ホウレンソウ
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また、種をまく時期によって、時期に合った品種を選ぶことも大切となり、春まきはとうが立ちにくい西洋種、秋冬まきは寒さに強い東洋種が向いている[16]

種まきは、酸性土壌では育たないため苦土石灰を多めにまいたり[19]、完熟堆肥をすき込んで調整した中性土壌に畝を作り、種を筋まきして薄く土を被せるが、被土の厚さが薄く均一でないと発芽しなかったり、発芽してもうまく育たない場合がある[21]。栽培期間が短いホウレンソウは、発芽を揃えることが重要で、種を一昼夜水につけてから、水を切って発根させる「芽だし」をさせた種をまく方法もある[10]。発芽後の本葉が1 - 2枚のころに、葉が触れ合わない程度に3 - 4センチメートル (cm) 間隔で間引きを行い、株元に土寄せを行う。1週間を目安に繰り返し間引きを行い、2回目は本葉が3 - 4枚で行い間隔を6 cmほどにする。その際に、追肥、土寄せも行う[19][21]。さらに本葉が4 - 5枚になった頃に、追肥と土寄せを行う[21]。草丈が25 cm内外になったら収穫適期で、株ごと抜き取って根を切り落とすか、株元を掘り下げてハサミで根を少し残すように切り取る方法で収穫を行う[21][22]。ホウレンソウは、昼間の時間が長くなる「長日条件」になると薹(トウ)が立ち、花茎が伸びて葉が固くなり、味が落ちてしまう性質がある[21]。そのため、街灯などの影響を受けにくい夜間に暗くなる場所で栽培する[21]

ホウレンソウがおいしくなる時期は冬である[注 2]。寒さや霜に当たると、ロゼットの様に地面に葉を広げて栄養と甘味を蓄えて肉厚になる性質があり[22]、収穫前に冷温にさらすこともしばしば行われ、これらの処理は「寒締め(かんじめ)」と呼ばれている。これは農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)(旧東北農業試験場)が確立した栽培方法である[23][24]。寒締めを行ったホウレンソウは、低温ストレスにより糖度の上昇、ビタミンCビタミンEβカロチンの濃度の上昇が起こる。寒締め栽培は平均気温が低い群馬県青森県などで盛んに行われている。

病虫害には、アブラムシハスモンヨトウ(ヨトウムシ)、べと病、立ち枯れ病[注 3]などがある[4][10]。対策として、害虫を見つけたら取り除き、間引きして風通しをよくすることでアブラムシ予防につながる[22]。ホウレンソウは春まきと秋まきで育てられるが、秋まきのほうが害虫が少なく、育てやすい[22]。ホウレンソウの種をまいた周辺に、1か月ほど育苗した葉ネギコンパニオンプランツとして植えておくと、ホウレンソウの害虫を遠ざけ、萎ちょう病(いちょうびょう)[注 4]を予防する効果がある[22]
収穫量と作付面積
世界世界のホウレンソウの収穫量と作付面積の推移(1961-2013年)

世界における生産量は中華人民共和国が91.4%を占め他国を圧倒しているが、日本は世界第4位にランクインする主要生産国である[23]

世界の収穫量上位10か国(2019年)[27]

順位国または地域生産量(t)シェア(構成比)
?世界30,107,231?
1位中国27,527,61991.4%
2位アメリカ435,7211.4%
3位トルコ229,7930.8%
4位日本226,8650.8%
5位ケニア178,7070.6%
6位インドネシア160,3060.5%
7位フランス122,6700.4%
8位イラン118,6410.4%
9位パキスタン111,2150.4%
10位イタリア99,5200.3%

日本日本のホウレンソウの収穫量と作付面積の推移(1973-2013年)

日本で比較的に栽培が多い産地は千葉県と埼玉県である[28]。市町村別の生産量は岐阜県高山市が最も多い[29]。日本における2013年の年間生産量は250,300tであり[30]、生ものはほぼ全部を自給しているが、冷凍ものが約2万t輸入されている。

