ヨーゼフ・シュンペーター
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すなわちイノベーションを行う起業者が銀行から信用貸出を受け、それに伴い銀行システムで通貨が創造されるという信用創造の過程を重視した。貨幣や信用を実体経済を包むだけの名目上の存在とみなす古典派の貨幣ヴェール観と対照的である。

「銀行家は単に購買力という商品の仲介商人なのではなく、またこれを第一義とするのではなく、なによりもこの商品の生産者である。……彼は新結合の遂行を可能にし、いわば国民経済の名において新結合を遂行する全権能を与える」とシュンペーターは語っている。
景気循環

シュンペーターによれば、起業者が銀行からの借入を受けてイノベーションを実行すると、経済は撹乱される。そして、その不均衡の拡大こそが、好況の過程である。そして、イノベーションがもたらした新しい状況では、独占利潤を手にした先行企業に対して、後続企業がそれに追従することで、信用収縮(銀行への返済)が起こり、それによって徐々に経済が均衡化していくことで、不況になるとした。なお、これは、初期の『経済発展の理論』における基本的な見方であり、後の大著『景気循環の理論』では、景気循環の過程がより緻密に考察されている。
資本主義・社会主義

シュンペーターは、社会学的アプローチによる研究も行っている。この分野の主著である『資本主義・社会主義・民主主義』では、経済が静止状態にある社会においては、独創性あるエリートは、官庁化した企業より、未開拓の社会福祉や公共経済の分野に革新の機会を求めるべきであるとした。そして、イノベーションの理論を軸にして、経済活動における新陳代謝を創造的破壊という言葉で表現した。また、資本主義は、成功ゆえに巨大企業を生み出し、それが官僚的になって活力を失い、社会主義へ移行していく、という理論を提示した。マーガレット・サッチャーは、イギリスがこのシュンペーターの理論の通りにならないよう常に警戒しながら政権を運営をしていたといわれている。

また、シュンペーターは、カール・マルクスを評価していた。『経済発展の理論』[3]日本語訳(1937年)に寄せられた「日本語版への序文」では、「自分の考えや目的がマルクスの経済学を基礎にしてあるものだとは、はじめ気づかなかった」「マルクスが資本主義発展は資本主義社会の基礎を破壊するということを主張するにとどまるかぎり、なおその結論は真理たるを失わないであろう。私はそう確信する」と述べている。

ほか、経済学史家としても仕事をしており、初期に『経済学史』を著し、晩年に大著『経済分析の歴史』を執筆、没後に遺稿を元に出版されている。
人物

日本でのシュンペーター評価の高さは、その門人の高名さ、翻訳の多さ、そして著作での言及・引用の多さにも負う。シュンペーター門下の日本人経済学者としては、ボン大学時代の留学生である中山伊知郎東畑精一、同じくハーバード大学時代の柴田敬都留重人などがいる。なお、伊東光晴によると、「日本の経済学者でシュンペーターのもとを訪れた者のうち、シュンペーター自身が、来る前から異常に高く評価したのは柴田敬であり、来た後に高く評価したのが都留重人であって、これ以外の人についてはほとんど評価していない」とされている[4]

小室直樹は、シュンペーターの業績は経済学界ではさほど継承されておらず、むしろ経営学によって、その発想や視点が旺盛に摂取されていると述べている[5]。また小室は、シュンペーター自身は数学は得意ではなく、弟子のポール・サミュエルソンの数学の講義を聴いて勉強したと書いている[6]
主な著作

Wesen und Hauptinhalt der theoretischen Nationalokonomie, 1908
『理論経済学の本質と主要内容』
大野忠男安井琢磨木村健康訳(岩波文庫、1983年 全2巻)

Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung, 1912
『経済発展の理論(ドイツ語版) : 企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究』 塩野谷祐一中山伊知郎東畑精一訳(岩波文庫、1979年 全3巻)『経済発展の理論』八木紀一郎・荒木詳二訳(日経BP、2020年)

"Epochen der Dogmen-und Methodengeschichte",Wirtschaft und Wirtschaftwissenschaft, p19-124, 1914
『経済学史 : 学説ならびに方法の諸段階』中山伊知郎・東畑精一訳 (岩波文庫、1980年)

Die Krise des Steuerstaats, 1918
『租税国家の危機』木村元一・小谷義次訳(岩波文庫、1983年)

Business Cycles, 1939
『景気循環論 : 資本主義過程の理論的・歴史的・統計的分析』 金融経済研究所訳(有斐閣 全5巻)

Capitalism, Socialism, and Democracy, 1942
資本主義・社会主義・民主主義』中山伊知郎・東畑精一訳(東洋経済新報社)『資本主義、社会主義、民主主義』大野一訳(日経BPクラシックス、2016年 全2巻)

Schumpeter, Joseph A. (1951). Ten great economists: from Marx to Keynes. New York Oxford: Oxford University Press. .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}OCLC 166951 

『十大経済学者:マルクスからケインズまで』中山伊知郎訳 東畑精一 監修.日本評論社、1952年



History of Economic Analysis, 1954
『経済分析の歴史』東畑精一・福岡正夫訳(岩波書店、2005年・2006年 全3巻)

論文選集
『帝国主義と社会階級』都留重人編訳(岩波書店、1956年)『景気循環分析への歴史的接近』金指基編訳(八朔社、1991年)『企業家とは何か』清成忠男編訳(東洋経済新報社、1998年)『資本主義は生きのびるか 経済社会学論集』八木紀一郎編訳(名古屋大学出版会、2001年)
関連書籍

伊東光晴根井雅弘『シュンペーター』(岩波新書、1993年)

根井雅弘『シュンペーター』(講談社学術文庫、2006年。シュンペーターの評伝)

金指基『J・A・シュムペーターの経済学』新評論(1979年)

脚注[脚注の使い方]
注釈^ フランス語で「請負人」「請負業者」
^ 新しく事業を起こそうとする者、起業をする者のこと。明治20年(1887)の「官吏服務紀律」9条に「官庁の補助金を受くる起業者」との表現がある。精選版日本語大辞典「起業者」[1]。また土地収用法によれば起業者とは「不動産や権利を収容もしくは使用することを必要とする公共の利益となる事業を行う者。法律に定める公益事業を行う者は、私人も起業者となりうる」。ブリタニカ国際大百科事典小項目辞典「起業者」[2]

出典^Joseph Alois Schumpeter (FORVO)
^ 馬場宏二 (2003). “"経済成長" の初出”. 大東文化大学経済学会経済論集 81: 79-87. 
^ 「シュムペーター経済発展の理論」1937年、中山伊知郎、東畑精一共訳、岩波書店
^ 宮崎義一、伊東光晴「忘れられた経済学者・柴田敬」経済評論53/8月号
^ 小室直樹 『経済学をめぐる巨匠たち』 ダイヤモンド社、2004年、170頁
^ 小室直樹 『経済学をめぐる巨匠たち』 ダイヤモンド社、2004年、217頁

関連項目

山下舜平大 - 彼に因んで命名された。

外部リンク

めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編
- ダイヤモンド・オンライン


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