メタボリックシンドローム
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しかし、2006年、Reavenはそれまでに報告された19の研究をまとめて、インスリン感受性insulin-mediated glucose uptake(IMGU)と内臓脂肪面積との関係は、IMGUと腹部皮下脂肪面積との関係とほぼ同等であることを明らかにした[31]。2007年、Pouらは内臓脂肪体積および腹部皮下脂肪体積と各種炎症マーカーおよび酸化ストレスマーカーとの関係を詳細に検討して、内臓脂肪体積と炎症マーカーとの関係は腹部皮下脂肪体積と炎症マーカーとの関係とほぼ同等であることを明らかにした[57]。内臓脂肪は、エネルギー過剰環境に対して皮下脂肪よりも強い炎症反応を示すが、これは内臓脂肪量とは平行しない。Wellenらは内臓脂肪だけに炎症を生じるメタボリック症候群のマウスモデルを作成したが、このモデルでは内臓脂肪の増加は見られず、皮下脂肪と肝脂肪が増加していた[58]

JASSOが腹囲基準値を決めた方法は、論理的に矛盾している。JASSOは、心血管危険因子と内臓脂肪面積との関係において性差が大きいことを無視して、男女無差別に内臓脂肪面積の基準値を決め、この男女無差別な値から男女別の腹囲基準値を決めたのは論理的一貫性を欠く誤った解析である[59][60][61][62][63]。日本国内の多くのグループが、JASSOと異なる腹囲基準値を提唱しており、JASSOとは逆に、すべて男性の方が女性より大きな値となっている[64][65][66][67]

腹囲85cmを基準に診断された男性のメタボリックシンドロームは、心血管疾患発症の有意なリスクにならない。2006年、清原らは久山町研究で、男性で腹囲85cmを基準に診断された腹部肥満とメタボリックシンドロームはどちらも心血管疾患発症の有意なリスクにならなかったと報告した[68]。しかし、腹囲90cmを基準に診断した場合は、どちらも心血管疾患発症の有意なリスクになった[68]

腹囲90cmを基準に診断された女性のメタボリックシンドロームは多くの高リスクの女性を見逃すことになる。女性では腹囲基準値を90cmとしても80cmとしてもメタボリックシンドロームは心血管疾患発症の有意なリスクになったが、心血管疾患の発症は腹囲80-90cmの女性に集中しており(57%)、基準値を90cmに設定すると多くの高リスクの女性を見逃すことが、久山町研究で明らかになった[68]

肥満をメタボリック症候群の必須条件とすると、心血管疾患リスクの高い多くの人を無視することになる。KadotaらはNIPPON DATA 90で、非肥満者で代謝性危険因子の集積した人がかなり多く、このグループの心血管疾患発症率が高いので、肥満をメタボリック症候群の必須条件とするのは危険であると報告した[69]。また、Okamuraらは国保10年コホルト研究で、BMI 25未満で心血管危険因子を有する人の費やす医療費は総医療費の16.5%だったのに対し、BMI 25以上で心血管危険因子を有する人の費やす医療費は総医療費の7.1%であり、BMI 25以上で2つ以上の心血管危険因子を有する人の費やす医療費は総医療費の2.9%だったと報告した[70]。したがって、肥満をメタボリック症候群の必須条件とすることは、予防医学的にも医療経済学的にも不適切であると考えられる。

メタボリック症候群の診断は、困難である。日本人のための暫定的な5つの診断基準について、その一致度を検討した研究では、2つの異なる診断基準で一致してメタボリック症候群と診断される割合は、男性で19-60%(平均41%)、女性で31-89%(平均51%)あり、すべての診断基準で一致する割合は、男性で15%、女性で21%だったと報告されている。したがって、メタボリック症候群の診断は暫定的にも困難であり、現時点では、ADAとEASDの共同声明に従うべきであろう。

日本の診断基準は、メタボリック症候群の国際比較研究の障害となる。日本の診断基準はIDF診断基準[71] に協調して作成されたはずであるが、実際には診断項目の数も、腹囲基準値も、血糖基準値も、HDLコレステロール基準値も異なり、メタボリック症候群の国際比較を困難にした。我々の検討では、IDF診断基準と日本の診断基準の一致度は男性で30%、女性で40%だった[72]

内臓脂肪面積の臨床的有用性が確立していないにもかかわらず、メタボリック症候群診断基準検討委員会が、CTによる内臓脂肪面積の測定を研究目的以外で奨励したことは、倫理的に問題と考えられる。

