映画の撮影時、各ショットの初めの合図である「アクション!」というかけ声を、フランス語では「モトゥール(Moteur)!」という。それに「聖なる」を意味する形容詞「Holy」を付加した本作のタイトル『ホーリー・モーターズ』は、この作品が無数の映画作品へのオマージュであることを示している[7]。
作品中にはオスカーがこなす「仕事」以外にもいくつか、映画とその歴史に関する言及がある。例えば、彼は「カメラのことは残念だ。どんどん小さくなって、いまや目に視えなくなった」と語っている。このような方向性は、ジャン=リュック・ゴダールのラディカルな方法論に見られるような、従来の「マスターショット」を排したカメラの人工的な無作為性や、反ナラティブで極めて断片化された実験的な映像において推進されていると言える[9]。
また、ところどころで挿入される、手を開いたり閉じたりする動きや、幅跳びや綱引きをする男を捉えた映像はエドワード・マイブリッジの初期の連続写真であり、映画の黎明期の作品として位置付けられるものである[7]。他にも、ラストシーンでセリーヌが付ける仮面は明らかに、1960年の映画『顔のない眼』への言及である[7]。
また、冒頭に登場するモダニズムの邸宅は、フランスの建築家ロベール・マレ=ステヴァンスが、『人でなしの女(英語版)』の衣装を担当した服飾デザイナーであるポール・ポワレのために1923年に建てたものである。カラックスは1920年代のフランス映画へのオマージュとして、この邸宅を映画に登場させた。マレ=ステヴァンスは当時、白い立方体を組み合わせたキュビスム風のセットを製作していた。1923年の『人でなしの女(英語版)』に登場する邸宅と実験室も彼が手がけたものである[10]。 使用された主な楽曲は以下の通り。 曲名作曲者(歌手)備考
キャスト
オスカー/銀行家/物乞い/モーションキャプチャーの男/メルド/父親/アコーディオン奏者/殺し屋/殺されるギャング/ヴォーガン/家路に着く男:ドニ・ラヴァン
セリーヌ:エディット・スコブ
ケイ・M:エヴァ・メンデス
エヴァ(ジーン):カイリー・ミノーグ
レア(エリーズ):エリーズ・ロモー(フランス語版)
アンジェラ:ナースチャ・ゴルベヴァ・カラックス
あざを持つ男:ミシェル・ピコリ
眠る男:レオス・カラックス
モーションキャプチャーの女:ズラータ
音楽
『Who Were We ?』レオス・カラックス & Neil Hannon
『Funeral March (Adagio molto) String Quartet 15 E. Op. 144』ドミートリイ・ショスタコーヴィチレアの登場シーンと、ジーンとの再開シーンの後に流れる。
『Revivre』Gerard Manset(フランス語版)オスカーが家路に着く場面で流れる。別の映画の中(本作)で再会できたアレックスとミシェルに呼応するように、「もう一度同じこの人生を生き直したい」、「私たちは生まれた場所へとさかのぼっては下っていくサケのようだ」などと歌われており、ニーチェの永劫回帰や可能世界論などを思わせもする。
『How are you getting home ?』Ron Mael(英語版)(スパークス (バンド))アンジェラを迎えに行く前後の車内のシーンで、カーステレオから流れてくる。
『ゴジラ、メインタイトル 備後丸の沈没』『ゴジラ』オリジナルサウンドトラックよりメルドが墓地で暴れ回るシーンで使用される。
『Let My Baby Ride』R. L. Burnside(英語版) / Tom Rothrock(英語版)アコーディオンのヴァージョンに編曲されたものを、オスカーたちが演奏する。
『熱く胸を焦がして』キャシー・デニス/Rob Davis(英語版)(カイリー・ミノーグ)ジーン役のカイリー・ミノーグの楽曲。パーティー会場となったビルの一室から聴こえてくる。アンジェラの携帯電話の着メロにもなっている。
『マイ・ウェイ』クロード・フランソワ/ジャック・ルヴォー(英語版)(フランク・シナトラ)一日の終わりに、オスカーとセリーヌが口ずさむ。