レコンキスタの進展によって、モサラベ住民は、そこの住民に影響を与え、そして征服されたイスラム教徒の領域の制度や、物についての語彙を浸透させながら、キリスト教徒諸王国に組み込まれていった。同様に日常的に使用される用語が浸透していった。前述したように、モサラベ語は12世紀以降ムワッヒド朝の到来もあり激減し、これらのアンダルス・アラビア語話者はすでにモサラベ語の話者ではなかった。南部のイスラム教徒支配下の土地から北部へのキリスト教徒のモサラベの移住によって、ほとんどイスラム支配をうけなかった地域においてもアラビア語起源と思われる地名が見られる。
一方、北部のキリスト教徒のロマンス諸語へのアラビア語の影響は11世紀のコルドバの後ウマイヤ朝の分裂を契機に拡大したと考えられる。レコンキスタが拡大し、11世紀以来他を圧倒しつつあったカスティーリャ王国で話されていた中央部や北部のカスティーリャ語に多くのアラビア語が侵入していった。このことによっておそらくモサラベ諸方言とカスティーリャ語、ポルトガル語、カタルーニャ語との間に当時接触があり、意思疎通が可能であったであろうと思われる。 モサラベ語がロマンス語であることは、その語彙や明らかに後期ラテン語から引き継いだと思われる文法から明白である。しかしながら、ロマンス語内部での位置づけは現在においても議論の分かれるところである。まずそれは、イベリア・ロマンス語に特徴的な音声変化があまり確認できないということである[注釈 2]。 一方、エスノローグは明確な証拠がないにもかかわらず、ピレネー・モサラベ言語グループ
言語学的記述
分類
いくつかの面において、モサラベ語はイベリア半島の他のロマンス語より古風な特徴を持つ。このことは孤立した周辺的な言語変種が「言語的に保守的な島」として残されたと考えられる。モサラベ語とみなされるロマンス語で書かれた文書に基づいて以下のようないくつかの古風な特徴の例を挙げる: いくつかの語については、一般的にその他のロマンス語で見られる語形よりも、ラテン語により近い形式が見られる。 基層言語としてのモサラベ語はバレンシア語とバラアース方言をカタルーニャ語から、ポルトガル語をガリシア語から、エストレマドゥーラ語をアストゥリアス・レオン語から、アンダルシーア方言やムルシア方言
ラテン語の子音グループCL、FL、PL(/kl、fl、pl/)を保持。
ラテン語の母音間の子音(P、T、C、音声表記 /p、t、k/)に弱化が起きなかった。イベリア・ロマンス語の多くでは母音間の子音が有声化した( /p/ > /b/、/t/ > /d/、/k/ > /g/ )。例(モサラベ語-スペイン語):lopa-loba、toto-todo、formica-hormiga。
ラテン語の子音グループ-CT-は、nohte < NOCTE(M) のように/ht/へと変化した。カスティーリャ語では口蓋化し、nocheとなった。
ラテン語の /k(e)/ あるいは /k(i)/ に由来する無声後部歯茎破擦音/t?/の保持(このことはイタリア語でも見られるが、その他の西ロマンス語では /ts/ に変化した)。
(少なくともいくつかの地域において)ラテン語の二重母音 /au/ と /ai/ が保持された。
形態論と文法
他のロマンス語への影響
文字詳細は「アルハミヤー文学」を参照
モサラベ語はロマンス語のひとつであるが、アラビア文字で書かれ、それはアルハミーア(al ‘a?amiyya)と呼ばれる。この書かれたものはかなりの数のものが残されており、この時代の書かれたロマンス語として重要である。
しかし、これらのモサラベ語テキストの解読には非常に多くの困難が伴う。まず、アラビア語において母音が書かれないのと同様にこれらのテキストのモサラベ語も母音が書かれていないからである。モサラベ語のテキストにおいて、この母音が記されないという事は、モサラベ語のもととなったロマンス語諸方言間やアラビア語諸方言間にみられる傾向や法則性などの多様性があるように、モサラベ語に存在する多様性を考えた場合、非常に困難な問題となって表れる。このような理由でハルチャの解釈・解読において研究者によってさまざまな違いが見られることになる[9]。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ スペイン語ではmozarabeという語はイスラム教徒支配下にとどまったキリスト教徒住民と、彼らの話す言語を表すという両義性があるため、非常に紛らわしいことと、実際にはモサラベ(キリスト教徒)以外のイスラム教徒やユダヤ教徒なども話していたため、アル=アンダルスで話されていたロマンス語を意味するアンダルス・ロマンス語やロマンダルシ語という名称が近年提唱されている。
^ 例えば、母音が表記されないことによって、正確な発音がよくわからないため。
出典^ Corriente, F. (2004): El elemento arabe en la historia linguistica peninsular. En Cano, R. (coord.) Historia de la lengua espanola, Barcelona, Ariel.
^ a b Menendez Pidal, R. (1926). Origenes del castellano. .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 978-84-239-4752-2
^ a b Simonet, Francisco Javier. (1897-1903). Historia de los mozarabes de Espana. Real Academia de la Historia
^ Sola-Sole 1973, p. 35
^ (Wright 1982, p. 156)
^ a b (Wright 1982, p. 158)
^ Garcia Soriano, Justo (1932) Vocabulario del dialecto murciano. Editora Regional de Murcia. pp. 196. ISBN 84-500-4063-9 9788450040630.
^ Gaspar Remiro, Mariano (2010). Historia de Murcia musulmana. Kessinger Publishing, LLC. p. 350. ISBN 1-167-63461-6
^ (Galmes de Fuentes 1983, p. 47).mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}「モサラベ語の母音の転写の難しさは、書記において母音が書かれないということだけでなく、アラビア語が3母音体系であるということと、母音接続あるいは下降二重母音が(アラビア語に)存在しないということである。