前史の節にもある通り、1980年代前半までにもマルチメディアを実現したコンピュータはXeroxのワークステーションを中心としていくつか発売されていたが、当時の技術水準ではコストが高過ぎたため全く普及しなかった。
1980年代後半以降、インターネットを実現するための情報スーパーハイウェイ、GUIを基本とするオペレーティングシステムとパーソナルコンピュータにより、様々なメディアから発信されてくる情報データに対し「情報の消費者」であったユーザを、「情報の発信者」にもすることのできる技術が可能になった。「情報収集」と「情報処理」が双方向対話型(Interactive)の「情報伝達方式」と一体となった「技術」がマルチメディアと呼ばれた。その後、マルチメディアを活用した新たなビジネスモデルの構築やベンチャービジネスが活性化し、それら企業に投資するというITバブル時代が到来することになる。
1980年代、ビデオテックスと呼ばれる、文書と画像をネットワークでダウンロードして表示できる情報閲覧システムが商業展開された。フランス政府が無料で端末を配布して普及させたミニテル以外は、コンテンツ不足から広く普及しなかったが、システム性能が低く表示が質素な事以外は現代のWorld Wide Webで行える事の殆どが実現されていた。ビデオテックスの時代にはまだマルチメディアという言葉は一般的ではなかった。
1980年代後半にはGUIを搭載したAmigaが安価な値段で発売されて一部で話題となっていたものの、それ以外を見れば色数の少ないホビーパソコンやモノクロのMacintoshやUNIXワークステーションしか存在しなかった。従って、1980年代後半までのマルチメディア環境は事務的な文書作成に使われることがほとんどであった。
その後、1990年代にシリコングラフィックスの製品を初めとしたCGワークステーションが普及し始め、それらのCGワークステーションで映画やゲームなどが制作されるようになるとともに、PCやゲーム機の画面出力もリッチになって、マルチメディアブームが発生、一般人を巻き込んでCD-ROMなどの大容量パッケージメディアも大きく注目された。家庭用ゲーム機にも続々とCD-ROMドライブが搭載され、文字,音声,画像,動画を組み合わせた大作ゲームが出たことで、マルチメディアは家庭用ゲームの分野で一般化した。特に、MYST,Dの食卓,ファイナルファンタジーVIIなどが美麗な映像表現で注目を集めた。
2000年以降にはインターネットが広く普及してオンラインゲームやWebサイトという形で一般化した。2000年代の日本ではiモードと呼ばれるWebの簡易版のようなサービスが普及した。工場や医療現場などでも動画やセンサーデータなどの複数の情報を統合して閲覧できるシステムが普及し、状況把握が容易になった。
2010年代に入ってVRやAIやIoTなどが流行し、ゲーム,興行,デジタルサイネージ,メディアアートなどという形で実空間を巻き込みながら進化を続けている。2010年代後半にはSNSにおけるマルチメディアを活用した情報共有が当たり前となり、スマートフォンでコンテンツの作成と共有が行えるようになったことで産業,政治,戦争などの人類の諸活動のあり方を大きく変えていった。20世紀末より、情報の利活用はますます重要なテーマになってきており、マルチメディアは常に研究・開発の対象であり続けている。