マルチ商法
[Wikipedia|▼Menu]
しかしながら商法の呼称に関わらず特商法にいう「連鎖販売取引」に該当している限り、同法の規制を受けることとなる。

連鎖販売取引は、特商法その他関係する法律を遵守する限り違法なものではないが、一般的な商取引に関係する法律に加えて特定商取引法により更に規制を受けている形であると言える。
規制・違法認定基準・処罰

日本国では、マルチ商法はトラブルが起きやすいために特商法で「勧誘目的を告げる」など事業者側へ義務や禁止行為を規定する規制をしており、違反した会員が出た場合に事業者自体も処分することができる。特定商取引法で禁止されているのは、目的や事業者名を相手に明かさない勧誘、又は商品やサービスの概要を記載した書面を渡さない勧誘などであり、これらのどれかに反したマルチ商法の勧誘は違法となっている[36][37][38]。しかし、これらに違反しても、勧誘者らの逮捕例は無く、マルチ商法が野放し状態になっていた[37]

2021年11月11日に京都府でマッチングアプリ経由で知り合った人に、勧誘目的であることを隠して勧誘行為をしたアムウェイ勧誘者らが逮捕され[39]、マルチ商法(マルチ・ネットワークビジネス)勧誘者ら検挙の初事例となった[37]

違反時には消費者庁から法的な処罰が与えられる。連鎖販売業者「日本アムウェイ合同会社」は、社名や目的を言わずの勧誘(統括者の名称及び勧誘目的の不明示)、目的を告げずに勧誘相手を密室や公衆の出入りしない場所に連れ込んだ勧誘、相手の意向を無視した一方的勧誘、契約締結前に書面を交付しない勧誘(概要書面の交付義務に違反)、という4種類の特商法違反を確認されたため、消費者庁によって2022年10月14日に「6カ月の取引停止」という法的処罰が与えられた[40][41][38]

紀藤正樹弁護士は、アムウェイについて1997年に国民生活センターに「苦情・相談件数が4年連続で1000件を超えている」と公表され、マルチ商法という言葉を日本に広めた企業だと述べている[42]。マルチ商法は「原則違法」であり、特定の条件(後述)を満たした場合のみ合法となっている商法であると解説している[42]

紀藤弁護士によれば、当初の特商法は、特定負担(初期費用)が2万円以上かかるマルチ商法のみを違法としていたが、特定負担が2万円未満の悪質マルチ商法が多発した。そのため、2000年の改正で「特定負担が1円以上のマルチ商法は、特定の条件を満たさない限りは違法」と定められた。特定の条件とは、製品名や価格、販売員の氏名、クーリングオフの告知など、必要な要件が定められた契約書の作成である[42]
連鎖販売取引など他の名称

連鎖販売取引もマルチ商法も、「ネットワークマーケティング、ネットワークビジネス、MLM」などの別称で呼ばれる事が多い。連鎖販売取引とマルチ商法が同義であるかという件については、各省庁や消費生活センターなどの公的機関においても見解が分かれている。

経済産業省警視庁日本司法支援センター(法テラス)[43] においては、連鎖販売取引とマルチ商法を同義で使用している。

独立行政法人国民生活センターでは、連鎖販売取引とマルチ商法を同義として使用していない。国民生活センターは、マルチ商法をねずみ講的販売方式全般について広く総称することを基本としている。

地方自治体の消費生活センターでは、マルチ商法を連鎖販売取引と同義としている場合や、ねずみ講的販売方式全般について広く総称している場合など、消費生活センター毎に違いがあり、必ずしも統一して使用されているものではない。

(連鎖販売取引企業も多数加入する)公益社団法人日本訪問販売協会では、「一般的には特定商取引法の連鎖販売取引において、法規制を守らない悪質な商行為を「マルチ商法」と呼ぶことが多い」[44] としている。

このように、公的機関内であっても見解が一致しておらず、連鎖販売取引がマルチ商法、ネットワークビジネスをはじめとして、主宰する企業によって様々な別称で呼ばれる場合も多く、消費者にとって非常にわかり難い状況になっているのが現状である。

業界紙「月刊ネットワークビジネス」の2008年11月号「マンガ安心法律学校(4)/マルチ商法とねずみ講の違いって?」において、「(連鎖販売取引が)マルチ商法ではない」と告げることは「不実の告知(真実を言わない、告知しない)」という法律違反となる恐れがあると、注意を呼びかけている。又、同様の説明をしている企業もある。[45]
参加者・組織の特徴
自己啓発セミナーとの類似性

マルチ商法(MLM)の集団は、前向きな心的態度を活用する「積極思考」(ポジティブシンキング)を信奉し教化する特殊な集団であり、成功も失敗も完全に自分次第であるという究極の自力信仰でもある[46][47]。販売員は、「積極思考」を組織的に会合やビデオ、本などを通じて学び、ビジネスや人生に実践しようとする[48]。現代人の「自分探し」欲求に強烈にアピールする魅力があり、経済的成功の夢で、会社での地位が低い男性や虚無感を抱える主婦、将来に明確なビジョンを持てない若者[49]などを強く惹きつけている[50]資本主義社会に対しては極めて肯定的である[50]自己啓発セミナーとMLMは、起源が共通なことで価値観や組織の実践が似ている[51][14]。ポジティブシンキングで人生がうまくいくという考え方は「動機付けの心理学」とも呼ばれ、多くの自己啓発書で見られるものである[48]。自己啓発セミナーは、集団で常識を改変するようなグループ・セラピー(集団心理療法)の場であることや、セミナー受講後に友人を勧誘するように指導されることが、社会的論争の多いカルトのような存在になる要素になっている[51][52]。自己啓発セミナーとMLMとは、内容やマインドコントロールの手法などに類似点が多く、現在では両者の違いは曖昧になっている[14]。MLM型の自己啓発セミナーでは、受講生に新規顧客を獲得する役割を与え、彼らは感謝の気持ちから行動しているものの、実際には集客ツールとして利用されている[53]。また、無償で働かされるなど、搾取的な側面が存在する[53]。同様の構造は、高額塾やカルト宗教などに対しても見られる[14]

日本においても、その最初期からマルチ商法と自己啓発セミナーとは極めて近い関係にあった[54]。日本における自己啓発セミナーの元祖「ライフダイナミックス(後にアーク・インターナショナルと改名)」の取締役には、「マルチ商法の教祖」である島津幸一が就任していた[54][55]。自己啓発とマルチ商法の相性がよいため、自己啓発の思想をボードゲーム化したもの(『金持ち父さん 貧乏父さん』をボードゲーム化した「キャッシュフローゲーム」や「7つの習慣ボードゲーム」、ナポレオン・ヒルの自己啓発書をボードゲーム化した「アチーバス」など)を使ってマルチ商法の勧誘をする人が多く[56]、一般的なボードゲーム会ではこのタイプのボードゲームは持ち込み禁止とされていることがほとんどである[54]
宗教的要素

社会心理学的には、宗教カルトに似た手口で販売員を勧誘する商業カルトと位置づけられ、マインドコントロールにより心理的に支配し、抜け出せない状況に追い込むと説明されている[18][57][58][59]宗教社会学的には、宗教色の濃いセラピー、心理療法や自助組織、自己啓発セミナー等を「アイデンティティ変容組織(Identity Transformation Organization, ITO)」と規定し、擬似宗教との位置づけからの研究も行われている[18][46]。アメリカでは、友情、奉仕、親交をを中心とした「教会」になぞらえることもある[17]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:165 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef