モーツァルト家の大旅行
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ヴォルフガングが猩紅熱にかかったことで演奏予定をこなすことが出来なくなり、彼らの活動量は元には戻らなかった。にもかかわらず、この旅行でレオポルトは将来の社会的、金銭的成功を熱心に追い求めることになるのである[13]。ザルツブルクへと戻るや否や、ヴォルフガングは大司教の誕生記念演奏会でハープシコードとヴァイオリンの演奏を披露しており、出席者を驚かせた[14]
大旅行
準備期間レオポルト・モーツァルト 1765年頃

旅行を終えたレオポルトは、友人で地主のローレンツ・ハーゲナウアー(Lorenz Hagenauer 1712年-1792年)に宛てた手紙の中で、ドイツの外交官フリードリヒ・メルヒオール[注 2]が子どもたちの演奏を聴いた後で発した言葉を引用している。「今、私は生涯で1度の奇跡を目の当たりにした。こんなことは初めてだ[15]。」レオポルトはこの奇跡を世界中に知らしめることが自らの使命であり、さもなくば自分が「最も恩知らずな生き物」となるだろうと信じていた[15]。モーツァルトの伝記作家であるヴォルフガング・ヒルデスハイマーは、少なくともヴォルフガングについてはこの思惑は時期尚早であったと考えている。「父が息子を数年間にわたって西ヨーロッパ中引きずり回すには早過ぎる。絶え間ない環境の変化によってたくましい子どもでさえも消耗し尽くしてしまったのではないか(後略)[16]。」ところが、ヴォルフガングがこのように幼少期に酷使されて肉体的に傷ついた、もしくは音楽的に遅れを生じことを示す証拠はわずかしかない。彼は初めからこの挑戦に耐えられると感じていたかのようである[17]

レオポルトは可能な限りすぐに演奏旅行を開始したいと考えていた。子どもたちが幼ければ幼いほど、彼らの才能がもたらす衝撃は大きなものとなるからである[15]。彼は計画した旅程の中で南ドイツ、ネーデルラント、パリ、スイスと可能であれば北イタリアを回りたいと考えていた。ロンドンへの旅はパリ滞在中に急かされて追加されたものであり、ネーデルラントへの寄り道は計画外の遠回りであった[15][18]。行程表は文化の大中心地と、できるだけ多くヨーロッパの豪華な宮殿を含むように立てられた。レオポルトは自らのプロの音楽家としての情報網と、宮殿からの招待を受けられるように新しく築いた縁故を頼りにしていた。実際的な援助はハーゲナウアーによるもので、主要都市における彼の交易上の繋がりがモーツァルト一家にとって有効な資金調達元となった[13]。これらがあったおかげで、一家は演奏によって得られる収入が貯まるまでの間、旅行の途上で資金を得ることができたのである[19]

ヴォルフガングは旅行に向けた準備として、ヴァイオリンの技量を完成させていた。彼は全く誰からも指導を受けずにヴァイオリンの演奏法を習得したようである[20]。より一般的な準備と言えば、2人の子どもが一緒に演奏して歓心を買うことであり、彼らはこの特技を失うことはなかった[21]。旅行中はどれだけ忙しい日であっても彼らが毎日の練習を欠かすことはなく、過酷な日程に忙殺されつつも成長を遂げていった[22]。旅行を始めるためには、レオポルトは雇い主である領主司教の許可を得ねばならなかった。レオポルトは1763年1月にカペルマイスター代理に就任したばかりであったが、それでも領主司教から長期休暇の許可を取り付けることができた。こうした土台があって、モーツァルト家の成功がザルツブルクとその領主、そして神に栄光をもたらすことになる[15]
出発 1763年7月-11月1763年、旅行を開始した7歳のモーツァルト。前年冬にマリア・テレジアから贈られた洋服を着ている。

1763年7月9日の旅の始まりは幸先の悪いものとなった。最初の日に馬車の車輪が壊れ、修理が行われるのに24時間の足止めを食うことになった。レオポルトはこの遅れを逆手に取り、近くにあったヴァッセンブルク(英語版)の教会へとヴォルフガングを連れて行った。レオポルトによると、ヴォルフガングはオルガンの足鍵盤をあたかも数か月特訓してきたかのように弾きこなしたという[23]。ミュンヘンでは連夜にわたり選帝侯マクシミリアン3世ヨーゼフの御前で演奏を披露し、この働きに対してはレオポルトの年収の半分に相当する354グルテン(またはフロリン)が支払われた[注 3][24][25]。次なる目的地はレオポルトの母がいるアウクスブルクであったが、レオポルトと疎遠になっていた彼女はこの街で開かれた3回の演奏会のいずれにも出席することを拒んだ[26]。続いて一家はシュヴェツィンゲンマンハイムの宮殿を訪れ、プファルツ選帝侯カール・テオドールその妃に演奏を披露、驚きをもって迎えられた[24]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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