とされる。
このように、マニ教の神話にはキリスト教原罪思想やグノーシス主義の影響が見られる。そして、人間の肉体は闇に汚されていると考えた一方で、光は地上に飛び散ったために、植物は光を有していると見なした。そのため、後述のように斎戒や菜食主義の実践を重視する。また、結婚・性交は子孫を宿すことで、悪である肉体の創造に繋がる忌避すべき行為と考えられた。また、マニ教は禁欲主義を主張し、肉体を悪の住処、霊魂を善の住処と見なしていることに一つの特徴がある。
三際マニ教断簡を発見したポール・ペリオ
『敦煌文献』をフランスにもたらしたことで知られる東洋学者のポール・ペリオは中国でマニ教断簡(現フランス国立図書館所蔵)を発見しているが、それによれば、宇宙は「三際」と称される3時期に区分される[5]。
初際 - まだ天地がなく、明暗の違いがあるのみである。明の性質は智慧、暗の性質は愚昧だが、まだ矛盾・対立は生じていない[5]
中際 - 暗(闇)が明(光)を侵し始め、明が訪れては暗に入り込んで両者は混合していく。人は、ここにおける大いなる苦しみのために、目に映ずる形体の世界から逃れようと希望する。そして人は、この世(「火宅」)を逃れるには、真偽・光闇を判別し、自ら救われるための機縁を捕まえなくてはいけない[5]
後際 - 教育・回心とを終える。これにより、真偽・光闇はそれぞれ由来の地「根の国」に帰る。光は大いなる光に、闇は闇の塊に回帰する[5]
以上の内容は、8世紀のテオドール・バル=コーナイによるシリア語文献の内容とも合致する[5]。 上述のように、マニは悪から逃れることを説き、そのためには人間の繁殖までをも否定した[7]。ゾロアスター教の教義は、善神アフラ・マズダーと悪神アンラ・マンユの2神を対立させるが、この善悪2神はそれぞれ精神と物質との両面を含んでいる。しかし、マニ教では、光と闇の結合が宇宙を生んだと考えるので、宇宙の創成は究極的には悪の力の作用であるととらえ、やがて全宇宙は崩壊すると考える[7]。そのとき初めて光による救済が起こり、闇からの解放がなされると説くのである[7]。 マニ教では、ザラスシュトラ、イエス・キリスト、釈迦(ガウタマ・シッダールタ)はいずれも神の使いと見なされるが、イエスに関しては、肉体を持たない「真のキリスト」と、それとは対立する十字架にかけられた人の子イエス(ナザレのイエス)とを峻別する[7]。「神の子」を否定するこのようなイエス観は、イスラム教教祖ムハンマドにも継承され、イスラム教のキリスト教理解に大きな影響をあたえた[7]。 マニ教のイエス観は様々な像を結んでいる[14]。 マニは世界宗教の教祖としては珍しく自ら経典を書き残したが、その多くは散逸した[3]。マニは当時の中東のリンガ・フランカであったアラム語の一方言での叙述が多かった。マニは教義を万人対象とするために、多くの人が理解できる言葉で経典を書き記したと思われる。また、彼は速やかに経典を各地の言語に翻訳させたが、その際、彼は教義の厳密な訳出より各地に伝わる在来の信仰・用語を利用して自由に翻訳することを勧めた。場合によっては馴染みやすい信仰への翻案すら認め、異民族・遠隔地の布教に功を奏した[15]。 マニの著作としては、『大福音書』『生命の宝(いのちの書)』『プラグマテエイア』『秘儀の書』『巨人の書』『書簡』などの聖典が断片的に確認されるほか、サーサーン朝第2代の王シャープール1世に捧げたパフラヴィー語文献『シャープーラカン』が遺存している[3][15]。これらのうち、『生命の宝』が『シャープーラカン』に次いで古いと推定される[15]。ほかに『讃美歌と祈祷集』、マニ自身の手による『宇宙図およびその註釈』(後述)があり、また、マニの没後、弟子らによってまとめられたマニと弟子たちとの対話集『ケファライア(講話集)』があった[15]。 マニは、人間は物質でありつつ、アダムとエバの子孫として大量の光の本質を有する矛盾した存在であると説き[16]、人間は「真理の道」に従って智慧を得て現世救済に当たり、自身の救済されるべき本質を理解して自らを救済しなければならないと主張した[16]。このような考えに立って、マニは生存中に自ら教団を組織した[3]。 マニ教の教団組織は仏教に倣ったと考えられる[3]。マニは教師12人・司教72人・長老360人からなる後継者を、2群の信者に分け、それぞれ守るべき戒律も異なるものとした[3][17]。 仏教における出家信者・僧侶に相当するのが義者(エレクトゥス electus, 「選ばれた者」)であり、聖職者として五戒(「真実」「非殺生・非暴力」「貞潔」「菜食」「清貧」)を守り、厳しい修道に励むことを期待された[3][5][17]。肉食は心と言葉の清浄さを保つために禁止され、飲酒も禁じられた[16]。また、殺生に関して、動物を殺めることや、植物の根を抜くことも禁じられた[16]。
禁欲主義
イエス観「イスラームにおけるイーサー」も参照
人の子イエス - マニが自らに先立つ預言者
救世主イエス - アダムに智慧を授けた
宇宙の終末に現れて正邪を裁いて輝くイエス
十字架に架けられて苦しむイエス
物質に囚われた「光の元素」の比喩
教典
教団
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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