ヤギの家畜化の歴史は、ヒツジの家畜化の歴史と同じくらいに古く、(2007年時点における)ほとんどの考古学者が、前9千年紀半ば(PPNB前期(英語版))に南東アナトリアのタウルス山脈南麓で、ヤギの家畜化が始まったと考えている[17]。ヤギの家畜化の動機は、食用肉、乳、毛や毛皮、燃料のための獣糞の取得にあったと考えられ、その他に、実証は難しいが犠牲祭祀目的も有力である[17]。
なお、ヤギ家畜化の中心地については、タウルス山脈南麓説のほかには、中心地が複数にあったとする説もあり、具体的には家畜ヤギの祖先種である野生のヤギ(Capra aegagrus)の生息域であるザグロス山脈西部が挙げられている[17]。しかしながら、在地の Capra aegagrus が分布しているコーカサスですら、タウルス山脈南麓かザグロス山脈西部で家畜化された家畜ヤギが前8千年紀に人為的に移入されたことが、分子生物学的手法に基づく研究により示されている[18]。また、20世紀後半時点では、考古時代のイラン高原におけるヤギ飼育については組織的な研究がなされていない現状がある[19]。
西アジア各地の遺跡から出土した、古代の人類がゴミとして捨てたヤギの骨の調査に基づくと、ヤギ肉の消費量は、PPNB後期初頭(前7,500?前7,300年頃)までは、家畜ヤギより野生ヤギの方が多かった[17]。それでもヤギの家畜化は進展し、PPNB後期末(前7,000年頃)になると、本来は野生ヤギのいなかった地域にまで、東西は地中海沿岸からザグロス山脈まで、南北はタウルス山脈からネゲヴ地方まで広がる西アジアに広がった[17]。
イラン高原では、前7,000年頃にヤギを組織的に繁殖させていた痕跡を示す遺跡が非常に多く見つかっている[19]。ユーラシア大陸の東半分への、イラン高原からの家畜ヤギの拡散ルートは、シルクロード経由で北アジア、モンゴル高原へいたるルートと、ハイバル峠経由でインド亜大陸へいたるルートの2ルートがあったとする説が一般的である[20]。西アジアを除くアジア各地の在来種(近代以後に移入された品種ではない種)は、遺伝距離(英語版)に基づいてモンゴルのグループ、その他の東アジアのクラスタ、南・東南アジアのグループの3系統に分けることができ、遺伝的多様性も内陸部から沿岸・島嶼部へ行くにしたがって失われていく傾向が見られ、通説は分子生物学的観点とも矛盾しない[20][21]。
利用山羊刺し。奄美大島の山羊汁。山羊の乳しぼり。
ヤギ肉詳細は「ヤギ肉」を参照
ヤギ肉は、牧畜を行う地域ではおおむねポピュラーな食肉で、羊肉と区別されずラム・マトンとして利用されることも多い。東南アジアでは煮込み(山羊汁)が普通で、ローストなどは一部特殊種類の山羊だけに見られる調理法である。南アジアではカレーに使われる。ベトナムでは薄切りにして炒め物にしたり、焼肉にしたり、鍋料理にされる。中華人民共和国では、雲南省、広西チワン族自治区などで一般的で、毛が黒い「黒山羊」を鍋料理やスープにすることが多い。台湾では元代から飼育の記録があり、屋台や専門店で出されている薬膳羊肉という煮込み料理に黒山羊などの肉を使う店もある。地中海沿岸でも骨を煮てスープを取ることが行われる。ヤギ肉には独特の臭気があり、南アジアのエスニック料理ではにおい消しのため香辛料が発達した。
日本においては、南西諸島以外ではあまり馴染みがないが、沖縄県ではヤギは沖縄本島等でヒージャー、宮古島でピンザ、多良間島でピンダと呼ばれ、郷土料理である沖縄料理に一般的に用いられ、汁物(山羊汁)や刺身(山羊刺し)として食べられる。特に睾丸の刺身は珍重される。沖縄と同様に鹿児島県の奄美料理(奄美地方の奄美大島、徳之島、喜界島など)やトカラ列島などでも年越しや祝いの席の御馳走として振る舞われる。喜界島には、ヤギ汁や刺身の他にヤギ肉を血液、野菜とともに炒める「からじゅうり(唐料理)」という炒め物がある。
沖縄のヤギ汁は馴れない者は受けつけないほどの強烈な臭みがあり、臭み消しに大量のヨモギ(ふーちばー)等を入れるが、徳之島や喜界島の島ヤギは臭みが少なく、臭み消しを大量に使う必要がないといわれる。なお、奄美大島の北部や徳之島では現在ヤギと呼び、喜界島ではヤジーと呼ぶが、江戸時代にはヒンジャ、ヒンザなどと呼ばれており[22]、奄美大島南部の瀬戸内町を中心にまだこの呼び方が残っている。
ヤギ乳と乳加工品「en:List of goat milk cheeses」および「ヤギ乳のチーズ一覧」も参照
ヤギ乳は、10か月の授乳期間中の最盛期(たいていは四期間中の第三期)で、平均2.7?3.6キログラム(約2.8?3.8リットル)、泌乳初期は多く生産され、終り頃になると少なくなる。乳脂肪は平均 3.5% である[23]。
バターやチーズ、ヨーグルトなどにも加工されるが、ヤギ乳は牛乳アレルギーのある人の代替飲料として好んで用いられていた。また、牛乳よりも乳糖が少なく、消化性に優れ、芳醇な風味もあるため、アレルギーのいかんにかかわらず好む人は多い。同様に乳糖を分解しづらい多くの犬、猫、その他ペット用に、ヤギミルクが販売されている。
牧民はヤギの乳を様々に加工して用いる。ヤギ乳のチーズはシェーヴルチーズと呼び、白色で軽い食感をもち、軽い酸味と特有の香りをもつものが多い。フランスのクロタン(Crotin de Chavignol)、ピコドン(Picodon de l'Ardeche)などが有名。
風味を生かしたアイスクリームなども製造されている。また、アトピー性皮膚炎にも有効といわれている。アメリカ合衆国では、 ⇒メイヤンバーグ社がヤギのミルクや粉ミルクを広く流通させており、米国内の大手のスーパーでは大抵手に入る(粉ミルクは日本の輸入雑貨店でも売られている)。
太平洋戦争中は、牛に比べて大きさが手頃なことから、日本でも多くの民家でヤギの飼育が行われ、食肉やミルクの供給源となった。しかし、敗戦後はGHQの指導によりヤギ乳に代わって牛乳が普及したために、日本国内における現在の生のヤギ乳の生産高は少ない。
栄養についての注意
米国小児科学会は、ヤギ由来の乳児用ミルクを止めさせている。2010年4月のレポート「乳幼児用の新鮮なヤギ乳:神話と現実」の勧告を要約すると、「文化的な信念やネットの誤った情報で、多くの乳児に良いと考えられているが、殺菌消毒されていない生のヤギミルクは、生命を脅かすアレルギー反応、溶血性尿毒症症候群、感染症などを引き起こす可能性がある。」と報告している。未治療のヤギ・ブルセラ症の死亡率は2%とされる。またアメリカ合衆国農務省によると、含まれる鉄分、ビタミンC、ビタミンD、チアミン、ナイアシン、ビタミンB6、およびパントテン酸が乳幼児の栄養ニーズの量と合致せず、腎臓に害を与え、代謝障害や重度の貧血と高ナトリウム血症を引き起こす可能性があるため推奨していない[24][25]。英国保健省[26]、カナダ保健省[27]も、生のヤギ乳を乳幼児へ与える事への危惧を勧告している。