マツ
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バンクスマツ (P. banksiana) やリギダマツ (P. rigida) は早い種類では発芽後数年で花を付け始め、特に雌花の形成が早いという[6]。マツ類は雌花において受粉した後に、胚珠が受精完了するまでの期間が長く、翌年の春から夏になって受精に至る。受精後に球果は急激に成長し同年の秋には熟すというパターンが多い。例外的にメキシコに分布するP. nelsoniiは受粉後に年内に受精し球果が成長を始める他、イタリアカサマツ (P. pinea) のようにさらに1年かかり、受粉後3年目の秋に球果の成熟を迎える種もある[7]。球果が開くタイミングは種によって異なる。アカマツやクロマツは種子が成熟すると、すぐに種鱗が開くようになり湿度に応じて開閉を繰り返す。一方で成熟後数年間開かない、もしくは好適な条件下にならないと開かない(晩生球果、serotinous coneなどと呼ばれる)仕組みを持つものもあり、特に火災時に種を散らす仕組みを持つものが多い。また、チョウセンゴヨウやP. cembraなどのように樹上からは落果するものの自然には決して開かず、動物による摂食、もしくは球果が腐敗することによって種子の散布、発芽へとつながる種もある。

陽樹であり、遷移が未発達の厳しい場所に生えるというイメージが強いが、チョウセンゴヨウ (P. koraiensis) のように動物による種子散布を期待する種は実際に動物が生息するようなある程度遷移の進んだ森林においても苗が成長する。一方で火災によって種子を散布するような種は極めて耐陰性や耐病性が低く、遷移の進んだ状態では更新できないものが多い。厳しい環境下でも生育できるようにマツ属は自身の根に菌類の菌糸を侵入させた、特別な根である菌根を形成する。マツは菌類を通じて土壌中の栄養分や水分の吸収を助けてもらっており、逆に菌類に対しては光合成によって得られた同化産物を分け与えているという共生関係にある[8]。マツと共生して菌根を形成する菌類は多数知られている。「キノコ」として我々が利用できる種も多く、日本ではマツタケ(松茸)、ショウロ(松露)、アミタケなどが特に有名。

急斜面に生えるP. canariensisの群落

海岸の岩場に生えるクロマツ

厳しい気候で樹体のほとんどが白骨化したP. longaeva

林床で成長するP. strobus実生

マツは様々な動物に利用される。昆虫に対しては餌や隠れ家を提供する。葉は蛾の幼虫やハバチ、樹液はアブラムシカイガラムシ、木材はカミキリムシゾウムシキクイムシやキバチなどの餌として利用される。球果に侵入して中の種子を食べる昆虫もいる。これらのマツに集まる昆虫を目当てにサシガメなどの肉食性昆虫、アリや寄生蜂なども集まってくる。鳥や獣に対しては営巣場所を提供する。カートランドアメリカムシクイ (Setophaga kirtlandii) とバンクスマツ (P. banksiana) のように密接な関係を持つものから、何種もの木の中からマツ類を営巣場所に選ぶといった程度のものまで様々である。また、種子は餌として利用され、特に一部のマツでは顕著である。マツの方でも動物を利用して種子の散布を図ろうとするものが知られている。

キクイムシの一種で北米で大きな被害をもたらしているマウンテンパインビートル (Dendroctonus ponderosae)

シンクイムシの一種の食痕。ガの幼虫が潜り込んでいる。

ノクチリオキバチ (Sirex noctilio) の幼虫と食痕

バンクスマツとカートランドアメリカムシクイ

微生物や菌類にもマツを利用して生きていく種は多い。前述のように菌類には菌根を形成してマツと共生関係を築くものもある。一方でマツに一方的に被害を与える微生物も多い。何種ものサビキン類やある種の線虫、菌類であってもマツノネクチタケ類、ツチクラゲナラタケ類 (Armillaria sp.) などは一方的にマツの生体を攻撃して時に枯死させる。

