ボールペンの基本的な筆記機能は、ペン先の部品であるチップと、インクを収めるパイプ状のカートリッジによって構成される。ペン軸自体がカートリッジを兼ねているものもあるが、多くのボールペンは外装であるペン軸の内部にリフィル(替芯)を収めた構造をもつ。リフィルはチップとカートリッジが一体化した構造をもち、インクや機械の消耗といった必要に応じて、多くは交換可能になっている。[12]
チップはボールペンの性能を大きく左右する、特に精密な加工技術が要求される部分である。チップ内部にはカートリッジからボールまでインクを誘導する管が通っており、チップ先端には回転可能なボールがはめこまれた構造をもつ。筆記に従いボールが回転することで、ボールに付着したインクが筆記面へ転写される。また現代の多くのボールペンでは、ボールの背面に極小ばねを内蔵しており、筆記をしていない平時はボールを外側へ押し出すことでチップ先端の隙間を封じ、乾燥やインク漏れを防いでいる。
カートリッジの後部にはインクの漏出や乾燥を防ぐために栓がされるが、インクの種類によってもその方式は異なる。よくある方式として、元々乾きにくい油性インクではスポンジ栓が使われ、これは平時は通気性がありつつも、ペン先から空気が入りこんだ際に生じるインクの後部漏出をとどめる役割を持つ[11]。水性ゲルインクや一部の油性インクではインクの後端にグリース(液栓)が充填され、これはインクの消費に追従して移動する栓として機能する。水性(非ゲル)インクでは後端は密栓され、インク消費に伴うカートリッジ内への空気の取り入れ(気液交換)はペン先の空気孔を通じておこなわれる。 チップの形には主に3タイプの形がある。 インクが収まるリフィルの軸部は当初は金属製チューブだったが、インク残量が見えまた廉価な透明プラスチック製のものが主流になっている。しかし金属製には酸素や水分の透過度が低くインク変性が少ない、より堅く細い軸に作れるため多色ペンで太くなりすぎない、軸ぶれしにくくシャープな書き味を得られる等のメリットがあり、高級帯製品に用いられ続けている。高粘度のインクを用いるため再充填が難しいこと、万年筆のペン先のような馴れによる書き味の変化といった要素には乏しいため、リフィル自体は価格によらず使い捨てである。 ボールペンはボールを周りのカシメによって支持するため、寝かせて書くとカシメが擦れて故障の原因となるおそれがある。ペン先内部にボールを支えるための受座があるので、受座がボールを正しい位置で支えられる角度で筆記するのがよいとされる。よって筆記時には万年筆と違い紙面に直角に近い角度(60?90度が望ましいとされる)を保ち筆記することが求められる。 ボールペンを発明するにあたっては、ペン先用極小ボールの高精度な加工・固定技術と、高粘度インクの開発が必要であった。従来の低粘度インクでは、ボールの回転と共に多量のインクがにじみ出してしまい、シャープな線を描けなかったのである。
チップ形状
コーンチップ(砲弾チップ)
由来は、円すい (cone) の形という意味の「コーン」で、ペン先が三角形なのが特徴。 砲弾チップとも呼ばれる。一般的なボールペンの大半に採用されている。
ニードルチップ(パイプチップ)
由来は、針 (needle) の形という意味の「ニードル」で、針の様に細長いのが特徴。なお、オート社がニードルと初めて命名した。 パイロット社では1994年にゲルインクを使用した3つの点でボールを支える「3点支持チップ(パイプチップ)」を開発。さらに、オート社が1999年に低粘度油性インクを使用した「切削型ニードルチップ(ニードルポイント)」を開発。
シナジーチップ(ポイントチップ)
由来は、コーンチップとパイプチップの相乗効果(synergy)を狙った意味の「シナジー」で、先端へかけてスリムに絞った形状が特徴。パイロット社が2016年にゲルインクを使用した「シナジーチップ」を開発。三菱鉛筆社が2021年に低粘度油性インクを使用した「ポイントチップ」を開発。
