マツ
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しかし、マツ類は接ぎ木はともかく、挿し木が困難なグループとして昔から知られている[9]。特に挿し穂を採取する母樹の樹齢が高い場合は極めて発根しにくいという報告が多い。挿し木の一種として、挿し穂として長枝ではなく、短枝を使う方法もありハタバザシ(葉束挿し)と呼ばれる。発根はするものの、地上部が成長せずに結局枯れるなどという報告もあるが、地上部の成長に成功している場合もある[10]

マツは五葉マツ類発疹さび病マツ材線虫病といった世界的に流行している病害への対策や、他の優良形質の固定も含めて、接ぎ木よりも効率的なクローン技術である挿し木の研究が古くから研究されてきた。前述のように若い個体は発根率が良いことが知られている。しかしながら、若い個体は挿し穂にできる枝が少ないことから優良個体を量産するには課題があった。近年、植物ホルモンの一種、サイトカイニンを投与することでマツの不定芽を活性化され、若い個体でも多数の挿し穂を確保できる技術が開発され、これを利用した挿し木量産技術が確立されつつある。日本ではこれをマツ材線虫病の抵抗性育種に応用することが考えられており、抵抗性の親木から得られた実生苗に病原であるマツノザイセンチュウを接種、接種試験によって枯死しなかった苗にサイトカイニンを投与して、材線虫病抵抗性の挿し穂・挿し木苗を量産することが考えられている。

火災をうまく利用する種も多いP. nigra

火災で枯損した主幹下部から萌芽が伸びるP. echinata

萌芽更新で再生中のP. canariensis

接ぎ木されたアカマツ。穂木と台木の結合部分

名前・方言名

マツ(松)の由来は、「(神を)待つ」、「(神を)祀る」や「(緑を)保つ」が転じて出来たものであるなど諸説ある。後述のように東アジア圏では神の下りてくる樹や不老不死の象徴として珍重されることを考えると「待つ」から転じたという説がいかにもそれらしい。英語ではpineと呼ばれ、これはラテン語のpinus(この属の名前としても使われている)に由来する。ラテン語のpinusの由来はタール状のものを指すという。さらにラテン語pinusの由来はギリシア神話に出てくる妖精ピテュス (Πιτυ?, Pitys) が由来という説もある。ピテュスは牧羊神パーンから追われた時、松に変身して逃げたという。

針葉樹を代表する樹木としてマツ属で無い樹木にも「マツ(松)」の名が充てられることがあり以下にその例を示す。いずれも針葉樹であるがマツ属ではない。同じような事例はスギ(Cryptomeria japonica、ヒノキ科)でも知られる。ヒマラヤスギ(Cedrus deodara)はヒノキ科ではなくマツ科の針葉樹であるし、ナンヨウスギ科(Araucariaceae)という一群も存在するがスギとは遠縁である。


トドマツ Abies sachalinensis

漢字表記は椴松。モミ属 (Abies) に属する。マツ属と違い枝は長枝だけしか持たない。球果は鱗片に突起状の構造(英:umbo)を持たず樹上で分解するなどの特徴を持つ。種小名sachalinensisはサハリンという意味で分布地に因む。日本では北海道を代表する針葉樹である。

湖畔に成立したトドマツ個体群(知床五湖

トドマツの葉は長枝に直接付く

分解中の球果。モミ属の球果は樹上に直立し樹上で分解する



エゾマツ Picea jezoensis

漢字表記は蝦夷松。トウヒ属 (Picea) に属する。マツ属と違い枝は長枝だけしか持たない。球果の鱗片には突起状の構造(英:umbo)が発達しない。種小名jesoensisは蝦夷という意味で分布地に因む。トドマツと同じく北海道を代表する針葉樹である。アカエゾマツ(Picea glehnii)も同属。

