ラス・メニーナス
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1843年、プラド美術館のカタログに初めて『ラス・メニーナス』のタイトルで掲載されている[14]

近年『ラス・メニーナス』は、テクスチャーや色調に損傷が見られるようになってきた。汚れと、訪問する群衆への露出が原因で、「女官」の衣装の青と白の顔料も、かつては鮮明に対比していたものが弱まってきた[注釈 5]。1984年、アメリカの美術修復人ジョン・ブレアリーのもと、19世紀の補修以来溜まった埃の「黄色のベール」を取り払ったのが最新のクリーニングである。このクリーニングは激しい抗議を受けたが、芸術歴史家のフェデリコ・ゼリによれば「いかなる形であれ、絵が損傷を受けたためではなく、見た目が変化したためである」という[15][16]。しかしロペズ=レイの意見では、「修復には非の打ちどころがない」という[14]

『ラス・メニーナス』は、そのサイズ、重要性、価値のため、展示のためだけに貸し出されることはない[注釈 6]
作図
主題本文参照

『ラス・メニーナス』は、マドリードのフェリペ4世アルカサル(城)にあるベラスケスのアトリエで描かれた[18]。アトリエは非常に天井が高い部屋で、シルヴィオ・ガッジの言葉によれば「1点透視図法の格子線で区切れるような、シンプルな箱」だという[19]

前景の中央には、マルガリータ王女(1)が立っている。この時点では王女は5歳で、フェリペ4世マリアナの間に生まれた中では唯一の生き残りであり、のちに神聖ローマ皇帝レオポルト1世と結婚する[注釈 7]。王女は2人の女官にかしずかれている。お辞儀をしようとしているのがイサベル・デ・ヴェラスコ(2)、ひざまずいて金のトレイの赤いカップ(bucaro)を王女に勧めているのがマリア・アグスティナ・サルミエント・デ・ソトマイヨール(3)である[20]。王女の右側には、2人の小人がいる。軟骨無形成症のドイツ人マリア・バルボラ、通称マリバルボラ(4)[20] と、イタリア人のニコラ・ペルトサート(5)である。ニコラはふざけて、足元のマスティフ犬を起こそうとしている。彼らの後ろに立った王女のシャペロン、マルセラ・デ・ウリョーア(6)は喪服を着ており、名前不詳の目付役( guardadamas )(7)に話しかけている[20]ドン・ホセ・ニエト・ベラスケスの拡大。

後部右側には、ドン・ホセ・ニエト・ベラスケス(8)が立っている。彼は1650年代、王妃の侍従であり、王室のタピストリー工場の長でもあり、画家の親戚であった可能性もある。ニエトは右の膝を曲げ、足を別の段に置いて立ち止まっている。芸術評論家のハリエット・ストーンの言う通り、「行くところか戻るところか」は不明である[21]。ニエトはシルエットで描かれており、壁か何かをバックに、短い階段の途中でカーテンを開けているように見える。逆光や開いたドアから、その背後には別の部屋が存在しているようである。芸術歴史家のアナリザ・レッパネンによれば、その様子が「我々の視線をいやでも奥へと引きつける」のである[22]。国王夫妻の姿は鏡に映っており、反対方向すなわち絵の前方に立っている。遠近法における消失点はドア付近にあり、右の壁と天井との接線を延長することで位置を求めることができる。ニエトを視界に入れているのは王と王妃だけであり、鑑賞者は前景の人物ではなく、国王夫妻の視線を共有することになる。

ベラスケス自身の姿(9)は画面左に描かれ、イーゼルに支えられた大きなカンバス越しに、こちらを見ている[23]。彼の胸にはサンティアゴ騎士団の赤い十字があるが、彼がそれを受けたのは1659年のことであり、絵の完成の3年後のことである。パロミーノによれば、ベラスケスの死後、描き加えるようフェリペ王が命じたもので「王自身が描いたと考える者もいる」という[24]。画家のベルトには、彼の王宮のアトリエの鍵が象徴化して描かれている[25]

背後の壁の鏡に上半身が映っている2人は、他の絵画やパロミーノの記述から、フェリペ4世(10)と王妃マリアナ(11)だと確認されている。一般的には、ベラスケスは国王夫妻の肖像を描いているところで、鏡に映った夫妻の像は絵のポーズをとっているところ、そして夫妻の娘がそれを見ているところ、と仮定されている。つまり『ラス・メニーナス』は、国王夫妻からの視線で描かれているのである。背後の壁にかかった鏡の拡大。

描かれた9人の像のうち、国王夫妻もしくは鑑賞者の視線から直接見えているのは5人である。彼らの視線や国王夫妻の鏡像から、国王夫妻がいるのは、作品に描かれた空間の外側だと考えられる[21]。それとは別に、芸術歴史家のH.W.ジャンソンは国王夫妻の像は、ベラスケスの描くカンバスが鏡に映ったものだと考えている。ただしカンバスの正面は、観賞者側からは見えない[26]。他の論評家には、ベラスケスが制作中のカンバスは、彼の描いた肖像には大きすぎるが、『ラス・メニーナス』の大きさと同じくらいだと考える人もある。ベラスケスが描いた国王夫妻の肖像のうち、2人一緒に描かれたものとしては、知られる限り『ラス・メニーナス』が唯一である[27]

鑑賞者の視線は、国王夫妻のものとほぼ重なると思われるが、この点については広く論議の的になってきた。国王夫妻が揃って肖像画のために絵のポーズをとっている際の、2人の視線に基づいて描かれた場面であり、王女やその女官たちは夫妻の退屈を軽減しようとしているのだと、多くの批評家は考えている[28]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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