マラリア
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

なお、そのハマダラカは、20 - 30匹に1匹の割合でマラリア原虫に感染していた(陸軍軍医学校教官陸軍一等軍医ドクトル、都築甚之助・陸軍二等軍医、大町文興調査)[16]。また、2008年2月半ば、ケニア西部にあるビクトリア湖畔のスバ県の土着マラリアが流行する地域(高地ではない)の伝統的な作りの住居(土壁。6ほどの民家に、夫婦2人と子供5人が生活している)に白いシーツを敷き詰め、屋内に殺虫剤を吹きかけると、10分間で、100匹以上のハマダラカの死骸を採取できた(長崎大学ケニアプロジェクト調査)[要出典]。つまり、この地域の伝統的な作りの住居は100匹以上のハマダラカが屋内に侵入するような劣悪な住居である[要出典]。

なお、2007年、国立感染症研究所ウイルス第一部部長倉根一朗は、マラリアの流行には、特に住宅構造が関係すること、現在の日本の住宅構造を考えると、毎晩、多数の蚊に刺される可能性はほとんど考えられないこと、今の日本のインフラストラクチャーを考えれば、自然災害などが重なってインフラストラクチャーが崩れるなどの変化が起きない限り、仮に地球温暖化が進んだとしてもマラリアが流行するとは思えないということを主張した[17][リンク切れ]。
ワクチン

マラリア原虫は遺伝子を変化させ薬剤耐性を獲得し、免疫防御を巧妙に回避する方向に進化してきた[18][19]ため、実用的な抗マラリア・ワクチンは長年開発途上にあった[20]。しかし2021年10月6日、世界保健機関(WHO)はマラリアに対するワクチンを推奨すると初めて発表した[21]。これは英国グラクソ・スミスクライン(GSR)が30年以上開発してきた「RTS,S」で、原虫の表面タンパク質の一部をウイルスの殻で包んで、人体による抗体産生を促して原虫を排出させ、感染段階で作用させて発症を減らす仕組みである[21]。ただし「RTS,S」を投与しても免疫反応は起きにくいうえ、マラリア原虫は赤血球に侵入して発症させる段階では形態が変わるため、効果は限定される[21]。「RTS,S」は2013年にで販売される見通しとなった旨が報道された[22]。2011年時点では、実用化された場合、マラリア発症リスクが56%、重症化リスクが47%、それぞれ低減されるとしていた[23]

ワクチン開発は、前述のグラクソ・スミスクライン社だけでなく日本の大阪大学微生物病研究所らのグループ[20][24]や、愛媛大学大日本住友製薬による発症抑制型[21]でも行われている。
保健教育

マラリア流行地域から帰国してから1 - 2週間後に高熱が発生した場合はマラリアが疑われるため、熱が下がっても安心せず、直ちに病院を受診することが必要である。再発を防ぐため、投薬中止は自分で判断せず、必ず医師の判断を仰ぐ。
治療

マラリア原虫へのワクチンは上述のとおり開発中だが、抗マラリア剤はいくつかある。マラリアの治療薬としてはキニーネが知られている。他にはクロロキンメフロキン、ファンシダール、プリマキン等がある。いずれも強い副作用が現れることがあり注意が必要。クロロキンは他の薬剤よりは副作用が少ないため、予防薬や治療の際最初に試す薬として使われることが多いが、クロロキンに耐性を示す原虫も存在する。通常は熱帯熱マラリア以外ではクロロキンとプリマキンを投与し、熱帯熱マラリアでは感染したと思われる地域での耐性マラリア多寡に基づいて治療を決定する。近年では、漢方薬を由来としたチンハオス系薬剤(アルテミシニン)が副作用、薬剤耐性が少ないとされ、マラリア治療の第一選択薬として広く使用されるようになった。これによりこれまで制圧が困難であった地域でも大きな成果をあげている一方、アジア、アフリカの一部では既に薬剤耐性が報告されるようになってきた。2010年以後、アルテミシニンはグローバルファンドの援助によって東南アジアのマラリア治療薬としてインドネシアの国境付近のような僻地であっても処方されるようになっている。しかし、近年は殺虫剤に耐性を持つハマダラカや、薬剤に耐性のあるマラリア原虫が現れていることが問題になっている。また地球温暖化による亜熱帯域の拡大とともにマラリアの分布域が広がることも指摘されている。流行地で生まれ育ち、度々マラリアに罹患して免疫を獲得したヒトでは、発熱などの症状がほとんど診られないこともあるが、免疫が無ければ発症する。

三重大学の研究グループは、マラリア治療薬の耐性遺伝子特定法を開発した[25]
疫学 2004年の100,000人あたりのマラリアの障害調整生命年(DALY)[26] body:not(.skin-minerva) .mw-parser-output .columns-list__wrapper{margin-top:0.3em}body:not(.skin-minerva) .mw-parser-output .columns-list__wrapper>ul,body:not(.skin-minerva) .mw-parser-output .columns-list__wrapper>ol{margin-top:0}body:not(.skin-minerva) .mw-parser-output .columns-list__wrapper--small-font{font-size:90%} .mw-parser-output .legend{page-break-inside:avoid;break-inside:avoid-column}.mw-parser-output .legend-color{display:inline-block;min-width:1.5em;height:1.5em;margin:1px 0;text-align:center;border:1px solid black;background-color:transparent;color:black}.mw-parser-output .legend-text{}   no data    <10    10-100    100-500    500-1,000    1,000-1,500    1,500-2,000    2,000-2,500    2,500-2,750    2,750-3,000    3,000-3,250    3,250-3,500    ?3,500

マラリアの発生、流行は、現在、熱帯および亜熱帯地域の70か国以上に分布している。全世界で年間約2億2000万人の患者が発生し、死者数は年間約45万人に上ると報告されている[5]。最も影響が甚大な地域はサハラ砂漠以南のアフリカ諸国である[5]

過去には、日本やヨーロッパなどでもマラリアが流行した[27]イタリアの都市の多くが、丘の上に作られているのは、低湿地がマラリアの多発地帯である事を恐れた結果であったとする指摘がある。実際、過去にはイタリアでもマラリアが存在し、19世紀の政治家・カミッロ・カヴールといった著名人も死去している。しかし、現代では、日本やヨーロッパなどの温帯地域はマラリアの流行地帯ではなく、流行は熱帯地域に多い。

地球温暖化の影響でハマダラカが越冬できる地域が広がったことにより、感染地域が広がる危険性についても指摘されている。
マラリアを保持しないハマダラカ

ハマダラカは、マラリア原虫を媒介する。しかし、ハマダラカが生息していても、土着マラリアが流行していない地域がある。実際、かつて、土着マラリアが流行した西ヨーロッパアメリカ合衆国カナダ南部、北緯64度以南のロシア日本南樺太には、今でもハマダラカが生息しているが、土着マラリアは流行していない。
現代各国の状況(帰属未確定な地域を含む)マラリアの流行地域   クロロキン耐性・多剤耐性あり   クロロキン耐性あり   熱帯熱マラリアまたはクロロキン耐性なし   存在しない
アメリカ合衆国

1930年代まで年間10万人以上のマラリア患者を出しており、特にミシシッピー北西部の低湿なデルタ地帯で流行していた。特にテネシー川流域では人口の3割がマラリアに感染しており、テネシー川流域開発公社ではマラリアの撲滅が重要な課題となっていた。また、アメリカ疾病管理予防センターはマラリアを撲滅するために作られたプログラム及び組織が前身となっている[28]。現在ではアメリカから土着マラリアは根絶されたが[29]、年間2,000例の輸入マラリアが報告されている。
日本

1903年明治36年)時には全国で年間20万人の土着マラリア患者があったが、その後は急速に減少し、1920年大正9年)には9万人、1935年昭和10年)には5,000人に激減している。第二次世界大戦中・戦後復員者による一時的急増があったが、減少傾向は続き、1959年彦根市の事例を最後に土着マラリア患者は消滅した[30]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:106 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef