も存在する)。文法面では、古ラテン語の所格(処格、地格、位格、依格、於格などともいう)は一部の地名などを除いて消滅し、六つの格(主格、呼格、属格、与格、対格、奪格)が使用された。また以前の時代の語尾 -os, -om は、古典期には -us, -um となった。 現在古典ラテン語と呼ばれるものはこの時期の書き言葉である。 発音の変化が生じ、AE, OE が [a?], [??] へ、BS, BT が [ps], [pt] へ変化した(綴りは変わらない)。同じ子音が連続する二重子音は、長子音化した[注釈 6]。 この時代の話し言葉(俗ラテン語)では、文末の -s は後ろに母音が続かない限り発音されない場合があった。また au は日常では [??] と読まれた。このように古典期には、話し言葉と古風な特徴を残した書き言葉の乖離が起きていた。
発音
[v], [z] の発音はなかった。
古典ラテン語詳細は「古典ラテン語」を参照
発音・口語の変化