モミ
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また、土壌中に休眠した埋土種子を大量に蓄えるカバノキ属[16]マツ属ヒノキ科に見られる火災で開く晩生球果(serotinous cone)のような戦略ではなく、耐陰性の高い実生を母樹の周辺に大量に用意しギャップの形成を待っている。モミ実生の耐陰性は高く小さなギャップでも更新することができ、大規模なギャップ形成(大量の倒木や山火事)が起きないような環境ではイヌブナ(Fagus japonica)などよりも優勢になっていくという[17]

ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)やツガ(Tsuga sieboldii)と混交する森林においてモミの個体は傾斜40度を超える急斜面によく出現するが、ヒノキは出現しないという。これは急斜面での土砂の移動に対する耐性及びモミの種子が大きいことで発芽直後の成長がよく生存率に差が出たと考えられている[18]。根系は深根性で樹幹同様明瞭な直根を持つ。ヒノキと違いモミは小さな実生のうちから硬い土壌があっても深くまで値を伸ばすという[19]

モミはツクバネ(Buckleya lanceolata、ビャクダン科)という寄生性の樹木の寄生を受けることで知られる。ツクバネは自分で光合成をおこなうこともできる[20]が、吸根と呼ばれる特殊な根をモミの根に侵入させ養分を奪い取る[21]。樹上にヤドリギ類も付くことがある。モミに付くものとしてはマツグミ(Taxillus kaempferi オオバヤドリギ科)が知られる。なお、ツクバネ、マツグミともにモミ以外の樹木にも寄生する。何れも宿主となるモミはいくらかの成長阻害を受けていると考えられるが、よくわかっていない。

菌根によるネットワークの模式図

参考:林冠に形成されたギャップ

参考:火災で開くタイプの果実を持つマツ属の一種

寄生性の低木であるツクバネ

参考:マツグミの寄生を受けるマツ科針葉樹

中間温帯とモミ

中間温帯は気候帯の一種で、温帯のうち暖温帯と冷温帯の間にあると考えられている気候区分である。生態学者の吉良竜夫 (1919 - 2011) の定義では暖かさの指数だけ見た場合には暖温帯に属し、植生としては常緑広葉樹が優先するような場所であるのも関わらず、気温の年較差が大きい(=冬季の気温が低い)ために常緑広葉樹林が成立しないような区域を指す。モミ(およびツガも言われることが多い)やいくつかの広葉樹はこのような気象的なニッチがある場所に出現することが多いとされ、植生学・地理学・生態学などの面から注目されてきた[22][23][24]。このような環境に成立する森林は中間温帯林という呼び名のほか、「モミ・ツガ林」、「暖温帯落葉広葉樹林」と呼ばれることもある。
人間との関係

寒冷地に分布する種類が多いモミ属樹木の中では珍しく温帯に分布する種類であり、かつては東京や大阪近郊でも比較的普通に見られた樹木といわれる。モミは、人里の大気汚染には弱い樹種とされる[25]東京都渋谷区にある地名「代々木」は、明治神宮に代々生えていたモミの巨木に由来するともいわれる。「代々木」のモミは空襲で失われ、都市近郊の里山に生えていたモミ林も大気汚染や開発でその多くが姿を消した。

モミの花言葉は、「時間」[4]「とき」[4]とされる。ヨーロッパの文学作品に登場する「モミ」とは、ドイツトウヒオウシュウアカマツを指していることが多い[5]
象徴

神社においてしばしば大木に成長したモミが見られる。スギイチイ(Taxus cuspidata、イチイ科)、クスノキ(Cinnamomum camphora クスノキ科)、イチョウ(Ginkgo biloba イチョウ科)などと並びご神木もしくはそれに準ずる扱いを受けることもある。長野県諏訪地方の祭り御柱祭で用いられる巨大な柱も「樅の柱」とされるが[4]、樹種としては長野県内に分布しモミよりも寒冷地に耐える近縁種のウラジロモミ(Abies homolepis)だとされる。常緑樹を生命力の象徴や魔除けとして祭ることは日本に限らず、中国やヨーロッパでも知られた風習である。

黒髪山神社(群馬県)のモミ

大宮熱田神社(長野県)のモミ

注連縄を巻かれたモミ(岩手県小鎚神社

木材

モミの材は白くてやわらかく、加工が容易という特徴があり[5]、天井板、腰板などの建築材、高級な卒塔婆に使われる[4]蒲鉾の板は、伝統的にモミ類が使われる[4]。またパルプの原料にもなる[5]クリスマスツリーに使われる典型的な樹木であるが、日本ではトウヒのなかまが多く、特にアカエゾマツが好まれる傾向にある[4]


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