ポピュリズム
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日本では、「固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイル」という意味で使用されることが多い[1][2][3]

有権者に政治への参加を促したり、政治の大きな変動をもたらすこともあり、民主主義にとって有益な一面もある[4]。一方で、大衆の利益を安易に追求することで社会的弱者の人権が侵されたり、社会的分断を招く危険もある[5][6][7]

アメリカでは概ね肯定的に使われる一方、日本やヨーロッパなど大半の国では否定的な意味で用いられることが多い[8][3]

また、同様の思想を持つ人物や集団をポピュリスト(: populist)と呼ぶ[9][10][11][12][13][14]
ポピュリズムの定義

Will Brettがポピュリズムを「乱用と誤用によって形が崩れた、引き伸ばされた概念の典型的な例」[15]と表現したように、「ポピュリズムという概念には明断な定義が存在しない」と批判されることが多い[16][17]

ポピュリズムは大まかに分けてこれまで2種類の定義が使われてきた。第1の定義は、「人民」の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動をポピュリズムと捉えるものである。ポピュリズム研究家として名高いMargaret Canovanや政治学者の野田昌吾、島田幸典、古賀光生らがこの立場を取っている。なお近年の政治学ではこの定義をとる立場が多い。第2の定義は、固定的な支持基盤を超え幅広く国民に直接訴える政治スタイルをポピュリズムと捉える定義である。政治学者の大嶽秀夫や吉田徹などがこの立場を取っている[2]

数多く存在するポピュリズムの定義の中でも「有用で、適用範囲が妥当で、広く採用されている」定義は、「最小限の」定義であるとされる。またそれは「理想的なアプローチ」と呼ばれる[18]
海外の学者による定義

Cas Muddeが提案した理想的なアプローチは、ポピュリズムとは単なるデマゴーグや日和見主義のように純粋な大衆迎合主義的思想ではなく、いくつかの核となる信念で構成される。具体的には@「淡白な[19]イデオロギー」で、A「腐敗したエリート(corrupt elite)に対する善良な人々(pure people)という構図に焦点を当てている」[20]B「腐敗したエリートと善良な人々を敵対的な関係として区別する(善悪の二元論)」C「政治は善良な人々による一般意志の表現である必要があると主張している」という要素を満たすものがポピュリズムと定義される[14][18][21]。そしてポピュリズムは淡白なイデオロギーであるので、全体主義や自由主義といった、自立する政治的イデオロギーと結びつくことで外面化するため、政治スペクトルに左右されず、自由に存在することができるとする[22][20][23]

Margaret Canovanは、ポピュリズムにおける人民の要素を次の3つに分類して説明する。1つ目は普通の人々(ordinary people)である。政治エリートやメディア、高学歴層などの特権層と異なり、むしろ特権層によって無視されてきた普通の人々がポピュリズム政党の念頭に置く住民である。これらの人々は発言が取り上げられることは少なくとも、実は多数を占めるサイレントマジョリティであり、ポピュリズム政党はその意見や不満を代弁する政党であると自ら主張する。 2つ目は一体となった住民(united people)である ポピュリズム政党は特定の団体や階級ではなく、主権者たる国民・人民を代表とすると主張する。党派的対立や部分利益を超えた一体となった住民を想定した上で 、個別利益を求めて争う既成政党・既成政治家と異なり、人民の全体利益を代表する存在として自らを表象するのである。3つ目は われわれ人民(our people)である。この場合の「われわれ」は何らかの同質的な特徴を共有する人々を意味し、それ以外の人と我々を区別する。すなわち国民や主流の民族集団を人民とみなして優先する一方、外国人や民族的・宗教的マイノリティはよそ者として批判の対象となる。この場合のよそ者は社会的弱者であるとは限らず、外国資本やグローバルエリートを含むこともある[2]。 

Daniele AlbertazziとDuncan McDonnellは、ポピュリズムを「善良で均一的(人種・宗教などが共通)な『大衆』亅と「大衆から権利、価値観、繁栄、アイデンティティーを奪うエリート層や『他者』と対決させる」イデオロギーと定義した[24][25]

同様に、Carlos De La TorreやErnesto Laclauはポピュリズムを「政治と社会を、絶対的な敵対的関係にある2つの陣営間の闘争として分割する二元論的な言説」と定義した[26][27]

またJan-Werner Mulleのようにポピュリズムの本質は、反多元主義であるとの見方がされる[28]ことも多い。また彼は、ポピュリズムは常にアイデンティティ政治の一形態であると主張している。また、ポピュリストにとって実際に「人々」であるのは、ポピュリストに「賛成する人々亅だけであり、他の人々は除外されている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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