エソマツの樹形

エゾマツの葉は長枝に直接付く

トウヒ属の枝は葉枕という構造が発達し凹凸が著しい



カラマツ Larix kaempferi

漢字表記は落葉松で、その名の通り冬に落葉する珍しい針葉樹(マツ属は常緑)。カラマツ属 (Larix) に属する。マツ属と同じく枝は長枝と短枝を持ち、短枝から葉を生やすが枝先の若い長枝にも葉を付ける。この点が短枝にしか葉を付けないマツ属とは異なっている。短枝に付く葉もマツ属とは印象がかなり異なる。球果はマツ属のものによく似ているが鱗片上に突起状の構造(英:umbo)は発達しない。長野県を中心とする本州中央部の山岳地帯を原産とするが寒冷地に適する造林樹種ということで北海道や東北地方にも広く植栽されている。樺太や千島列島に分布するグイマツ(Larix gmelinii)も同属。

カラマツは秋に黄葉し落葉する

短枝に多数が束生するカラマツの葉

カラマツの球果は突起(umbo)が発達しない



ラクウショウ Taxodium distichum

漢字表記は落羽松。これも冬に落葉する針葉樹で葉が小枝と共に落ちる様子が羽に見えることに由来する。ヒノキ科に属しマツとは科単位で異なる。湿地でも生育できることからヌマスギ(沼杉)の別名を持ち分類的にはこちらの方が近い名前である。アメリカ南東部原産。

湿地に生えるラクウショウ(ヌマスギ)

紅葉するラクウショウ

膝根(knee)と呼ばれる呼吸根

鳥の羽のような葉



ベイマツ Pseudotsuga menziesii

漢字表記は米松。アメリカ原産のマツ科針葉樹。ベイマツは主として木材業界における名前であり、分類的にはトガサワラ属 (Pseudotsuga) に属する。アメリカトガサワラと呼ばれることもあり分類的にはこちらの方が近い名前である。日本にも紀伊半島および四国に同属のトガサワラ(Pseudotsuga japonica)が分布する。属名Pseudotsugaはツガ属(Tsuga)に似たという意味で形態的に似ていることによる。枝は長枝しか持たず、球果の鱗片には突起状の構造(英:umbo)が発達しない。

ベイマツの樹形

ベイマツの球果

また、マツの形態的特徴は樹木以外の生物の名前に使われることもある。たとえば鋭い葉はマツバギク(松葉菊、Lampranthus spectabilis、ハマミズナ科)やマツバボタン(松葉牡丹、Portulaca grandiflora、スベリヒユ科)に使われる。ごつごつした樹皮や球果からマツハダ、マツカサの名前を持つ生物も知られる。

マツバギク Lampranthus spectabilis

マツバボタン (Portulaca grandiflora)

ウロコマツカサ(Myripristis botche、キンメダイ科

人間との関わり
景観

種類にもよるが、他の樹木が生えないような岩や砂だらけの荒地でもよく育つ。霧に包まれた険しい岩山に生えるマツは仙人の住む世界(仙境)のような世界を演出し、特に中国の黄山華山の光景は見事である。海岸地帯においても時に優先種となり、白い砂と青々としたマツの樹冠の対比の美しさは白砂青松などと呼ばれる。これは特に日本で親しまれており松島天橋立桂浜虹ノ松原などが有名。

街路樹としても用いられ、並木道を作り出すこともある。厳しい環境でも育つために砂漠や荒地の緑化用として使われる種もある。日本の白砂青松の名所の中には元々は草本しか生えていなかった、もしくはクスノキタブノキなどの極相林が成立していた所を極相種の伐採利用と飛砂防止などでクロマツの植栽の結果成立したと見られる所も多い。個人の家の周りに防風林や生垣として植えられる(いわゆる屋敷林)としての場合もあり、マツを用いたとくに有名なのものに島根県出雲地方の築地松がある。

仙人の住みそうな岩山とマツ(中国黄山

砂浜とマツ(福井県気比松原

東海道の松並木(愛知県豊川市

アッピア街道の松並木(イタリア)

植栽された松の一種の苗木

庭木や庭園樹などとしても世界的に親しまれている。後述の通りマツは種類が多く、葉が垂れる種、樹皮の色や割れ方が特徴的な種などが自然に揃っている。


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