マインドコントロール
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統一教会元信者で心理学者スティーブン・ハッサンは、認知不協和理論を元にマインドコントロールの4つの構成要素を定義した[15]

行動コントロール

思想コントロール

感情コントロール

情報コントロール

行動コントロールとは、個々人の身体的世界のコントロールであり、仕事、儀礼、その他個人が行う行為のコントロールとともに、住居や着用する衣服、食事、睡眠などの環境コントロールを含む。多くのカルト宗教は信者に対して非常に厳格なスケジュールを定めるが、これは行動コントロールの一種である。特定のグループは特色ある儀礼的行動のセットがあり、形にはまった話し方、身振り、表情などが求められる。もし誰かがその形から外れた行動を行うと、その人はグループのリーダーから非難される。内面の思想は支配できなくても、行動を支配すれば、感情と精神はそれについてくるのである[15]

思想コントロールは、メンバーに徹底的にそのグループの教えと新しい言語体系を教え込み、自分の心を「集中した」状態に保つための思考停止の技術を使えるようにすることである。典型的なカルト宗教では、そのカルトの思想・教義が入ってくる情報をフィルターにかけて、その情報をどのように考えるべきかを規制する。また、多くのカルト宗教では独特な言葉と表現である「詰め込み言語」をもっている。この特殊な用語は、信者と外部の人間に見えない壁を作り、メンバーに選民思想を植え付け、一般大衆から隔絶する役割がある。思想コントロールのもう1つの役割として、グループに批判的な情報をすべて遮断するようにメンバーをコントロールすることが挙げられる。もし、カルトのメンバーに伝わった情報がリーダーや教義やグループに対する攻撃だとみなされると、敵対勢力による陰謀であると認識され、適切には受け止められない[15]

感情コントロールは、人の感情の幅を巧みな操作で狭くしようとするものである。罪責感と恐怖感が、集団への順応と追従を作り出すための感情的手段として使われる。恐怖感を演出するためには、2つの手法が使われる。1つは外部の敵を作り出すことである。外部の敵の例として、地獄へさらっていく悪魔のような存在、諜報機関や敵対勢力の銃撃や拷問、強制的説得者などが想定される。もう1つは、リーダーに対する恐怖である。自分の仕事をしっかりやらなければ恐ろしいことが起こるという恐怖感は効果的である。あるカルトでは、メンバーの献身がゆるむと、核戦争などの大災害が起こると断言する。過去の罪や過去の誤った態度を告白させることも、感情コントロールの典型例である。もし、メンバーが離脱しようとすれば、その罪が引き合いに出されて、そのメンバーをふたたび従順にするために利用される。感情コントロールの一番強力な技術は、恐怖の教え込みである。もしグループを離脱すれば、発狂する、殺される、麻薬中毒になる、自殺するなどと教え込むことである[15]

情報コントロールは、ある人が受け取る情報をコントロールすることであり、これによってその人が自分で考える自由な能力を抑えることができる。多くのカルトでは、メンバーはカルトが作ったメディア以外には最小限しか接しない。メンバーの相互監視や密告も推奨され、不適切な言動はリーダーに報告するように指示される[15]

弁護士の郷路征記によれば、マインドコントロールは複数の心理効果を組み合わせて行われる[5]