発疹さび病を発病したストローブマツ

さび病による瘤が見られるP. banksiana

Gremmeniella abientinaの感染により枯死した枝と病原の胞子

キクイムシ(とその共生菌)の攻撃で枯死したP. contorta

マツを利用する菌類や微生物の中には、移動能力に乏しく動物を利用するものが知られている。逆に菌類や微生物によって衰弱したマツを昆虫が利用するということも知られており、両者は共生関係にあるとも言える。例えば我が国のマツに大きな被害を与えているマツ材線虫病はマツノザイセンチュウによって引き起こされる病気である。この病原の媒介者であるマツノマダラカミキリは、健全なマツよりも衰弱しているマツに好んで産卵する。線虫の感染によって材線虫病を発症し、衰弱したマツにカミキリは産卵、センチュウはカミキリが羽化する際にカミキリと共に次のマツへと移る。カミキリは線虫の病原性によって産卵場所の増加が、線虫はカミキリによって分布の拡大が利益になる。オーストラリアニュージーランドで大きな被害を出したノクチリオキバチ (Sirex noctilio) の場合も同様の関係があるが、共生菌はマツを衰弱させるだけでなく、キバチの幼虫の餌としても利用される。キクイムシの仲間も同様の関係を持つものが多い。

更新は一般に実生による。萌芽更新や伏条更新[注釈 2]といった栄養繁殖は多くの種類では一般に行わない。ただし、火災が頻発するような地域に分布する一部の種は萌芽力が発達しており、火災で焼損しても枯死せずに萌芽で再生することがある。また、ハイマツ (P. pumila) のように伏条更新を行うものも知られている。

人工的に繁殖させる場合、挿し木接ぎ木による繁殖も考えられる。しかし、マツ類は接ぎ木はともかく、挿し木が困難なグループとして昔から知られている[9]。特に挿し穂を採取する母樹の樹齢が高い場合は極めて発根しにくいという報告が多い。挿し木の一種として、挿し穂として長枝ではなく、短枝を使う方法もありハタバザシ(葉束挿し)と呼ばれる。発根はするものの、地上部が成長せずに結局枯れるなどという報告もあるが、地上部の成長に成功している場合もある[10]

マツは五葉マツ類発疹さび病マツ材線虫病といった世界的に流行している病害への対策や、他の優良形質の固定も含めて、接ぎ木よりも効率的なクローン技術である挿し木の研究が古くから研究されてきた。前述のように若い個体は発根率が良いことが知られている。しかしながら、若い個体は挿し穂にできる枝が少ないことから優良個体を量産するには課題があった。近年、植物ホルモンの一種、サイトカイニンを投与することでマツの不定芽を活性化され、若い個体でも多数の挿し穂を確保できる技術が開発され、これを利用した挿し木量産技術が確立されつつある。日本ではこれをマツ材線虫病の抵抗性育種に応用することが考えられており、抵抗性の親木から得られた実生苗に病原であるマツノザイセンチュウを接種、接種試験によって枯死しなかった苗にサイトカイニンを投与して、材線虫病抵抗性の挿し穂・挿し木苗を量産することが考えられている。

火災をうまく利用する種も多いP. nigra

火災で枯損した主幹下部から萌芽が伸びるP. echinata

萌芽更新で再生中のP. canariensis

接ぎ木されたアカマツ。穂木と台木の結合部分

名前・方言名

マツ(松)の由来は、「(神を)待つ」、「(神を)祀る」や「(緑を)保つ」が転じて出来たものであるなど諸説ある。後述のように東アジア圏では神の下りてくる樹や不老不死の象徴として珍重されることを考えると「待つ」から転じたという説がいかにもそれらしい。英語ではpineと呼ばれ、これはラテン語のpinus(この属の名前としても使われている)に由来する。ラテン語のpinusの由来はタール状のものを指すという。さらにラテン語pinusの由来はギリシア神話に出てくる妖精ピテュス (Πιτυ?, Pitys) が由来という説もある。ピテュスは牧羊神パーンから追われた時、松に変身して逃げたという。

針葉樹を代表する樹木としてマツ属で無い樹木にも「マツ(松)」の名が充てられることがあり以下にその例を示す。いずれも針葉樹であるがマツ属ではない。同じような事例はスギ(Cryptomeria japonica、ヒノキ科)でも知られる。ヒマラヤスギ(Cedrus deodara)はヒノキ科ではなくマツ科の針葉樹であるし、ナンヨウスギ科(Araucariaceae)という一群も存在するがスギとは遠縁である。


トドマツ Abies sachalinensis

漢字表記は椴松。モミ属 (Abies) に属する。マツ属と違い枝は長枝だけしか持たない。球果は鱗片に突起状の構造(英:umbo)を持たず樹上で分解するなどの特徴を持つ。種小名sachalinensisはサハリンという意味で分布地に因む。日本では北海道を代表する針葉樹である。

湖畔に成立したトドマツ個体群(知床五湖

トドマツの葉は長枝に直接付く

分解中の球果。


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