ラクダ
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しかし遺伝子解析による分析では、ラクダ亜目は偶蹄目の中でもかなり早い時期にイノシシ亜目とウシ亜目の共通祖先と分岐しており、同じように反芻をするウシヒツジヤギなどは、ラクダ科よりもむしろイノシシ科カバ科クジラ目の方に近縁であることが明らかになっている。

ラクダの(ひづめ)は小さく、指は2本で、5本あったうちの中指と薬指が残ったものである。退化した蹄に代わり、脚の裏は皮膚組織が膨らんでクッション状に発達している。これは歩行時に地面に対する圧力を分散させて、脚が砂にめり込まないようにするための構造で、雪上靴やかんじきと同じ役割を持つ。砂地においては、蹄よりもこちらの構造が適しているのである。
酷暑・乾燥に耐える生理機構

ラクダの酷暑や乾燥に対する強い耐久力については様々に言われてきた。特に、長期間にわたって水を飲まずに行動できる点については昔から驚異の的であり、「背中のコブに水を蓄えている」という思い込みもそこから出たものである。体内に水を貯蔵する特別な袋があるとも、胃に蓄えているのだとも考えられたが、いずれも研究の結果否定された。

実際には、ラクダは血液中に水分を蓄えていることがわかっている。ラクダは一度に80リットル、最高で136リットルもの水を飲むが、その水は血液中に吸収され、大量の水分を含んだ血液が循環する。ラクダ以外の哺乳類では、血液中に水分が多すぎるとその水が赤血球中に浸透し、その圧力で赤血球が破裂してしまう(溶血)が、ラクダでは水分を吸収して2倍にも膨れ上がっても破裂しない。また、水の摂取しにくい環境では、通常は34-38度の体温を40度くらいに上げて、極力水分の排泄を防ぐ。もちろん尿の量も最小限にするため、濃度がかなり高い。また、人間の場合は体重の1割程度の水が失われると生命に危険が及ぶが、ラクダは4割が失われても生命を維持できる。そのかわり、渇いた時には一気に大量の水を飲むので、ラクダの群れに水を与えるには非常に大量の水を必要とすることとなる。野生種のフタコブラクダは、海水よりも塩分の強い水を補給する事のできる唯一の哺乳類だとされている。

ラクダは乾燥地帯の気候に順応しているが、湿潤環境には弱い。日本のような高温多湿の環境では熱中症となった事例もある[14]。足が湿地帯を移動するようにできておらず、傷めることが多い[15]。また湿潤環境に多く発生する疫病に対して抵抗力がない。アフリカ大陸においてはニジェール川が最も砂漠に近くなるニジェール川大湾曲部のトンブクトゥあたりが南限であり、これ以南では荷役動物がロバへと変わる。
牧畜

ラクダは乾燥地帯において主に飼育される家畜の一つである。もっとも、遊牧においてラクダのみを飼育することは非常に少なく、ヒツジヤギウシなどといった乾燥地域にやや適応した他の家畜と組み合わせて飼育されることが一般的である。これは、飢饉や疫病などによって所有する家畜が大打撃を受けた時のリスク軽減のためである。また、ラクダは繁殖が遅く増やすのが難しい。オスは6歳にならないと交尾が可能とならず、発情期は年に1回しかない[16]。メスも他の家畜と比較して成熟に多くの時間が必要であり、妊娠期間は12ヶ月近くに及ぶ[16]

反面、寿命は約30年と長く、乾燥に強いために旱魃の際にも他の家畜に比べて打撃を受けにくい。このため、ヒツジやヤギが可処分所得として短期取引用に使用されるのに対し、ラクダは資産形成など長期の取引のために飼養される[17]。一方、ラクダとヤギやウシを同じ群れとして放牧すると食物を巡って争いを起こしやすいため、ラクダの群れはほかの動物と分けて放牧するのが通例である。
野生における個体群