希少性の原理

好意の原理

返報性の原理

社会的証明

一貫性の原理

権威

集団への同調

社会的比較の制限

催眠の技術

希少性の原理は、手にすることは難しいものは貴重なものであるので、それは貴重なものであると考えるメカニズムである。「数量限定」と宣伝したり、最終期限を設けたりすることが挙げられる。好意の原理は、自分が好意を持っている人の指示に従う心理効果である。人を操作して好意を持たせることも可能であるとされる。例えば、人は自分と共通点がある人に好意を持つ傾向があるため、マインドコントロールを試みる人間は、ターゲットの人間と似ていることを、ありとあらゆる方法で示すことで、目的を達成しようとする。その他にも、お世辞、協同行動、快適な情報との結びつけ、ランチョン・テクニック(会食)などが使用される。返報性の原理は、他人から何かの恩義を受けたら、お返しをしなければならないと考える心理効果である。このルールは人間社会の文化に深く浸透しており、マインドコントロールの技術としては、最も効果があるとされる。社会的証明の原理は、人は他人がなにを正しいと考えているかを、正しさの基準として捉える傾向が強い心理効果である。多くの場合、より多くの人間が行っているのであれば、それが正しい行動であるとみなされる。そして、より自分に似た他人の行動を模倣する傾向があるとされる。一貫性の原理は、人間が自分がすでにしたことに対して一貫した態度を取りたがる心理効果である。この一貫性の原理を働かすためにコミットメントが用いられる。ある立場を明確にさせたり、公言させることができれば、その立場に一貫して行動しようとする傾向が自然に生じるのである。権威は、ミルグラム実験で確認されたように、人間が権威に対して服従する原理である。集団への同調は、ソロモン・アッシュ同調実験で示されたように、人間は集団からの同調圧力に弱く、異なる意見を述べることが難しくなる原理である。社会的比較の制限は、外部の人間との交流を遮断して、特定の『信念』を植え付けることである。人間は新しい情報に対しては、それまでに獲得した信念と一致するかしないかの吟味を行い、受け入れるかどうかの判断を行うが、そのときの不一致情報は自分の体験や他の関連する信念にあてはめて解釈するか、周囲の人間の意見(リアリティー)と比較して判断する。また、なにか重大な悩みや問題を抱えていて、それを一気に解決してくれる情報であったとしたら、人はその情報を受け入れて新しい信念とする。これは価値依存性とも呼ばれる。催眠の技術は、大脳の機能を低下させた上で、新しい情報に対する判断能力を低下させることである。脳は過剰な刺激を受けると、機能が低下して働かなくなり、言われたことをそのまま受け入れてしまう。これが催眠の技術である[5]

社会心理学の「社会的影響力の行使、説得」という分野においては、不法行為責任を追及するために相当因果関係を説明する議論として、かなり議論が確立されており、若者の消費者被害を心理的要因から分析する等、近年も活用されている[11][16]。社会心理学者の西田公昭以外にマインドコントロール論を専攻する者がいないなど、専門の研究者は少ない[10]。また、大田俊寛など批判的な見解を示す専門家も存在する[3]

弁護士紀藤正樹は、消費者被害救済の観点から、目的、方法、程度、結果などを見て、それらが法規範や社会規範から大きく逸脱している場合は、これをマインド・コントロールと判断して問題視すべきであると主張している[6]
発祥

近代のマインドコントロールは、1950年代中国共産党が反対者の転向に用いた「洗脳」が知られている[17]1940年代の中国で共産主義に賛同しない人間を収容施設で思想改造しようとした試みを研究したロバート・J・リフトン著作『思想改造の心理──中国における洗脳の研究』(1961年)がマインドコントロール論の出発点とされる[3]。調査した25人のうち、共産主義に転向した者は1人のみであり、リフトンは「彼らを説得して、共産主義の世界観へ彼らを変えさせるという観点からすると、そのプログラムはたしかに、失敗だと判断せねばならない」と述べている[3]。しかし、心理学者スティーブン・ハッサンは、現在は当時より遥かに洗練されたマインドコントロールの技術が、たくさん存在していると述べている[18]

1970年代アメリカ合衆国において、当時史上最大の被害者を出したカルト教団の集団自殺人民寺院事件があり、カルト宗教の信者などが周囲から見てまったく別人のように人格や性格が変わり、以前のような普通の家庭生活を送ることやカルト宗教から脱会させることが困難になるなどし、家族・友人らによってカルトの恐怖が広く語られるようになった[19]
日本

1990年代統一教会などの報道を通じ、統一教会信者の脱会運動に取り組む弁護士らによりマインドコントロールは語られるようになった[19]1992年の統一教会の合同結婚式に参加した山崎浩子が、翌1993年に婚約の解消と統一教会から脱会を表明した記者会見で、「マインドコントロールされていました」と発言したことによりこの語が広く認知されるようになった[20][21][10]


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