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借入人(担保権設定者[注釈 11])は、証書[注釈 12]によって貸付金を約因[注釈 13]として単純封土権[注釈 14]を有する土地を貸付人(担保権者[注釈 15])に対して譲渡し、貸付人は受戻しにより当該土地を2つ目の証書によって担保権設定者に返還した。この仕組みの欠点は、担保権者は当該不動産の絶対的な所有者であり、これを売却することも、その担保権設定者への返還を拒絶することもでき、担保権設定者は、さらに返済の主要な手段を奪われていることもあって、弱い立場にあった。後世においてはワドセットと(担保権設定者に人的権利としての復帰権[注釈 16]を付与する)復帰権証書[注釈 17]が同時に締結されるようになった。

もう1つの方法は、ノルマン法から輸入された、物的財産に対する用益権的質権であり、ケージ・オブ・ランド[注釈 18](土地質権)と呼ばれる。質権[注釈 19]においては、借入人(質権設定者[注釈 20])は貸付人(質権者[注釈 21])に対して、所有権ではなく占有を、無期限で返済時までとの条件で譲渡した。この担保は以下の2つの形態をとる。

生ける質権[注釈 22]:土地から派生する賃料、収益および農産物が負債を減少させる(すなわち、負債は自動的に返済される。)。

死せる質権[注釈 23]:賃料および収益は利息の代わりに取得され、負債を減少させない。[5]

質権は貸付人にとっては魅力的ではなかった。なぜなら、質権設定者は新侵奪(英語版)を用いて質権者を容易に追い出すことができ、質権者は担保[注釈 24]として有するだけの立場であるため自由土地保有者(英語版)の有する占有回復の救済手段を行使することができなかったためである[6]。こうして、収益性の低い生ける質権[注釈 25]は用いられないようになったが、死せる質権[注釈 26]はウェールズ型譲渡抵当として用いられ続け、1922年に廃止された。
後期中世

13世紀までにイングランドと大陸において質権[注釈 27]は強化され、一定の年数に期間が制限されるとともに、当該期間満了後に負債が返済されなければ権原は貸付人に没収される旨の没収条項[注釈 28]が挿入された。すなわち、当該年数の期間を経て自動的に単純封土権に転化するのである。これはシフティング・フィー[注釈 29]と呼ばれ、これによって貸付人は返還のための手段を十分に行使することができることとなった。しかしながら、国王裁判所はやがてシフティング・フィーを尊重しなくなった。なぜなら、リバリー・オブ・シーズン(英語版)(すなわち、正式な譲渡)が存在しないし、国王裁判所は土地保有権(英語版)の拡大を認めなかったためである。[7]

解決方法は、ワドセットと没収付き質権を統合し、二つの文書により構成される単一の取引とすることであった。すなわち、(1)貸付人に対する封土の、または一定年数の絶対的な譲渡証書[注釈 30]と(2)貸付けを証し、これが返済された場合には土地が借入人に返還されるが、そうでなかれば貸付人が権原を保持する旨を規定する証書(権利消滅条件証書[注釈 31])。返済期限内に返済されれば、貸付人は、返還証書[注釈 32]を用いて権原を返還する。これが、古典的な譲渡抵当であり、すなわち、証書と権利消滅条件証書による譲渡抵当[注釈 33]である。[8] 譲渡抵当権者は必ずしも占有を取得しなかったため、譲渡抵当権者が訴権を有し、かつ、譲渡抵当設定者への復帰を約している場合には、譲渡抵当は適切な担保であった。こうして、譲渡抵当は土地の譲渡とされ、表面的には絶対的で単純封土権を譲渡するものであったが、実際には条件付きで一定の条件が成就した場合には何ら効力を有しないものであった。

負債は、形式上絶対的であり、質権とは異なって、農作物や家畜の育成・売却または担保目的土地において育成された農作物や家畜の単なる譲渡による返済のみに条件付きで依存するということはなかった。モーゲージは、当該土地が負債の返済に十分な所得を生産したか否かにかかわらず存続した。理論的には、譲渡抵当においては、貸付人は(例えば返済として農作物や家畜を受領するといった)追加的な段階を踏むことを何ら要しなかった。
ルネサンス以降

