ヤマト王権
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すなわち、白石によれば、1?3に加えて、(4)大和川水系(大和と河内)という意味も包括的に扱えるのでカタカナ表記の「ヤマト」を用いるということである。

一方、関和彦は、「大和」表記は8世紀からであり、それ以前は「倭」「大倭」と表記されていたので、4?5世紀の政権を表現するのは「倭王権」「大倭王権」が適切であるが、両者の表記の混乱を防ぐため「ヤマト」表記が妥当だとしている[7]。一方、上述の武光のように「大和」表記を使用する研究者もいる[8]

武光によれば、古代人は三輪山の麓一帯を「大和(やまと)」と呼び、これは奈良盆地の飛鳥斑鳩といったほかの地域と区別された呼称で、今日のように奈良県全体を「大和」と呼ぶ用語法は 7世紀にならないと出現しなかったとする。纒向遺跡を大和朝廷発祥の地と考える武光は、纒向一帯を「古代都市『大和』」と呼んでいる[8]
「朝廷」をめぐって「朝廷」も参照

朝廷」の語については、天子朝政などの政務や朝儀と総称される儀式をおこなう政庁が原義であり、転じて、天子を中心とする官僚組織をともなった中央集権的な政府および政権を意味するところから、君主号として「天子」もしくは「天皇」号が成立せず、また諸官制の整わない状況において「朝廷」の用語を用いるのは不適切であるという指摘がある。たとえば関和彦は、「朝廷」を「天皇の政治の場」と定義し、4世紀5世紀の政権を「大和朝廷」と呼ぶことは不適切であると主張し[7]、鬼頭清明もまた、一般向け書物のなかで磐井の乱当時の近畿には複数の王朝が併立することも考えられ、また、継体朝以前は「天皇家の直接的祖先にあたる大和朝廷と無関係の場合も考えられる」として、「大和朝廷」の語は継体天皇以後の6世紀からに限って用いるべきと説明している[12]
「国家」「政権」「王権」「朝廷」「国家」、「政権」、および「王権」も参照

関和彦はまた、「天皇の政治の場」である「朝廷」に対し、「王権」は「王の政治的権力」、「政権」は「超歴史的な政治権力」、「国家」は「それらを包括する権力構造全体」と定義している[7]。語の包含関係としては、朝廷⊂王権⊂政権⊂国家という図式を提示しているが、しかし、一部には「朝廷」を「国家」という意味で使用する例[13]があり、混乱もあることを指摘している[7]
用語「ヤマト王権」について

古代史学者の山尾幸久は、「ヤマト王権」について、「4,5世紀の近畿中枢地に成立した王の権力組織を指し、『古事記』『日本書紀』の天皇系譜ではほぼ崇神から雄略までに相当すると見られている」と説明している[14]

山尾はまた別書で「王権」を、「王の臣僚として結集した特権集団の共同組織」が「王への従属者群の支配を分掌し、王を頂点の権威とした種族」の「序列的統合の中心であろうとする権力の組織体」と定義し、それは「古墳時代にはっきり現れた」としている[15]。いっぽう、白石太一郎は、「ヤマトの政治勢力を中心に形成された北と南をのぞく日本列島各地の政治勢力の連合体」「広域の政治連合」を「ヤマト政権」と呼称し、「畿内の首長連合の盟主であり、また日本列島各地の政治勢力の連合体であったヤマト政権の盟主でもあった畿内の王権」を「ヤマト王権」と呼称して、両者を区別している[16]

また、山尾によれば、

190年代-260年代 王権の胎動期。

270年頃-370年頃 初期王権時代。

370年頃-490年頃 王権の完成時代。続いて王権による種族の統合(490年代から)、さらに初期国家の建設(530年頃から)

という時代区分をおこなっている[15]

この用語は、1962年昭和37年)に石母田正が『岩波講座日本歴史』のなかで使用して以来、古墳時代の政治権力・政治組織の意味で広く使用され、時代区分の概念としても用いられているが、必ずしも厳密に規定されているとはいえず、語の使用についての共通認識があるとはいえない[14]
分子生物学による男系遺伝子の系統

分子生物学の解析によれば、Y染色体ハプログループD-Z1500の変異(一塩基多型)を持つ男性が、辛酉年にあたる紀元1年[17]頃発生している[18]。この変異はその男性の男系子孫に受け継がれ西暦100年頃にD-1504の変異を起こした[18]。さらにD-1504の男系子孫が西暦200年頃にD-CTS8093の変異を起こしたが、この変異を持つ男性の男系子孫は日本列島の各地に拡散しており、現在の日本人男性の約10%を占めている[19]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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