モスクワ裁判
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なお、ブハーリンはこの裁判の前、逮捕を予期して「党の指導者の未来の世代へ」と題する一文をしたため、妻アンナにこれを暗記させてから燃やさせたという。そこには

「私はこの世を去る。私が頭を垂れるのは、容赦ないものであるべきだが、純潔なものであるべきプロレタリアの斧の前にではない。地獄の機械の前に自分の無力さを感ずる。それは、明らかに、中世の方法を使いながら、怪力をふるい、組織された中傷をでっち上げ、堂々と自信満々に振る舞っている。ジェルジンスキーはもういない。チェーカーの立派な伝統は過去のものとなった。そのすべての行動を導き、敵に対する残忍さを正当化し、あらゆる反革命から国家を守ったのは革命のイデー(理念)であった。それゆえに、チェーカーの諸機関は特別な信頼、特別な名誉、権威、尊敬を得たのだ。現在、いわゆる内務人民委員部の諸機関の大部分――それは無思想の、腐敗した、充分に生活を保証された官吏の組織に変質し、過去のチェーカーの権威を利用しつつ、スターリンの病的な猜疑心の言うなりになり、それ以上は言うことをはばかるが、勲章と名誉を追い求めて自分の醜悪な事業をつくり出している。(中略)私は一度たりとも裏切り者になったことはないし、レーニンの生命を救うためなら、逡巡することなく自分の生命を差し出したであろう。私はキーロフを愛し、スターリンに対して何一つ企てたことはない。党の指導者の新しい、若い、誠実な世代にお願いする。党中央委員会総会で私の手紙を読み上げ、私を無罪と認め、復党させていただきたい。同志たちよ、諸君が共産主義へ向かう勝利の行進においてかかげる赤旗には、私の血の一滴も含まれていることを知っていただきたい。[3]

とあったという。アンナはその後逮捕されて強制収容所から生還し、解放後の1956年になってようやく書き下ろした。そして夫の名誉回復後の1989年に書いた回想録『夫ブハーリンの想い出』においてこの手紙を公表した。
デューイ調査委員会詳細は「トロツキー査問委員会」を参照

この「見世物裁判」に対しては、当初から疑問の声が挙がっていた。トロツキーも、自身の無罪を証明するためにモスクワへの召還を求めたが無視された。それに対し、1937年3月にジョン・デューイらトロツキーの支持者を中心とした委員会(デューイ調査委員会)が結成され、裁判の起訴状などの調査が行われた。同年9月、「モスクワ裁判はでっち上げである」という結論の報告書が発表された。この報告書は、2009年現代書館から『トロツキーは無罪だ! モスクワ裁判〈検証の記録〉』(ISBN 978-4-7684-6995-8)として出版されている。
脚注・注釈

脚注^ a b 外務省情報部「暴露された蘇聯の並行本部事件」『週報 第十二号』内閣情報部、1937年2月10日。
^ 十三人を銃殺、ラデックは流刑の判決『大阪毎日新聞』(昭和12年1月30日)『昭和ニュース事典第6巻 昭和12年-昭和13年』本編p34 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年1
^ アンナ・ラーリナ『夫ブハーリンの想い出(下)』(和田あき子訳、岩波書店、1990年)、281-284頁。

注釈^ トロツキー=ジノビエフ合同本部事件とも呼ばれる。当時海外に亡命していたレフ・トロツキーと、ジノヴィエフを筆頭とするソ連国内に残っていたかつての左翼反対派(英語版)の一派が連携し、キーロフ暗殺事件を契機に最終的にスターリンの暗殺をも狙っていたとする、NKVDがでっち上げた陰謀論
^ アレクサンダー・エメル(ロシア語版)、バレンティン・オルバーグ(ロシア語版)、フリッツ・デビッド(ロシア語版)ら、ドイツ共産党のメンバーで且つ左翼反対派に思想的に近い者としてNKVDにマークされていた人物や、コノン・バーマン=ユーリンやネイサン=ラザーレヴィチ・リュリエのようにNKVDのエージェントと見做されていた人物など。
^ 反ソ・トロツキスト並行本部事件とも呼ばれる。先に粛清されたジノヴィエフらの合同本部と平行してスターリンの暗殺計画を進めていた一派として、NKVDにでっち上げられたグループである。
^ 前述の3名の他、カール・ラデック、レオニード・セレブリャコフ(英語版)、ヤコフ・リフシッツ(ロシア語版)、ヤコフ・ドロブニス(ロシア語版)、ミハイル・ボグスラブスキー(英語版)、イヴァン・ニャゼブ(ロシア語版)、スタニスラフ・ラタイチャック(ロシア語版)、ボリス・ノーキン(ロシア語版)、アレクセイ・シストフ(ロシア語版)、ミハイル・ストロイロフ(ロシア語版)、ジョセフ・テュロック(ロシア語版)、イワン・グラッシュ(ロシア語版)、アーノルド・ヴァレンティン(ロシア語版)、ガブリエル・プーシン(ロシア語版)の14名が訴追された。なお、ラデックとセレブリャコフ以降の人物は殆どが産業セクションの関係者であり、トロツキストとの関連性は薄かった。

参考文献

亀山郁夫著 『大審問官スターリン』 小学館 2006年 ISBN 4093875278

ドミトリー・ヴォルコゴーノフ著 『レーニンの秘密』 NHK出版 1995年(特に下巻を参照)


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