マッコウクジラ
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マルコ・ポーロの『東方見聞録』には、マダガスカル島沖でマッコウクジラが捕獲され龍涎香が採れたことが記されている。マッコウクジラの「龍涎香」が、抹香に似た香りを持っていることから、近代日本の博物学では中国語名「抹香鯨」に倣って「抹香のような龍涎香を体内に持つ鯨」との意味合いで呼ばれ、そのまま和名として定着した。
英語名と油脂

英語名の「sperm whale」の原義は、「精液(のような液体である鯨蝋が採れる)鯨」である(「#脳油(鯨蝋)」の節を参照)。別名にフランス語を由来とする「Cachalot(キャシャロット)」があり、これはアメリカ海軍の艦名にもなっている(別項「潜水艦カシャロット」を参照)。
分布カイコウラにおけるホエールウォッチングブリーチング(英語版)を行う頻度は高くない(アゾレス諸島にて)。

北極から南極まで世界規模で分布しており、深海沖に最も多くが生息している。社会的単位は安定していて、雌と子は部分的に母系の集団で暮らす。雄は高緯度の寒流域にも進出するが、メスと子が暖流域の外に出ることは滅多にない。

本種は基本的には深海性だが、たとえばアジア圏では千島列島コマンドルスキー諸島知床半島金華山沖、東京湾房総半島周辺[注釈 7][8][9]伊豆半島周辺[10][11]から伊豆諸島、火山列島屋久島奄美諸島から南西諸島[12][13]台湾マリアナ諸島[14]など、沿岸近くに見られる海域も数多く存在する。これらの海域では積極的な観察の対象になることも多い。特に成熟雄などは満足な遊泳ができないほどの浅い湾などに入り込み、しばらく休息してから外洋に出ていくこともある。スコットランド沖やフィリピン沿岸になど、沿岸性の特殊な個体群なども存在する[15]

日本では小笠原諸島近海に雌と子供の群れが定住し、知床半島近海には陸地の間近に雄が見られる[注釈 8]カイコウラ沖やイオニア海地中海)などにも完全なあるいは季節的定住群が存在する。通常マッコウクジラは回遊することが多いので、これは特異な事例である。

また、日本列島においては他にも北海道釧路市沖、宮城県金華山沖、千葉県銚子市館山沖、静岡県富戸駿河湾伊豆諸島遠州灘熊野灘室戸岬土佐湾沖、玄界灘五島列島男女群島沖、鹿児島県笠沙町沖や屋久島奄美大島沖、南西諸島などを回遊することがあり、これらの地域の多くではホエールウォッチングが行われてきた[16]

しかし、本種は現代の北西太平洋に生息する大型鯨類では最も個体数が豊富な一種であるものの、現在の日本列島の沿岸部での生息状況は捕鯨時代から十分に回復しているとは言えず、個体数が著しく低下しただけでなく、たとえば北海道から常磐沖で越冬していた個体群など、激減した個体群や海域も存在する[16]

日本海には基本的には分布しないとされる場合が目立つが、実際には捕鯨も行われていたことから日本海にも生息していたことは確実である。近年でも韓国日本の沿岸や近海で少数が確認されており、2024年に発表された調査結果では、朝鮮半島の近海に本種が増加(復活)しつつあることが判明している[17][18]

世界規模で多く生息している個体群には不明確なものもあり、地中海におけるクリック音の観測や目撃情報などの分析から、詳細は不明ながらも、想定以上に多く生息しているであろう事実が確認された事もある(詳細は「深海への適応」参照)。ただし、北米大陸の西海岸沖やイギリス周辺、オーストラリア南西部やニュージーランド周辺[注釈 9]日本列島の沿岸の各地など、捕鯨の影響から回復が遅れているために個体数の少ない海域も点在する。
形態マッコウクジラ科のヒトとの大きさの比較ヒトとの大きさの比較。ただし、確認された最大の体長は20.7メートルである[19]並んで泳ぐ2頭 (噴気孔が見える)

現生のハクジラ類の中で最も大きく、現生鯨類全体でもナガスクジラ科セミクジラ科に次ぐ大きさを持つ。また、のある動物[20]では世界最大であり、巨大な頭部とその形状が特徴的である。

本種は全てのクジラ類の中で最も大きな性差をもつ。標準的なオスの体長は約16 - 18メートルであり(長さの比較資料:1 E1 m)、メスの約12 - 14メートルと比べて30 - 50%も大きい。体重はオスの50トンに対し、メスは25トン と、ほぼ 2倍の差異がある。なお、誕生時は雌雄いずれも体長約4メートル、体重1トン程度である。ハクジラの中では最大種であり、成長したオスには体長が20メートルを越えるものもいる。24メートル以上という記録も複数存在し、エセックス号(英語版)を撃沈した個体[注釈 10]は26メートルに達したともされているが、これらの記録は捕獲した個体の体表に沿って計測されたと思わしいため、確認されている最大の記録としては、千島列島で捕獲された体長20.7メートル、推定体重80トンの雄が存在する[19][21]

本種を特徴づける著しく肥大化した頭部は、その長さがオスで体長の3分の1に達する。これは、クジラ類の中でも例外的に巨大である。は、おそらく全ての動物の中でも最大・最重量であり、成体のオスでは平均で7キログラムに達するが、身体サイズに比べれば決して大きな脳ではない。

背中の色は一様に灰色だが、日光の下では褐色に見えるかもしれない。背中の皮膚は通常凸凹(でこぼこ)で、他の大きなクジラのほとんどが滑らかな皮膚をしているのとは対照的。

噴気孔(呼吸孔、鼻孔)の位置は頭部正面に集中しており、遊泳方向に向かって左側にずれている。そのため、潮吹きは前方に向かった特徴的なものとなる。背鰭(せびれ)は背骨に沿って前から3分の2の場所に位置し、通常は短い二等辺三角形の形状をしている。尾は三角形で非常に厚い。クジラが深い潜水を始める前には、尾は水面から非常に高く引き上げられる。

全身骨格図

下顎の骨格(神戸市立須磨海浜水族園

マッコウクジラの歯

陰茎

生態
歯と食性ダイオウイカによって刻み付けられた吸盤の傷跡が残るマッコウクジラの皮膚[注釈 11]


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