マッコウクジラ
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歯と食性ダイオウイカによって刻み付けられた吸盤の傷跡が残るマッコウクジラの皮膚[注釈 11]

下顎(したあご)に20 - 26対の円錐形の歯を有する。それぞれの歯は約1キログラムもの重量がある。

丸呑みが可能なイカ類を食べるために歯は不要と考えられており、本種が歯を備えている理由ははっきりとは分かっていない。歯を持たないにもかかわらず健康に太った野生の個体も、実際に観察されている。現在では、同種のオス同士で争う際に歯が使用されるのではないかと考えられている。この仮説は、成熟したオス個体の頭部に見つかる傷の形状が歯形にあっていたり、歯が円錐形で広い間隔を空けて配置されている理由も説明できる。上顎の中にも未発達の歯が存在するが、口腔内まで出てくることはまれである。似た食性を持つハナゴンドウもマッコウクジラと同じく下顎にのみ歯を有している。この種はマイルカ科に属すが、多くの部分でマッコウクジラと酷似している。

近年の研究では、子を海面に残したまま深海へ獲物を獲りにいった親が、捕らえた獲物を子の餌としてくわえたまま持ち帰る姿が確認されている。映像に収められている獲物はダイオウイカであり、一匹丸ごとではなく、一部だけを持ち帰ってきた。このことから、歯の存在理由が獲物をかみ切ること、獲物を深海から海面へ運ぶときの滑り止めとするなどの仮説も考えられる。
食餌ダイオウイカの捕食(アメリカ自然史博物館)「クジラ#鯨食害論」も参照

ヤリイカダイオウイカなど主な食性はイカ類であり、スケソウダラメヌケフリソデウオ科ツノザメ科のような大型の深海魚類も餌となる。

試算では、マッコウクジラの摂餌量は年間で9千万トン - 2億2千8百万トンと推計される[22]。この95%がイカとすれば、およそ8千万トン - 2億トンのイカがマッコウクジラに食べられ、それは世界中の年間漁獲量の30 - 66倍になるという[22]。もっとも、マッコウクジラが食するイカは、主に中深層に生息するクラゲイカといった大型イカ[注釈 12]と考えられ、それらのイカは人間の食用種ではない[22]

また、日本政府が捕鯨問題において捕鯨を正当化するために用いた「鯨食害論」は国内外の識者からの批判を受けており、2009年6月の国際捕鯨委員会の年次会合にて、日本政府代表代理だった森下丈二水産庁参事官が鯨類による漁業被害(害獣論)を撤回している[23]

他にも、優先度は低いもののウバザメオンデンザメメガマウスアオザメエイマグロなどの大型魚類やウナギサーモンなどの多様な魚類を捕食していると考えられる記録もある[24][25]
子育てと社会形成群れのメンバー同士の絆は強い(アゾレス諸島

本種は家族の絆がとても強い。子は生まれてすぐには深海に潜ることができない。母親は子が深海へ潜ることができるようにするため、しばしば訓練をするが、子がなかなか潜ろうとしない場合は母乳を飲ませながら潜る。最近の研究では頻繁に深海と海面を行き来することが分かっている。

成熟した雄は、通常は独り立ちし、雌や子供が進出しない極海に至るまで広範囲を回遊する。若い雄同士で独自のグループを形成する。また、雌や子供の群れがシャチや捕鯨船などに襲われた際に救出にくることもある[26]。群れを守るために捕鯨船(大型帆船)を雄が攻撃して沈没させた例[注釈 13]も存在する。

また、後述の通り、花形の円陣(マーガレット・フォーメーション)を組んでシャチへの抵抗を見せることがある[27]

スキンシップ(アゾレス諸島





異種間交流

近年、ホエールウォッチングが世界中に盛んになり、比較的個体数の多い本種も観察の対象とされる。特にカイコウラなどの様々な地域がマッコウクジラを対象としたホエールウォッチングで発展してきた。また、捕鯨を知らない若い世代が増えたこともあり、人間や船舶などに対する警戒心が薄れ、より人懐っこくなりつつある[28]

ザトウクジラナガスクジラミンククジラシャチなどと行動を共にする場合がある。日本では、根室海峡[29]伊豆諸島等でこれらの交流が観察された。

2011年には、アゾレス諸島にて、奇形ゆえに群れから脱落したと思わしいハンドウイルカにマッコウクジラの群れが寄り添っていた観察例が報告されている[30]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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