チップ材質
快削黄銅
加工しやすく安価に製造できるが、寿命が短い。
白銅
上に同じ。耐食性は黄銅より比較的良好。
ステンレス
比較的磨耗に強く、寿命が長い。日本で生産されるボールペンチップの多くは、この材質。
ボール材質
ステンレス鋼
安価に製造できるが、耐磨耗性に若干劣る。
超硬合金
主に炭化タングステンが使用される。寿命が長い。
セラミックス
主にアルミナが使用される。磨耗が少ないため寿命が長い他、インクに対して化学変化を起こさず、表面に微細な凹凸がありインクのノリが良い。
人造宝石
ルビーは摩擦係数が小さく磨耗が少ないため、高級ボールペンに使用される。
軸材質
合成樹脂
最も一般的な軸材質。安価で大量に生産できるため多く使用されている。
金属
一部の高価なボールペンで使用されている。合成樹脂に比べて本体を小型化できる利点がある。
木材
材質に狂いが生じやすいため一般に使用されることはほとんどない。
セルロイド
かつて万年筆用に大量に使用された素材。一時は合成樹脂の登場により姿を消したが昔ながらの風合いを重視し現在も細々と使用されている。
エボナイト
上記に同じ。紫外線で劣化するが漆黒の美しい光沢を呈する。
紙
ドイツで考案された軸材質。何重にも巻いたクラフト紙の厚紙でできた紙管を使用する。ロゴを印刷できる面積が広く取れリサイクルが容易であるため企業の宣伝用として多用される傾向がある。
歴史1940年にビーロー・ラースローが売り出した"birome"ブランドペン。
1884年にアメリカ人のジョン・ラウドが着想しているが、インク漏れを防止できず実用にならなかった。
ユダヤ系ハンガリー人のジャーナリストのビーロー・ラースロー(Laszlo Biro)が毛細管現象を利用した世界初の近代的ボールペンを考案し、1938年にイギリスで特許を取得[13]。1941年にナチス・ドイツを逃れてアルゼンチンに移住すると同国で会社を設立し、1943年に同国での特許を取得してBiromeというブランド名で販売[14]。イギリス空軍がこのペンのライセンス品(Biro)を採用し、高い高度を飛行中の使用に際してボールペンは万年筆よりも液漏れしにくいことが知られることとなった[14]。
1945年にアメリカの企業家であるミルトン・レイノルズ氏 は重力を用いた新しいインクの押し出し技術を考案し、「レイノルズ・ロケット」という新しいボールペンを発売した[15]。
1945年にビーローのbiromeペンをエバーシャープ社とレイノルズ社と量産化、戦後のアメリカでブームとなった[14]。また、日本でも米軍により持ち込まれたことで、一部でボールペン・ブームとなった。
1948年にセーラー万年筆社が初国産ボールペン「セーラー・ボール・ポイント・ペン」を500本発売。[16]
1949年にオート社が世界で初めて実用的な量産ボールペンである鉛筆型ボールペンならびに証券用インクを開発[17]。以降、本格的な日本国内のボールペン・ブームの火付け役となる。
インク漏れをほぼ完全に防止でき、安定した製品が市場に出されるのは、1950年代に至ってからである[18]。
1950年にフランスのビックが透明軸の「ビック・クリスタル」を発売、1970年代には4色ボールペンを発売した[19][20]。世界規模で量産に成功し、ビックは21世紀の現在に至るまで最大のボールペンメーカーとなっている[14]。
1958年にオート社がペン先に入れる小さな0.6ミリのボールを開発した[21]。ボールの小型化は世界で初めてである。これによって極細の文字が書けるようになり、他社からも更に小さいボールの商品が開発されるようになった。
1964年にオート社が水性ボールペンを世界で初めて開発[17]。以降、各社から多彩な水性ボールペンが発売されることとなる。
1965年にポール・フィッシャーが窒素ガス加圧式のスペースペン
1966年にゼブラ社がインク残量が一目で分かるボールペン「ゼブラクリスタル」を発売。