しかしながら、借入人が負債の返済を1日でも遅れると、借入人は、その土地は貸付人に没収され、にもかかわらず依然として負債を負担していた[7]。やがて衡平法裁判所は借入人の利益を保護するようになり、そしてサー・フランシス・ベーコン(1617-21)[9]の下で、借入人は、すでに返済期限後であっても受戻しによる返還を求める絶対的な権利を有することとなった。この借入人の権利は受戻権(英語版)と呼ばれる。

この仕組みは、貸付人は理論上は絶対的所有者であるものの、実際には所有権としての実際的な権利はほとんど有しておらず、多くの法域においては不器用に不自然だと考えられた。制定法によってコモン・ローの地位は変更され、譲渡抵当設定者は所有権を保持することとなったが、譲渡抵当権者の権利(受戻権喪失[注釈 34]、売却権限[注釈 35]および占有を取得する権利など)は保護された。米国においては、この方法で譲渡抵当の本質を改めた州はリーエン州と呼ばれる。同様の効果はイングランドおよびウェールズにおいても1925年財産権法[注釈 36]によって達成され、これにより単純封土権の譲渡としての譲渡抵当は廃止された。

17世紀から、貸付人は、受戻権原則の下で被担保ローンを超えて当該土地から利益を得ることは禁止された。契約を通じて転換社債と類似する方法で不動産のエクイティ的利益を取得しようとする貸付人の試みは、裁判所により足枷[注釈 37]であるとして妨げられたが、1980年代と1990年代に、とりわけ「契約の自由」に回帰する理論家の関心により、この原則が緩和されることで進展した。[10]
法的根拠

譲渡抵当はコモン・ロー上のものでも衡平法上のものでもあり得る。さらに、譲渡抵当は異なる法律構成の中から1つを採用することができ、その利用可能性は譲渡抵当の設定される法域によって異なる。英米法系の法域においては2つの主要な形態の譲渡抵当を発達させた。不動産権利譲渡による譲渡抵当[注釈 38]とコモン・ロー上の担保権による譲渡抵当[注釈 39]である。
不動産権利譲渡による譲渡抵当

不動産権利譲渡による譲渡抵当においては、譲渡抵当権者(貸付人)は、ローンが返済されまたはその他の譲渡抵当付き債務が完全に満足させられる(受戻し[注釈 40]と呼ばれる。)まで、譲渡抵当付き不動産の所有者となる。この種の譲渡抵当は、不動産の債権者に対する譲渡という形態をとり、これには受戻しによって当該不動産が返還されるとの条件が付されるのである。

不動産権利譲渡による譲渡抵当は譲渡抵当の本来の形態であり、引き続き多くの法域(米国のごく一部の州を含む。)において用いられている。多くの他の英米法系の法域は不動産権利譲渡による譲渡抵当の使用を廃止するかまたは最小限のものとしている。例えば、イングランドおよびウェールズにおいては、この種の譲渡抵当は、2002年土地登記法[注釈 41]により、土地の登記された権益に関してはもはや利用することはできない(登記されていない権益については引き続き利用可能)。
コモン・ロー上の担保権による譲渡抵当

コモン・ロー上の担保権による譲渡抵当、テクニカルには「コモン・ロー上の譲渡抵当の方法によるものとして表現された捺印証書による負担[注釈 42][11]においては、債務者は依然として当該不動産のコモン・ロー上の所有者であり、債権者は当該不動産に対してその担保を実行することを可能とするのに十分な権利(例えば、当該不動産の占有を取得し、またはこれを売却する権利)を取得する。

貸付人を保護するため、コモン・ロー上の担保権による譲渡抵当は通常は公記録において記録される。譲渡抵当付き負債はしばしば債務者の負う最も大きな負債であるため、銀行やその他の譲渡抵当付き貸付人は、すでに当該債務者の不動産について登記された譲渡抵当でさらに優先し得るものがないか確認するため、不動産について権原の調査を行う。租税リーエンは、場合によっては、譲渡抵当に優先することがある。そのため、借入人が不動産税を滞納している場合、銀行はしばしば金銭を支払って、リーエン保有者による受戻権喪失および譲渡抵当の抹消を防止する。

この種の譲渡抵当は、米国において最も通常であり、1925年財産権法[注釈 43]以降は[11] イングランドおよびウェールズにおいても譲渡抵当の通常の形態である(現在では、土地に対する登記された権益に関しては唯一の形態である―前記参照。)。

スコットランドにおいては、コモン・ロー上の担保権による譲渡抵当は、標準担保[注釈 44]とも呼ばれる[12]


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