『エルの伝説』などの電子音楽は全面的にグラフで作曲しており、これは同郷のアネスティス・ロゴテーティスの影響が大きいが、器楽曲や声楽曲は定量記譜で常に作曲していた。例外に打楽器ソロのための『サッファ』があるが、これは大きな問題になり、世界中の打楽器奏者はこれをすべて五線紙に直して演奏したため、クセナキスも後年にはすべて五線紙に戻っている。 ブラウン運動からヒントを得た「非合理時価を互い違いにかける」アイデアは、メシアンが実現させたアイデアだったが、メシアンが単なる付随効果として使用したのとは対照的に、クセナキスはオーケストラの全声部に適用させて数十段でやるという技法を手にし、これらのアイデアで1980年代の作品は、音楽的密度も潤うことになった。音色が単一である場合は複雑性が知覚の限界を超えてしまうために解りづらいが、オーケストラ作品では複数の楽器に明け渡されるために、可聴域の限界を超えた音色が展開される。このため録音が非常に困難であり、オーケストラ作品の音源定期リリースは、没後にハイレゾの音響設備を備えたスタジオが整備されるまで長らく行えなかった。挑戦性も顕著で、四声部で書かれた『ミスツ』をピアニストのロジャー・ウッドワードにクリアされたことが分かると、ピアノ協奏曲『ケクロプス』では六声部を要求し、彼の手でもクリア出来るか分からない、手に余る結果となった。 中期以降は聴覚的に平易な瞬間が増えるにもかかわらず、演奏が容易ではないために、批判者を生み出すことになった[7]が、出来る限りクセナキスの意思に忠実なコンピュータリアライズで、正確に全ての音符を打ち込んだCDもリリースされている。 最晩年までグラフを用いた硬派の作曲法は手放さなかったが、ランダム出現がなされる音の時間については16分音符のグリッドをあらかじめ書いておいてから、そのなかに音符を目分量で入れる、といった技法も多くの作品で使われている。 活動末期にはアルツハイマー病に罹患し、徐々に脳を蝕まれると共に作曲能力も衰えて行った。しかし、本人は作曲を継続した。アルツハイマー病に苦しんでいた彼は「どこから作曲したか完全に忘れる」ことが多くなったため、前作の素材を切り取り次の作品に生かす「再作曲」を1990年代に入ってから行っていた。『キアニア』では、『ホロス』[8]や『アケア』等の自作が再利用されている。1990年代に入ってからはリズムの単純化がいっそう顕著になり、また作品の時間が徐々に短くなり始めた。ドナウエッシンゲン音楽祭の新作には大きな賛辞が飛んだが、舞台上には現れず客席で会釈したのみであった。晩年の管弦楽曲では、自身の持ち味であった数学的な規則性の応用どころか、過去の自作曲すら全く再利用しておらず、トーン・クラスターによる音高の羅列しか使用しなくなっていた。1997年には遂に作曲能力の低下が限界に達し、「オメガ」と名付けた作品を発表して自身の音楽活動に終止符を打った。1999年に「音楽に全く未知の領域を切り開いた、類い稀なる業績」を祝してポーラ音楽賞を受賞したが、2年後の2001年の2月1日から昏睡状態に移行し、その3日後に死去した。 翻訳された書籍を含まない。
後期
晩年
主要作品詳細は「クセナキスの楽曲一覧」を参照
管弦楽
メタスタシス
ピソプラクタ
ノモス・ガムマ
テレテクトール
シナファイ(ピアノとオーケストラのための)
エリフトン(ピアノとオーケストラのための)
ジョンシェ
フレグラ
ジャロン
タレイン
室内楽
ST/4(弦楽四重奏)
エオンタ(ピアノ、2トランペット、3トロンボーン)
ペルセファッサ(6人の打楽器奏者)
プレイアデス(6人の打楽器奏者)
テトラス(弦楽四重奏)
ヴィンドゥンゲン(12人のチェロ奏者)
独奏曲
ヘルマ(ピアノ)
ノモス・アルファ(チェロ)
エヴリアリ(ピアノ)
ミッカ(ヴァイオリン)
グメーオール(オルガン)
プサッファ(打楽器)
ルボン(打楽器)
A.r(ピアノ)
ケレン(トロンボーン)
声楽曲
ポラ・タ・ディナ(児童合唱、管楽器、打楽器)
オレステイア(混声合唱、児童合唱、12奏者)
夜(12人の混声合唱)
サンドレ(混声合唱、管弦楽)
アカントス(ソプラノ、器楽アンサンブル)
モーリスのために(バリトン、ピアノ)
テープ音楽
東洋―西洋
響き―花―間
ペルセポリス
エルの伝説
電子音楽作品
ミケーネ・アルファ
クリュニーのポリトープ
著書
本人によるもの
musiques formelles = Revue Musicale n°253-254, 1963, 232 p. Reedition : Paris, Stock, 1981, 261 p. 『フォーマライズド・ミュージック』[9]
musique architecture, Tournai, Casterman, 1971, 176 p. Nouvelle edition, augmentee : Tournai, Casterman, 1976, 238 p. 『音楽建築』[10]
arts/sciences alliages, Tournai, Casterman, 1979, 152 p. 『芸術/科学 合金』[11]
本人の文章を他者が編集したもの
Keleutha, textes reunis par Alain Galliari, preface et notes de Benoit Gibson, Paris, L'Arche, 1994, 143 p.『Keleutha』[12]
Musique et originalite, Paris, Seguier, 1996, 58 p.『音楽と独創』[13]
対談集
Varga, Balint Andras. - Conversations with Iannis Xenakis, London, Faber and Faber, 1996, 255p.『クセナキスとの会話』
関連項目