日本では小笠原諸島近海に雌と子供の群れが定住し、知床半島近海には陸地の間近に雄が見られる[注釈 8]。カイコウラ沖やイオニア海(地中海)などにも完全なあるいは季節的定住群が存在する。通常マッコウクジラは回遊することが多いので、これは特異な事例である。
また、日本列島においては他にも北海道の釧路市沖、宮城県の金華山沖、千葉県の銚子市や館山沖、静岡県の富戸や駿河湾、伊豆諸島、遠州灘、熊野灘、室戸岬や土佐湾沖、玄界灘、五島列島や男女群島沖、鹿児島県の笠沙町沖や屋久島や奄美大島沖、南西諸島などを回遊することがあり、これらの地域の多くではホエールウォッチングが行われてきた[16]。
しかし、本種は現代の北西太平洋に生息する大型鯨類では最も個体数が豊富な一種であるものの、現在の日本列島の沿岸部での生息状況は捕鯨時代から十分に回復しているとは言えず、個体数が著しく低下しただけでなく、たとえば北海道から常磐沖で越冬していた個体群など、激減した個体群や海域も存在する[16]。
日本海には基本的には分布しないとされる場合が目立つが、実際には捕鯨も行われていたことから日本海にも生息していたことは確実である。近年でも韓国や日本の沿岸や近海で少数が確認されており、2024年に発表された調査結果では、朝鮮半島の近海に本種が増加(復活)しつつあることが判明している[17][18]。
世界規模で多く生息している個体群には不明確なものもあり、地中海におけるクリック音の観測や目撃情報などの分析から、詳細は不明ながらも、想定以上に多く生息しているであろう事実が確認された事もある(詳細は「深海への適応」参照)。ただし、北米大陸の西海岸沖やイギリス周辺、オーストラリア南西部やニュージーランド周辺[注釈 9]、日本列島の沿岸の各地など、捕鯨の影響から回復が遅れているために個体数の少ない海域も点在する。
形態マッコウクジラ科のヒトとの大きさの比較ヒトとの大きさの比較。ただし、確認された最大の体長は20.7メートルである[19]。並んで泳ぐ2頭 (噴気孔が見える)
現生のハクジラ類の中で最も大きく、現生鯨類全体でもナガスクジラ科とセミクジラ科に次ぐ大きさを持つ。また、歯のある動物[20]では世界最大であり、巨大な頭部とその形状が特徴的である。
本種は全てのクジラ類の中で最も大きな性差をもつ。標準的なオスの体長は約16 - 18メートルであり(長さの比較資料:1 E1 m)、メスの約12 - 14メートルと比べて30 - 50%も大きい。体重はオスの50トンに対し、メスは25トン と、ほぼ 2倍の差異がある。なお、誕生時は雌雄いずれも体長約4メートル、体重1トン程度である。ハクジラの中では最大種であり、成長したオスには体長が20メートルを越えるものもいる。24メートル以上という記録も複数存在し、エセックス号(英語版)を撃沈した個体[注釈 10]は26メートルに達したともされているが、これらの記録は捕獲した個体の体表に沿って計測されたと思わしいため、確認されている最大の記録としては、千島列島で捕獲された体長20.7メートル、推定体重80トンの雄が存在する[19][21]。