病態に対する概念.mw-parser-output .ambox{border:1px solid #a2a9b1;border-left:10px solid #36c;background-color:#fbfbfb;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .ambox+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+link+.ambox{margin-top:-1px}html body.mediawiki .mw-parser-output .ambox.mbox-small-left{margin:4px 1em 4px 0;overflow:hidden;width:238px;border-collapse:collapse;font-size:88%;line-height:1.25em}.mw-parser-output .ambox-speedy{border-left:10px solid #b32424;background-color:#fee7e6}.mw-parser-output .ambox-delete{border-left:10px solid #b32424}.mw-parser-output .ambox-content{border-left:10px solid #f28500}.mw-parser-output .ambox-style{border-left:10px solid #fc3}.mw-parser-output .ambox-move{border-left:10px solid #9932cc}.mw-parser-output .ambox-protection{border-left:10px solid #a2a9b1}.mw-parser-output .ambox .mbox-text{border:none;padding:0.25em 0.5em;width:100%;font-size:90%}.mw-parser-output .ambox .mbox-image{border:none;padding:2px 0 2px 0.5em;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-imageright{border:none;padding:2px 0.5em 2px 0;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-empty-cell{border:none;padding:0;width:1px}.mw-parser-output .ambox .mbox-image-div{width:52px}html.client-js body.skin-minerva .mw-parser-output .mbox-text-span{margin-left:23px!important}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .ambox{margin:0 10%}}

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出典検索?: "メタボリックシンドローム" ? ニュース ・ 書籍 ・ スカラー ・ CiNii ・ J-STAGE ・ NDL ・ dlib.jp ・ ジャパンサーチ ・ TWL(2016年5月)

世界ではインスリン抵抗性を基礎とした病態と考えられているが、日本では現在、「蓄積された内臓脂肪組織は様々なアディポサイトカイン(内分泌因子)を分泌し、その中のアディポネクチン、レプチン、TNF-α、ビスファチンなどの遺伝子発現レベルでの産生異常が代謝異常を引き起こし、動脈硬化などにつながると考えられ、内臓脂肪面積の測定によってこの病態が把握できる」とする大阪大学医学部チームの学説が、メタボの概念として、厚生労働省による特定健診が実施されている。

日本医師会は生涯教育シリーズ「メタボリックシンドローム」で、これが、心血管疾患のリスクを35.8倍にするようなイラストレーションを掲載しているが、世界のこれまでの疫学データのメタアナリシスでは、心血管疾患のリスクは平均1.74倍と報告されている。日本の疫学研究では、14年間におよぶ久山町研究の解析で、日本肥満学会の診断基準によるメタボリックシンドロームは、男性では心血管疾患の相対危険度が1.4倍であった。

1993年、Hotamisligilは肥満とインスリン抵抗性の間に炎症 (TNFα) が介在することを突き止め、最近のいろいろな遺伝子操作による動物実験では、身体計測上の肥満や内臓脂肪ではなく、脂肪細胞の肥大化・壊死とそれを冠状に取り囲むマクロファージ(炎症性細胞)の集積が、炎症とインスリン抵抗性をもたらし、これがメタボリック症候群の病態の基礎となっている可能性が、次第に明らかにされてきている。

内臓肥満や超肥満でも、脂肪組織の組織像が正常で、メタボリック症候群の病態を伴わない動物モデルや、逆に、肥満も内臓肥満もないのに脂肪組織の組織像が脂肪細胞の肥大化・壊死とそれを冠状に取り囲むマクロファージ(炎症性細胞)の集積という肥満症の所見を呈して、メタボリック症候群の病態を伴う動物モデルが報告されてきている。さらに、2006年、日本の2つの異なる研究グループは、肥満も内臓肥満も脂肪細胞の肥大化もないのに脂肪組織の組織像にマクロファージの集積が見られ、メタボリック症候群の病態を呈する動物モデルを報告した。

2007年には、筑波大学のグループが、マウスの脂肪酸延長酵素を欠損させることで、脂肪蓄積があっても耐糖能異常を来しにくい動物モデルを報告した。
脚注[脚注の使い方]
出典^ a b c d 坂本穆彦 監修『標準病理学 第5版』、医学書院、2015年3月15日 第5版 第1刷 発行、P201
^ 岩波明『精神科医が狂気をつくる 臨床現現場からの緊急警告』、新潮社、2011年6月15日発行、158ページ
^ 滋賀医科大 上島弘嗣教授『日米共同調査』
^ “カロリーとは”. 株式会社タニタ. 2023年7月22日閲覧。
^ a b Reaven GM. Role of insulin resistance in human disease. Diabetes 1988; 37: 1595-1607.
^ a b DeFronzo RA, Ferrannini E. Insulin resistance. A multifaceted syndrome responsible for NIDDM, obesity, hypertension, dyslipidemia, and atherosclerotic cardiovascular disease. Diabetes Care 1991; 14: 173-194.


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