メタボリックシンドローム
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この共同声明が発表されてから現在まで、メタボリック症候群診断の是非が論争されており[29][30][31][32][33][34][35][36]、その中で、ReavenはADAとEASDの共同声明に賛成して、メタボリック症候群でないと診断された人のほうがメタボリック症候群と診断された人よりも心血管疾患の危険度が高い場合がいくらでも想定されると述べている[31]

Grundyは、メタボリック症候群は短期(10年)リスクを評価するための道具ではなく、長期リスクを評価するための道具であると述べているが[29]、Sundstromらは長期(30年)コホート研究でメタボリック症候群はその個々の構成成分以上のリスクに関する情報を与えないと報告した[37]

この論争のさなかで、ADAとAHAは「心血管疾患と糖尿病を予防するために」と題する共同声明を発表し、その中で、メタボリック症候群の診断にかかわらず、その個々の成分と喫煙の予防と治療に努めるように呼びかけ、欧米諸国に蔓延している肥満に注意を喚起して生活習慣を変えることを奨励した[38]

2004年頃から、メタボリック症候群に関する多くの疫学研究とそのメタアナリシスが報告されているが[39][40][41][42][43][44][45]、メタボリック症候群の心血管疾患発生率および死亡率に与える相対危険度は大まかに1.5から2.5と報告されている。

また、IDF診断基準が発表されてから、IDF診断基準とNCEP診断基準の優劣を比較した報告も多い[46][47][48][49][50][51][52]が、IDF診断基準は、NCEP診断基準を凌駕せず、metabolically obese normal weight (MONW) individualsを見落とす危険が指摘されている。

混乱する腹囲の診断基準に関して、2007年、アメリカ体重管理肥満予防協会、北米肥満学会、アメリカ栄養学会、アメリカ糖尿病学会は共同声明を発表し、その中で、腹囲の科学的な測定方法も腹部肥満を診断するための腹囲の科学的な基準値も確立していないので、現時点では、臨床現場で腹囲を測定することは特殊な場合を除いて有用ではなく、科学的な腹囲の測定方法と基準値を確立するための研究が必要であり、将来の腹囲基準値は、人種別、性別のみならず、年齢別、BMI別の複雑なものとなるであろうと指摘した[53]
日本の診断基準の問題点

2002年、日本肥満学会(JASSO)はボディマス指数 (BMI) 25以上、内臓脂肪面積 100平方センチメートル以上 (男女無差別)、腹囲 男性 85 cm、女性 90cm以上を「肥満病」と定義し[54]、2005年、メタボリックシンドローム診断基準検討委員会はJASSOの提案した「内臓脂肪症候群」診断基準を日本のメタボリック症候群診断基準とした[55]。この診断基準の問題点を列記すれば以下のようになる。
「内臓脂肪症候群」は、科学的に確立された概念ではない。1997年、松澤は、限られたデータを基に、インスリン抵抗性は皮下脂肪肥満よりも内臓脂肪肥満で重症であり、皮下脂肪は内臓脂肪の病的作用から生体を守る作用があるだろうと述べた[56]。しかし、2006年、Reavenはそれまでに報告された19の研究をまとめて、インスリン感受性insulin-mediated glucose uptake(IMGU)と内臓脂肪面積との関係は、IMGUと腹部皮下脂肪面積との関係とほぼ同等であることを明らかにした[31]。2007年、Pouらは内臓脂肪体積および腹部皮下脂肪体積と各種炎症マーカーおよび酸化ストレスマーカーとの関係を詳細に検討して、内臓脂肪体積と炎症マーカーとの関係は腹部皮下脂肪体積と炎症マーカーとの関係とほぼ同等であることを明らかにした[57]。内臓脂肪は、エネルギー過剰環境に対して皮下脂肪よりも強い炎症反応を示すが、これは内臓脂肪量とは平行しない。Wellenらは内臓脂肪だけに炎症を生じるメタボリック症候群のマウスモデルを作成したが、このモデルでは内臓脂肪の増加は見られず、皮下脂肪と肝脂肪が増加していた[58]

JASSOが腹囲基準値を決めた方法は、論理的に矛盾している。JASSOは、心血管危険因子と内臓脂肪面積との関係において性差が大きいことを無視して、男女無差別に内臓脂肪面積の基準値を決め、この男女無差別な値から男女別の腹囲基準値を決めたのは論理的一貫性を欠く誤った解析である[59][60][61][62][63]。日本国内の多くのグループが、JASSOと異なる腹囲基準値を提唱しており、JASSOとは逆に、すべて男性の方が女性より大きな値となっている[64][65][66][67]

腹囲85cmを基準に診断された男性のメタボリックシンドロームは、心血管疾患発症の有意なリスクにならない。2006年、清原らは久山町研究で、男性で腹囲85cmを基準に診断された腹部肥満とメタボリックシンドロームはどちらも心血管疾患発症の有意なリスクにならなかったと報告した[68]。しかし、腹囲90cmを基準に診断した場合は、どちらも心血管疾患発症の有意なリスクになった[68]

腹囲90cmを基準に診断された女性のメタボリックシンドロームは多くの高リスクの女性を見逃すことになる。女性では腹囲基準値を90cmとしても80cmとしてもメタボリックシンドロームは心血管疾患発症の有意なリスクになったが、心血管疾患の発症は腹囲80-90cmの女性に集中しており(57%)、基準値を90cmに設定すると多くの高リスクの女性を見逃すことが、久山町研究で明らかになった[68]

肥満をメタボリック症候群の必須条件とすると、心血管疾患リスクの高い多くの人を無視することになる。KadotaらはNIPPON DATA 90で、非肥満者で代謝性危険因子の集積した人がかなり多く、このグループの心血管疾患発症率が高いので、肥満をメタボリック症候群の必須条件とするのは危険であると報告した[69]。また、Okamuraらは国保10年コホルト研究で、BMI 25未満で心血管危険因子を有する人の費やす医療費は総医療費の16.5%だったのに対し、BMI 25以上で心血管危険因子を有する人の費やす医療費は総医療費の7.1%であり、BMI 25以上で2つ以上の心血管危険因子を有する人の費やす医療費は総医療費の2.9%だったと報告した[70]。したがって、肥満をメタボリック症候群の必須条件とすることは、予防医学的にも医療経済学的にも不適切であると考えられる。

メタボリック症候群の診断は、困難である。日本人のための暫定的な5つの診断基準について、その一致度を検討した研究では、2つの異なる診断基準で一致してメタボリック症候群と診断される割合は、男性で19-60%(平均41%)、女性で31-89%(平均51%)あり、すべての診断基準で一致する割合は、男性で15%、女性で21%だったと報告されている。


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