ホットジュピター
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大気の力学モデルは、大気は鉛直方向に強く成層し、放射強制力と熱・運動量の輸送によって駆動される強い風と自転速度を超える赤道ジェット (スーパーローテーション) を起こしていることを予測する[19][20]光球での昼と夜の温度差は大きいと予測されており、HD 209458bに基づくモデルではおよそ 500 K の温度差があるとされる[20]

存在割合

太陽系外惑星の観測が可能となった初期の時代には観測バイアスのために高い割合でホット・ジュピターが発見されていたが、現在では木星のような低温の巨大ガス惑星(クール・ジュピター)と比べて珍しい天体だと考えられている[21]ケプラー宇宙望遠鏡のトランジット法による観測によれば、太陽に似た恒星(F型主系列星G型主系列星K型主系列星)のうち、ホット・ジュピター(公転周期10日以下・半径が地球の6?22倍)を持つ恒星は全体の0.43±0.05%に過ぎない[22]。地上の望遠鏡を用いた視線速度法のサーベイでは、異なるチームによって0.89±0.36%(周期11日以下・50地球質量以上)[23]や1.20±0.38%(周期10日以下・30地球質量以上)[24]という値が報告されている。

ホット・ジュピターの存在割合は主星の性質によって大きく左右される。ホット・ジュピターの主星はF型主系列星、G型主系列星である事が多く、K型主系列星の周りでの発見例は比較的少ない。赤色矮星に関しては、極めて稀である[25]。ホット・ジュピターの存在分布の一般化に関しては様々な観測バイアスを考慮する必要があるものの、一般的には恒星絶対等級が大きくなる (つまり恒星が暗く、軽くなる) につれて、ホット・ジュピターの存在割合は指数関数的に減少する[26]。またホット・ジュピターの存在と主星の金属量にも強い正の相関関係が知られている[27]
軌道初めて発見されたホット・ジュピターであるペガスス座51番星b (左) と主星のペガスス座51番星 (右) の想像図。

我々の太陽系においては、比較的小型な地球型惑星(岩石惑星)が太陽に近い軌道をめぐっている一方、木星土星のような木星型惑星(特に巨大なガス惑星)は太陽から数 au から数十 au の距離を隔てて公転している。これらの外惑星は、太陽の熱を十分に受け取ることができないため、表面温度零下百数十度の極寒の世界となっている。

しかし、典型的なホット・ジュピター (ペガスス座51番星bなど) は中心の恒星からわずか 0.05 au 程度しか離れていない[2]。中心の恒星が太陽と同じ明るさを持つとすると、この軌道を周回する惑星が単位面積あたり恒星から受け取る光のエネルギーの量は、地球の数百倍にも達する計算になる。そのため惑星表面は熱せられて摂氏数百度を超える高温となっている。かつては太陽系以外の恒星系も惑星の配置・構成は先に述べたような太陽系の姿とさして変わらないだろうと思われてきたが、実際の系外惑星はほとんどの学者が予想だにしない形で発見され、大きな衝撃を与えた[8][28]

なお、惑星の居住可能性を論じる場合において、木星や土星のようなハビタブルゾーンの外側を回る木星型惑星をホット・ジュピターとの対比で「グッド・ジュピター」と呼ぶことがある[29]。ただし、ここで「グッド(good)」とは、その巨大な重力で太陽系外縁方向から飛来する彗星などを捕らえて、内惑星に影響を及ぼしにくくするという意味が含まれている。事実、20?21世紀のわずか17年間にも、シューメーカー・レヴィ第9彗星などいくつかの彗星及び類似の天体が木星に捕らえられるのが観測されている[30]
質量と大きさ

恒星に近い軌道を周回する惑星は、主系列星を公転する系外惑星が初めて発見された1995年以降多数発見されている。これらの惑星の質量は、惑星と褐色矮星の境界付近の大質量のものから、地球の程度のものまで様々である。ホット・ジュピターの質量に特に厳密な定義があるわけではないが、これらの惑星のうち木星の 0.1?0.2 倍程度以上の質量を持つものをホット・ジュピターと呼ぶのが一般的である[31]。木星の質量 (地球の 318 倍) よりもむしろ海王星の質量 (地球の 17 倍) に近い、0.03?0.1木星質量程度の低質量の灼熱惑星は、ホット・ジュピターではなくホット・ネプチューンと呼ばれる[32]

広く系外惑星の検出に使われている観測方法である視線速度法では、惑星の質量は分かっても惑星の半径までは知ることはできない。視線速度法から分かるのはその惑星の下限質量である[33]。しかしその後、いくつかの惑星のトランジット法による観測が行われると、惑星の半径を計測することが可能になった[34]。求められたホット・ジュピターの半径は、太陽系の木星や土星と比べると、質量の割には大きいという傾向がある。これは高温によって惑星の大気が膨張しているためだと考えられている[14][17]
大気.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}HD 189733 b赤外線スペクトルHD 189733 b の全球の温度マップ[35]。最も高温な領域 (最も明るい部分) が恒星直下点から東にずれており、大気がスーパーローテーションを起こしていることを示唆している[35]HD 189733 b は深い青色をしていると考えられている[36]。グラフは偏光観測からの波長ごとの惑星の幾何アルベドを示している。背景の惑星は想像図。

ホット・ジュピターはガス惑星であり、いわゆる大気で覆われている。恒星に極めて近い軌道を持つため、潮汐力によって自転と公転が同期し、地球の周りを回ると同じように、常に同じ面を恒星に向ける。すると、一方の半球面が常に恒星光で熱せられ、温度差によって常に影の半球面に向かって摂氏数百度を超える強烈な熱風が吹いていると予想されている。そのため、ホット・ジュピターの外観は木星のような横縞模様ではなく、恒星の光が最も強く当たる点から影の面へ向かう気流により縦方向の縞模様が形成され、スイカの模様のようになっているとも推定されていた。しかしホットジュピターは、太陽系のガス惑星と比べると遅いとはいえ、公転周期と同じ周期で自転もしているため、きれいにスイカの模様状の大気の流れが生じるかは疑問視されている。

近年のコンピュータシミュレーションを用いた研究では、ホット・ジュピターのように恒星に非常に近く、潮汐固定されているため自転が遅い惑星では、大気の循環は金星のようなスーパーローテーションになっている可能性が指摘されている[37]


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