メアリー・ローズ
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船名は、ヘンリー8世お気に入りの妹、メアリー・テューダーテューダー家の紋章であるバラに由来するというのが一般的である[8]

ただし歴史家のデイビッド・ローデス(英語版)、ピーター・マースデン等によると、王妹に因んで名付けたという直接的な証拠はない。当時の西欧では、船にキリスト教に関連した名前や、王室の象徴に因んだ名前をつける方が一般的であった。「グレース・デュー(Grace-Dieu=ハレルヤ)」 や「ホリゴースト(聖霊)」などの名前は15世紀から一般的であり、他のイングランド海軍の船には「リージェント」(Regent) や「スリー・オーストリッチ・フェザー」(Three Ostrich Feathers, プリンス・オブ・ウェールズの紋章を指す) などの名前が付けられていた[9]

他の候補としては奇しき薔薇の聖母 (英語: Rosa Mystika) とも関連する聖母マリア (Virgin Mary) を有力な由来とする説がある。「メアリー・ローズ」の姉妹船である「ピーター・ポメグラネート」は、聖ペトロの象徴であり王妃キャサリンの紋章にも使われているザクロ (Pmegranate) に由来して名付けられたと考えられている。チャイルズ、ローデス、マースデンによると、ほぼ同時期に建造された2隻の船には、それぞれ国王と王妃に因んで名付けられたとされる[9]
設計『アンソニー・ロール』に描かれた「メアリー・ローズ」。船首と船尾に高い「楼」を備えたキャラック船の特徴がよくわかる。本図は砲と法門の数こそ正確ではないが、全体的には正確なものとされている。

「メアリー・ローズ」は1536年に大改造された。これにより、排水量が700トンに増加し、古いキャラック船の構造に舷側砲の階層が追加された。その結果、現代の研究は主に、この時代の「メアリー・ローズ」の具体的物証の解釈に基づいており、改造前の時代の構造はよく判っていない。

「メアリー・ローズ」は、中央部に開放甲板を備え、前後に高い「楼」を備えたキャラック船様式で建造された。船体は喫水線から上が徐々に狭くなるタンブルホーム(英語版)形状で、これは船が重い大砲を搭載して使用されたことを示しており、この形状には砲の重量を中央に集中させ、また敵兵の移乗攻撃を難しくする効果があった[10]船体が完全に残っていないため、正確な全長は不明だが、喫水線より上での最大幅は約39フィート (12 m)、竜骨の長さは約105フィート (32 m)である[11]

船体は、3つの甲板で区切られた4つの階層からなる。船倉は船の一番下に設けられ、ここには調理室もあった。調理室の真後ろには檣根座があり、これは、竜骨の真上にある内竜骨の最も中央にある木材で、メインマストを支え、その隣にメイン排水ポンプ(英語版)があった。船の安定性を高めるために、船倉にはバラストが置かれ、多くの物資が保管されていた。船倉のすぐ上には、第4甲板があった。船倉と同様に仕切られており、食料から予備の帆まであらゆる物資の保管場所としても使用されていた[12]「メアリー・ローズ」の船体遺構。船尾楼甲板の残骸を含めた船体構造がはっきり確認できる。

第4甲板の上には、最も重い大砲を収容する主甲板があった。主甲板階の船体側面には、両舷に砲門が7つずつあり、砲門には浸水を防ぐ重い蓋が取り付けられていた。また主甲板は防水処理が施された最上部の甲板である。メインデッキの側面に沿う形で、船首楼と船尾楼下の船室は、船大工、船医、水先案内人、そしておそらく砲手長と何人かの将校用の個室であったと推定されている[13]

船体の上部甲板は、中央部が開放構造となっており、仕切り板はなく、重砲と軽砲が混在し置かれる戦闘専用の甲板だった。上甲板の開放部には敵兵の移乗攻撃に対する防御を目的としたネットで完全に覆われていた[13]。現在、上甲板はほとんど現存していないが、船尾楼の下に乗組員の主な居住区があったことが示唆されている。この区画にある排水管は、おそらく船首にある通常のトイレを補完するための簡易トイレであった可能性が指摘されている[14]クリンカー工法(左)とカーベル工法(右)

「メアリー・ローズ」の楼には追加の甲板が存在したはずだが、実物が殆ど現存していないため、史料から構造が推定されている。同じサイズの船は、両方の楼に3層の甲板があると一貫して記載されており、『アンソニー・ロール(英語版)』(イングランドの軍艦の図解リスト)に記載されている図と大砲の目録によって補完されていいる[15]

「メアリー・ローズ」発掘の初期段階では、船体はもともと厚板を重ね合わせる「クリンカー(英語版)(またはクランチ)」工法で建造されたと考えられていた。しかしクリンカー工法で造られた船体に砲門を開けると、船体の構造強度が弱まるため、改装時に板を均一に張ることで砲門の開いた船体を支えることができる「カーベル(英語版)」工法に改められたと推定されていた[16]。その後の調査で、船体にはクリンカー方式の部分が存在しないことが判明した。ただし正確にはクリンカー方式ではないが、船尾楼の外側の構造のみが重なり合う板張りで構築されていた[17]
帆走機構引き上げられた「メアリー・ローズ」の策具の一部

「メアリー・ローズ」の帆走機構がどのようなものだったかについては、現存する遺構が索具の下部付属品のみのため、同時代史料である1514年の艦船目録と『アンソニー・ロール』の画像が使用され、 4本のマストバウスプリットから9ないし10枚の帆を張ることができたと推定されている。フォアマストには2枚、メーンマストには3枚の横帆、ミズンマストにはラテンセイル小さな横帆があり、ボナベンチャーミズンには少なくとも1枚のラテンセイルとおそらく横帆、そしてバウスプリットは小さな横帆を張ることができた[18]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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