ラクダ科の祖先はもともと北アメリカ大陸で進化したものであり、200万年から300万年前に陸橋化していたベーリング海峡ベーリング地峡)を通ってユーラシア大陸へと移動し、ここで現在のラクダへと進化した。北アメリカ大陸のラクダ科は絶滅したが、パナマ地峡を通って南アメリカ大陸へと移動したグループは生き残り、現在でもリャマアルパカビクーニャグアナコの近縁4種が生き残っている。

ヒトコブラクダとフタコブラクダの家畜化はおそらくそれぞれ独立に行われたと考えられている。ヒトコブラクダが家畜化された年代については紀元前2000年以前、紀元前4000年、紀元前1300 - 1400年などの諸説がある。おそらくはアラビアで行われ、そこから北アフリカ東アフリカなどへと広がった。フタコブラクダはおそらく紀元前2500年頃、イラン北部からトルキスタン南西部にかけての地域で家畜化され、そこからイラクインド、中国へと広がったものと推測されている[18]
ヒトコブラクダ

ヒトコブラクダの個体群はほぼ完全に家畜個体群に飲み込まれたため、野生個体群は絶滅した。ただ、辛うじてオーストラリアで二次的に野生化した個体群から、野生のヒトコブラクダの生態のありさまを垣間見ることができる。また、2001年には中国の奥地にて1000頭のヒトコブラクダ野生個体群が発見された。塩水とアルカリ土壌に棲息していること以外の詳細は不明で、遺伝子解析などは調査中である。この個体群についても、二次的に野生化したものと推測されている。したがって、純粋な意味での野生のヒトコブラクダは絶滅した、という見解は崩されずにいる。
フタコブラクダ

野生のフタコブラクダの個体数は、世界中で約1000頭しかいないとされている[19][20]。このため、野生のフタコブラクダは2002年に、国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定され、レッドデータリストに掲載されている。
生息域

2010年には全世界で1400万頭のラクダが生息しており、その90%がヒトコブラクダであった。ヒトコブラクダとフタコブラクダの生息域は一部では重なり合うものの、基本的には違う地域に生息している。

ヒトコブラクダは西アジア原産であり、現在でもインドやインダス川流域から西の中央アジア、イランなどの西アジア全域、アラビア半島、北アフリカ、東アフリカを中心に分布している。中でも、特にアフリカの角地域では現在でも遊牧生活においてラクダが重要な役割を果たしており、世界最大のラクダ飼育地域となっている[21]。世界で最大のラクダ飼育頭数を誇るソマリア[22]や、エチオピアにおいてラクダは現在でも乳、肉、移動手段を提供し続けている[23][24][25][26]

フタコブラクダは中央アジア原産である。トルコ以東、イランやカスピ海沿岸、中央アジア、新疆ウイグル自治区モンゴル高原付近にまで生息している。頭数は140万頭程度で、ラクダのうちの10%程度である[27][28][29]。家畜として飼育する場合は通常どちらかの種しか飼育しないが、両種の雑種は大型となるため荷役用として価値が高く、中央アジアでは両種をともに飼育して常に雑種を生み出し続けるようにしていた(後述)。

また、ヒトコブラクダは砂漠の広がるオーストラリアに人為的に持ち込まれ、現在では野生化して繁殖している[30]。植民地としてオーストラリア内陸への入植を進めたイギリスが、同じく英領であったインドやパキスタン、その北隣のアフガニスタンから、約2万頭のラクダと約2000人のラクダ使いを送り込んだ。オーストラリア大陸鉄道自動車が普及し、ラクダの必要性が低下した。当局から殺処分を求められたラクダ使いは、ラクダを野に放った[31]。こうして、ラクダの個体群は19世紀から20世紀にかけて持ち込まれたものが野生化した。オーストラリア中央部の砂漠地帯にかつては約70万頭が生息していた[32][28][33]。この数字は年間8%ずつ増大した[34]。この野生ラクダはオーストラリアで盛んなヒツジの牧畜用の資源を荒らすため、オーストラリア政府は10万頭以上を駆除している[35]。その結果、2018年時点で約30万頭が残っている。一方で、輸送用ではなくラクダ乳を入手を目的とした牧場も運営されている[31](「食用」も参照)。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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