メイラード反応
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プロリンタンパク質の焦げた臭い

メイラード反応とアクリルアミドアスパラギン酸と糖のメイラード反応によるアクリルアミドの生成

メイラード反応の過程でアスパラギンブドウ糖が反応することによって、劇物扱いのアクリルアミドが生成されることが明らかになっている。アクリルアミドは神経毒性や発癌性を持つ疑いがある化合物であるため、特にポテトチップスなどの高温加熱食品におけるメイラード反応でアクリルアミドが生じることが食品安全上の観点から問題視されている。アクリルアミドがヒトに対して神経毒として働くことはこれまで確認されているが、食品中に含まれている量ではこの作用は現れないこと、また発癌性についてはラットに薬品として直接アクリルアミドを投与する事で確認されているが、実際にヒトが食品に含まれる形で摂取した場合に発癌リスクが高くなるかどうかは明らかになっていないこと、などから、通常の摂取量であれば特別に健康上の問題に結びつく可能性は低いと、これまでは考えられていた。

2002年4月、スウェーデン食品庁は、ポテトチップスフライドポテトビスケットなど、炭水化物を多く含むものを高温で加熱した食品にアクリルアミドが高濃度で含まれているという報告を出した。アクリルアミドは神経毒性発癌性を持つ疑いがあるため、これらの食品の安全性に対する懸念が生まれることになった。その後、この報告は各国の食品関連機関の追試によって確認され、それをうけてWHOが2002年6月に専門会議を設けるなどの対応を行った。日本では食品総合研究所を中心に、この問題が検討されている。これらの食品中のアクリルアミド濃度は、飲料水中の規準値を超えていたために安全上の問題があると疑われた。

2005年には、FAOとWHOからなる合同委員会が「食品中のアクリルアミドは健康に害を与える恐れがあり、含有量を減らすべき」と勧告。

2007年、オランダのマーストリヒト大学のジャネケ・ホゲルボルスト (Janneke G. Hogervorst) らが「アクリルアミドの摂取は特に非喫煙者の女性において子宮内膜がんと卵巣がんの危険性を高める」という疫学調査結果をCancer Epidemiology Biomarkers & Prevention誌の11月号に発表[8]

2008年5月、オランダのマーストリヒト大学の研究チームが「アクリルアミドの摂りすぎは腎臓がんのリスクを高める」という研究をAmerican Journal of Clinical Nutrition誌5月号に発表した[9]

安全性に関する詳細な検討は現在も継続中であり、また食品中の濃度規制に向けた取り組みも始まっている。
メイラード反応の例.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}肉を加熱することによって褐変するのはメイラード反応の典型である

メイラード反応が関与するものには次のような現象が挙げられる。

を焼くと褐変

玉ねぎを炒めると褐変

デミグラスソース(ブラウンソース)の褐変[10]

コーヒー豆の焙煎

黒ビールチョコレートの色素形成

味噌醤油の色素形成

熟成に伴う酒粕の色素形成

黒ニンニク

三温糖の着色はカラメル反応であり、メイラード反応と似てはいるが異なる反応である。また、焦げはメイラード反応というよりは炭化である。

落ち葉から腐葉土が出来る過程でも褐色色素や黒色色素が生じる。これは腐植酸と呼ばれる物質だが、メラノイジンと同じものである。植物の持つ酵素的な褐色色素の形成と、非酵素的なメイラード反応の両方が関与していると言われている。

糖尿病患者に見られる褐色斑の形成にも、生体内で起きるメイラード反応の関与が示唆されている。褐色斑の原因となる色素にはAGEs (advanced glycation end-products) と呼ばれるものが含まれているが、これらはメラノイジンの前駆物質だと考えられている。なお、糖尿病患者の症状として見られる白内障血管組織の劣化は、正にメイラード反応におけるブドウ糖のアルデヒド基とクリスタリンやエラスチン、コラーゲンのような高寿命タンパク質のアミノ基の重合反応によって起きるタンパク質の変性に起因する。

炭水化物を摂取すると小腸グルコースに分解され、大量のグルコースが体内に吸収される。体内でのグルコースは、エネルギー源として重要である反面、高濃度のグルコースはそのアルデヒド基の反応性の高さのため生体内のタンパク質と反応して生体に有害な作用をもたらすため、インスリンの分泌により、体内の血糖濃度が常に一定範囲に保たれている。この唯一のインスリンによる血糖調整機構が破綻すると高血糖による生体組織とのメイラード反応により、糖尿病性神経障害糖尿病性網膜症糖尿病性腎症の微小血管障害、つまり糖尿病合併症を発症する。

高カロリー輸液の調製において、ブドウ糖とアミノ酸液を同一容器内で混合すると、メイラード反応によって褐色物質が形成され、溶液が褐色に変化することがある。
生体内で起こるメイラード反応と老化現象

抗老化医学(アンチエイジング)の発達によって、体内で起こるメイラード反応が、老化を進行させる体の糖化であることが明らかになってきた。

老化現象と深い関わりを持つコラーゲン糖化反応は、肌の張りと弾力性を失わせ、骨の質(骨強度)を劣化させる。また、糖化された老廃物の蓄積が白内障動脈硬化の進行(高血圧症)となって表れるなど、老化の顕著な特徴と直結している。アルツハイマー病は脳内のアミノ酸が糖化される現象という説も存在する。また体の糖化と糖尿病の合併症やメタボリックシンドロームには深い関係がある。

抗糖化ケアは、摂取カロリーの適正な調整とともに、急激に血糖値を上げないGI(グリセミックインデックス)に留意した食生活によって可能となる。たとえば、野菜から先に食べる工夫をするだけでも、血糖値の急激な上昇を抑えることに繋がり、体の糖化の抑制が期待出来る。ドクダミ茶、シソ葉茶、などの健康茶は、コラーゲンの糖化に対して強い抑制力を示す。また、抗糖化作用を有する食品として、ローマンカモミールセイヨウサンザシサクラ、などが発見されている[11][12][13]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 日本語表記の「メイラード」は、フランス語の Maillard[マヤール(フランス語発音: [maja?])あるいはメヤール(フランス語発音: [m?ja?])]を英語読みした「マイヤード」「メイヤード」を日本語化した表記である。

出典^ a b c d e 村田容常「シリーズ:ものづくりと学問 ―スイーツと化学― 焼いたスイーツとメイラード反応」『化学と教育』第67巻第2号、日本化学会、2019年、90-91頁、doi:10.20665/kakyoshi.67.2_90。 
^ 本間清一「メラノイジンに関する食品化学的研究 : 平成15年度日本栄養・食糧学会学会賞」『日本栄養・食糧学会誌』第58巻第2号、日本栄養・食糧学会、2005年、85-98頁、doi:10.4327/jsnfs.58.85。


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