マルセル・プルースト
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有力なヴェイユ家はシュトゥットガルトに近いドイツの一地方からアルザス経由でパリに来たユダヤの一族であり[8]、同一族からはフランス第三共和政下の有力政治家アドルフ・クレミューなどを輩出している[9]

母ジャンヌは、古典文学を愛好し、非常に文学的教養の高い女性であった[4]。マルセル・プルーストは、芸術に対する繊細な感性をこの母から受けついだ[12]。一家は日頃、母方の祖父母と行き来していたが、通常は新興住宅街のパリ8区のロワ街8番地のアパルトマンで暮し、病弱だったマルセルは母や祖母にとても可愛がられて育った[1][4][5]

母は、結婚後もユダヤ教を守り続けたが、夫妻は子供には父親の家系に倣って、ローマ・カトリックの信仰を持たせることに決め、生まれたばかりのマルセルに1871年8月、サン・ルイ・ダンタン教会で洗礼を受けさせた[13]。マルセル誕生の2年後の1873年5月24日には、生涯にわたって彼と親しい関係を保ち続けた弟ロベール(フランス語版)が生まれた[9][14]。ロベールは兄マルセルとは対照的に、身体が丈夫で明朗な性格であった[5]父親の出身地の田舎町ウール=エ=ロワール県のイリエ。『失われた時を求めて』のコンブレー(フランス語版)のモデル地となったことで、「イリエ=コンブレー(フランス語版)」の名称となった[11][15]

一家は、マルゼルブ通り9番地などに何度か転居をしながらも、高級官僚の多く住むパリ8区に住み続けた[9][10]。プルーストは成人してからも、当時の思い出を大事にするために、晩年の数年間を除いてほとんどの時期をこの8区で過ごしている[9]

パリ市内には他に母方の祖父母のいるフォーブール・ポワソニエール(この地区にはユダヤ人が多く住んでいた)の家や、母の叔父にあたるルイ・ヴェイユが住むオートゥイユの別荘(プルーストと弟はこの家で誕生した)があった[9]。特に叔父の別荘には春から初夏にかけて長い期間滞在するのがプルースト家の習慣になっていた[9]

また、パリ南西100キロメートルほどの場所には、父の出身地である田舎町イリエがあり、ロワール川が近くに流れる豊かな自然に囲まれたこの場所にも、一家はたびたびバカンスに出かけた[9][15]。この町がのちの『失われた時を求めて』の主要な舞台となるコンブレー(フランス語版)のモデルとなった土地である[9][15]。同地はこの作品にちなんで「イリエ=コンブレー(フランス語版)」が正式名称となり、プルースト巡礼の聖地となっている[11][15]

しかし、1881年春に9歳(10歳の誕生日前)のマルセルは、ブローニュの森を散策後に喘息の発作を起こした[1][5][16]。それ以来、花粉と外気が体に障ることを心配した父の判断で、イリエに行くことを禁じられてしまった。喘息の持病はプルーストに生涯付きまとい、このために彼は自由に旅行することができず、またを愛していたにもかかわらず、彼自身は生花に近づくことができなかった[16]。弟ロベールの方は健康に育ち、父と同じ医学の道を継ぐことになるが、病弱なマルセルは『千夜一夜物語』、『アンナ・カレーニナ』などの文学に親しむようになる[16][17]
学生時代15歳のマルセル(1887年3月)

マルセル・プルーストは、パープ・カルパンチエ初等学校で2年過ごした後、1882年10月にセーヌ河の右岸(北側)にあるブルジョア気質のフォンターヌ高等中学(のちのコンドルセ高等中学校)に入学した[18][注釈 2]。このリセ(高等中学)は、自由主義的な気風で知られる名門校であり、プルーストの学友にはエッフェルの息子や、ビゼーの息子のジャック・ビゼーロスチャイルド家の子息、劇作家リュドヴィク・アレヴィ(フランス語版)の息子のダニエル・アレヴィ、ジャック・エミール・ブランシュ(フランス語版)などが混じっていた[18]

プルーストの成績は悪くはなかったがむらがあり、また病気のために欠席が多く、このために1年の留年も経験している[18]。15歳の頃には、オーギュスタン・ティエリの著書を熱心に読んだ[5]。教師の中では、最終学年に習った哲学科のアルフォンス・ダルリュ教授に深く影響された[5]。後にはダルリュの個人授業も受けて(病気のため家庭教師が何人かついた)、その唯心論的な哲学に大いに感化を受けた[18]

授業が午後3時に終わると、プルーストは他の少年たちとシャンゼリゼ公園に行き木立の回りを走り回って遊んでいた[5][18]。中には少女も混じっており、その中には『失われた時を求めて』で語り手の初恋相手ジルベルトのモデルになったポーランド貴族の娘マリー・ド・ベナルダキ(フランス語版)もおり、マリーに強い愛情を抱いた[5][18]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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