ポアンカレの再帰性定理
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で与えられる相空間内の等エネルギー面 ΩE [10]内に留まることとなる。この等エネルギー面 ΩE 内の領域 A の面積は、

μ ( A ) = ∫ A d σ 。 。 ∇ H ( q , p ) 。 。 {\displaystyle \mu (A)=\int _{A}{\frac {d\sigma }{||\nabla H(q,p)||}}}

で与えられる。ここで、dσ は ΩE の面積要素[11]、∇H(q, p) は勾配ベクトルである。すなわち、 ΩE(とその完全加法族𝔉)に測度 μ が導入される。

ポアンカレの回帰定理では、ΩE の面積が有限であるという仮定 μ ( Ω E ) < + ∞ {\displaystyle \mu (\Omega _{E})<+\infty }

が置かれる。これは、一般化座標 q や正準運動量 pが無限に増大することがないという仮定に相当する。
定理の数学的表現

集合 Ω に対し、𝔉を Ω 上の完全加法族、μ を測度とする測度空間 (Ω, 𝔉, μ) を考える。ここで Ω は有限 μ(Ω)<+∞ であると仮定する。また、写像 T: Ω→Ω を任意の A ∈ 𝔉 について、μ(T−1(A))=μ(A) を満たす保測変換とする。A ∈ 𝔉 が μ(A)>0 であるとすると、ほとんど至るところの点 ω ∈ A に対し、半軌道 {Tnω; n≥0} は無限回 A に戻ってくる[8][9]。負の方の半軌道{Tnω; n≤0} についても同様である。
証明の概略
再帰性の証明

測度が0となる零集合 N を除いて、 A の点 ω が A に再帰することを示す。B⊂A が μ(B)>0 であるとする。もし任意の ω∈Bがすべての n>0 について、Tnω∉A であるとすると、TnB∩B=∅ である。任意の m≥0 でTn+mB∩TmB=∅ であるから、 {Tn B} は互いに交わらない可算無限列である。よって、測度の完全加法性より μ ( ⋃ n = 0 ∞ T n B ) = ∑ n = 0 ∞ μ ( T n B ) {\displaystyle \mu \left(\bigcup _{n=0}^{\infty }T^{n}B\right)=\sum _{n=0}^{\infty }\mu (T^{n}B)}

である。一方、 ⋃ n = 0 ∞ T n B ⊂ Ω ∈ F {\displaystyle \bigcup _{n=0}^{\infty }T^{n}B\subset \Omega \in {\mathfrak {F}}}

より、前式の両辺は有限であるが、保測性と μ(B)>0 の仮定により、右辺は有限性に矛盾する。ゆえに測度が0となるN⊂Aを除いたω∈A \ Nに対し、ある n>0 が存在し、Tnω∈A となる。
再帰が無限回であることの証明

前述の A の零集合 N に対し、 N + = ⋃ n = 0 ∞ T n N {\displaystyle N_{+}=\bigcup _{n=0}^{\infty }T^{n}N}

と定めると、μ(N+)=0 であるから、任意の ω∈A \ N+に対し、ある n>0 が存在し、Tn ω∈A \ N+ となる。したがって、この論法を繰り返すことができ、ω∈A \ N+に対し、Tnω は無限回 A \ N+ に戻ってくることがわかる。
熱力学との関連詳細は「H定理」および「不可逆性問題」を参照

ボルツマン熱力学第二法則原子論で説明することを試み、H定理を発表した。これに対してエルンスト・ツェルメロ(E.Zermelo)は、1896年にポアンカレの回帰定理を根拠とする、再帰パラドックス(recurrence paradox)を発表して批判した[6]
量子力学における回帰定理詳細は「量子回帰定理」を参照

古典力学におけるポアンカレの回帰定理に対し、その量子力学版といえる量子回帰定理が存在する[12]。この定理によれば、離散的なエネルギー準位のみをもつ量子系は、時間発展により、初期状態のいくらでも近くに戻ってくる。離散エネルギー準位のみを持つ量子系において、系の状態ベクトルを|ψ(t)⟩で表す。このとき、任意の正の定数 ε > 0と任意の初期時刻t0に対し、

。 。 。 ψ ( T ) ⟩ − 。 ψ ( t 0 ) ⟩ 。 。 < ϵ {\displaystyle ||\,|\psi (T)\rangle -|\psi (t_{0})\rangle ||<\epsilon }

を満たす時刻 T (> t0) が存在する。但し、|||Ψ⟩||は|||Ψ⟩||2=⟨Ψ|Ψ⟩で与えられるノルムである。
脚注^ a b c 『岩波理化学辞典-第5版』(1998)
^ a b 山本、中村 (1998)
^ a b c d 『物理学辞典-改訂版』培風館(1992/05)
^ 『現代物理数学ハンドブック』(2005)
^ H. Poincare, "Sur le probleme des trois corps et les equations de la dynamique," Acta Mathematica, 13, 1890, 1-270. doi:10.1007/BF02392506
^ a b c 藤原、兵頭 (1995) 11章
^ ピーター・コヴニー;ロジャー・ハイフィールド『時間の矢、生命の矢』草思社(1995/03) p19,70
^ a b 大沢、湯川 (1973)
^ a b 十時 (1971)
^ 相空間の2n-1次元の超曲面をなす
^ 2n-1次元の超曲面 ΩE の体積要素である。
^ P. Bocchieri and A. Loinger,"Quantum Recurrence Theorem," Phys. Rev. 107, 337 (1957)doi:10.1103/PhysRev.107.337

参考文献

日本語の文献では再帰定理となっている場合と回帰定理となっている場合とがあるので注意すること。

新井朝雄『現代物理数学ハンドブック』朝倉書店(2005/06)
ISBN 4-25-413093-7

大沢文夫、湯川秀樹『古典物理学II (岩波講座現代物理学の基礎 2)』岩波書店(1973)

十時東生『エルゴード理論入門 (共立講座・現代の数学30)』 共立出版(1971)

長倉三郎、他(編)『岩波理化学辞典-第5版』岩波書店 (1998/02)

藤原邦男、兵頭俊夫『熱学入門―マクロからミクロへ』東京大学出版会 (1995/06) 11章 ISBN 4-13-062601-9


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