ミトラ教
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各地で碑文も減少し、増長するキリスト教会の特権を廃して古代の神々の復権を図った皇帝ユリアヌス(在位361年-363年)の治下では増加するが、それは一代のわずかな期間にすぎず[13]、5世紀頃には消滅してしまった。
ミトラス教の図像 牡牛を屠るミトラス(2世紀ごろ)。大英博物館所蔵。獅子頭神。人間の体に獅子の頭と、背中に翼を持つ姿で描かれる。またその体には蛇が巻き付いている。バチカン美術館所蔵。

ミトラス教の図像は主に牡牛を屠るミトラス、岩から生まれるミトラス、獅子頭神が知られている。またミトラス神の物語を描いたミトラス神一代記と呼ばれる一連の図像群がある。
牡牛を屠るミトラス

この図像はミトラス神による聖牛供儀の場面を描いている。ミトラス神はペルシア風の衣装に身を包んでおり、牡牛の背中に乗りかかって左膝をつきながら、右足で牡牛の後ろ脚を押さえつけている。その左手は牡牛の鼻面をつかみ、右手は牡牛に剣を突き立てている。傷口からあふれる血にはが、また牡牛の腹の下ではサソリが牡牛の生殖器に跳びかかっている。ミトラス神の両側には松明を持った2人の脇侍神カウテースとカウトパテースが侍り、またそれ以外にも太陽と月、四方の風、十二宮カラスなどのシンボルを伴う。

この図像が聖牛の供儀によって生命力が解放されるさまを描いていることから、ミトラス教は豊穣崇拝と密接な関係があると考えられる。これはミトラス教の図像の中で最も重要なもので、ミトラス教神殿の至聖所中央に必ずこの図像が配置され、その前で儀礼が執り行われた[14]

犬と蛇は牡牛の血を飲もうとしている。

牡牛の睾丸を攻撃するサソリ。

獅子頭神

この獅子頭と翼を持った異貌の神像はこれまでに約40体ほど発見されているが[15]、それにもかかわらず神名や、ミトラス教においてどのような役割を持つのか、文献による証言をはじめミトラス教の碑文に全く現れていないために、今もってその正体は不明である。キュモンの説ではこの神は時間神クロノスサトゥルヌスであり、イランの神ズルヴァーンに由来するという[15]

これに対してアンラ・マンユとする説もある。ミトラス教碑文にはわずか5例ながらアリマニウス(Arimanius)なる神名が現れているが[16]、これはプルタルコスが『イシスとオシリス』においてオロマスデス(アフラ・マズダー)の敵対者として挙げている神アンラ・マンユである。しかしミトラス教碑文のアリマニウスが果たしてイランにおける悪神アンラ・マンユと同じ性格を持つのか、したがってミトラス教徒は悪魔崇拝をしたか、またゾロアスター教的な対立構造を持っていたのか疑問が残る。ミトラス神がイランのミスラとは異なっているように、アリマニウスもまたヘレニズム的な変化を遂げていたと考えられる[17]

碑文はいずれもアリマニウスを神として認めていることがうかがえ、特にローマ、ヨークアクインクムから出土したものはアリマニウスに誓願して神像を奉納した旨が記されている。この獅子頭神像が碑文のアリマニウスであるという明確な証拠はないが、ヨークから発見された碑文は頭部を欠いた神像を伴っており、首の部分には獅子のたてがみを思わせるものが残っている[18]
信者と信者組織

ミトラス教の信者層は概して下層の人間を中心としていた。初期の信者は下級兵士たちであり、そこから軍人たちや、商人、職人たちに信者を得ていった。後期には宮廷人の入信者が現れ、さらに皇帝たちからも関心を得た。女性の入信者が例外を除けばほとんど見られないことから、原則として女人禁制であったと考えられる。信者組織は神官職(アンティステス、サケルドス)と7つの位階(父、太陽の使者、ペルシア人、獅子、兵士、花嫁、大烏)に属する入信者たちで構成され、これ以外にも入信をしていない一般の信者たちがいた。入信希望者には目隠しのうえで厳しい試練的性格の入信儀式が課せられた。(入信しようとする者は冠を与えられるが、ミトラが「彼の唯一の王である」と述べて、それを辞退しなければならないということがわかっている。次に、彼は赤く焼けた鉄で額に印をつけられるか(テルトゥリアヌス「異端者たちへの抗弁」四〇)、火のともったたいまつで浄められる(ルキアヌス「メニッポス」七)[4]。昇級の条件は不明である。信者たちは窓のない神殿で非公開の儀式や礼拝に参加したが、他の宗教に対しては排他的ではなく、他の宗教の祭礼や皇帝崇拝にも参加したらしい。積極的な布教活動をしなかったため、キリスト教が受けたような弾圧はミトラス教史を通じて受けることはなかった。
神官職オスティアのミトラス教遺跡で発掘されたモザイク画。7位階のシンボルが描かれている。
アンティステス

サケルドス

位階

ミトラス教徒の7位階はそれぞれ太陽系の星を守護神とした。またシンボリックな象徴物があり、たとえばオスティアの「フェリキッシムスのミトラス神殿」の床面のモザイクには7位階の象徴物が描かれている[19]。以下に各位階について説明する。
父(パテル, pater)
守護神は土星サートゥルヌス)。シンボルは錫杖、指輪。7位階のうち最上位に位置し、下位の信者たちの指導者的立場にある。父は神官職になることもできた。碑文では「父」位であり神官職アンティステスである者がいた。また「父」の中で最も上位にあたる「父の父」と呼ばれる者もいた[20]
太陽の使者(ヘリオドロモス, heliodromus)
守護神は太陽ソール)。シンボルは 光背、ムチ。原義は「太陽の(helio)・走路(dromus)」。
ペルシア人(ペルセス, perses)
守護神はルーナ)。シンボルは月、鋏、鎌。この位階名はミトラス教に存在するオリエント要素の1つである。
獅子(レオ, leo)
守護神は木星ユーピテル)。シンボルは燃料用受け皿、シストルム(ガラガラ)、雷。獅子の仮面をつける。「獅子」位の入信のさいには「兵士」位の者によってハチミツが捧げられた。ポルピュリウスの『妖精たちの洞窟』(15)によると「兵士」の持つクラテールの中で少量のハチミツが水に溶かれ、それを「獅子」位の者の手に注ぐことで浄めとした。


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