収穫量上位10都道府県(2013年)[31]

収穫量順位都道府県収穫量(t)作付面積(ha)
1千葉県34,3002,240
2埼玉県26,1002,140
3群馬県19,8001,820
4宮崎県18,200997
5茨城県16,3001,140
6岐阜県12,1001,300
7福岡県9,090627
8神奈川県7,920689
9北海道6,750678
10愛知県6,650489
―全国計250,30021,300

収穫量上位10市町村(2013年)[31]

収穫量順位市町村所属都道府県収穫量(t)作付面積(ha)
1高山市岐阜県8,680960
2太田市群馬県4,830466
3久留米市福岡県4,400298
4徳島市徳島県3,750389
5伊勢崎市群馬県3,400347
6川越市埼玉県3,220252
7所沢市埼玉県2,850226
8狭山市埼玉県2,100168
9渋川市群馬県2,010166
10石井町徳島県1,570160
―全国計250,30021,300

食用

茎葉を食用とする緑黄色野菜の代表的存在で知られる[6]。一年中流通しているが、食材としての本来のは冬の11月 - 2月とされ、葉が大きくて緑色が濃く、葉脈がはっきりしているもの、軸は太くしっかりしているものが市場価値の高い良品とされる[32][2]。特に露地栽培ものは、冬の畑で霜に当たって葉に糖分を貯めるため甘味が強くなり、味もよくなる[2]

生食用品種など例外はあるが、灰汁が多いので基本的に下茹でなどをしてから調理に使われる[12]。沸騰させた塩を少量入れた湯に、根に近い茎のほうから湯に入れて茹で上げたら、水にさらして灰汁を取るようにするが、栄養分の流失を抑えるため長時間水にさらさないようにする[14]。湯に塩を入れることによって、塩のナトリウムイオンが酸化を抑えて、葉の変色を防ぐ作用がある[16]。短時間で茹で上げるために、よく沸騰したたっぷりの熱湯で、少量ずつ手早く茹でたら、冷水にとって急激に冷ますことで、緑色鮮やかに茹であげられる[16]。塩分を控えたい場合には、塩を使わないで茹でてもよい[16]

元々素材の味が濃く、強い青味を含むため、おひたし、胡麻和え、バター炒め、オムレツなど様々な形で調理される。調理するとかさが3/4程度に減る。和食ではおひたし胡麻和え・白和えといった和え物常夜鍋などの鍋物、汁の実、炒め物に利用されるほか、すり潰したのち茹でて緑の色素を取り出したものを青寄せといい、木の芽和えの和え衣の色付けに用いる。洋食ではソテーオムレツの具、キッシュグラタン、裏ごししたものを使ったポタージュパスタパンなどに用いるほか[12]、灰汁の少ない生食用のものはルッコラオランダガラシなどと共にサラダに使われる。



調理例

おひたし

ゴマあえ

ほうれん草とココナッツのスープ

ほうれん草が載ったピザ


保存

基本的に、時間の経過とともにビタミンなどの栄養素が失われていくため、2 - 3日内に早めに食べきるようにするが[16]、生葉は湿らせたペーパーで包んで、ポリ袋などに入れて冷蔵すると、4 - 5日持つ[2][12]。また長期保存する場合は、下茹でしてからラップに包んで、冷凍する方法もある[2]

アメリカでは、かつて生ホウレンソウはすぐに鮮度が落ちるため流通困難だった時代もあったことから、水煮缶詰にも加工されている[33]。ただし、輸送方法の進歩により生ホウレンソウの流通が可能になったことや、そもそも水煮缶の食味が良くないことなどの理由により、生ホウレンソウのほうが需要があるため、その出荷数を減らしている[33]
栄養

ほうれんそう 葉 通年平均 生[34]100 gあたりの栄養価
エネルギー84 kJ (20 kcal)

炭水化物3.1 g
食物繊維2.8 g

脂肪0.4 g
飽和脂肪酸0.04 g
一価不飽和0.02 g
多価不飽和0.17 g

タンパク質2.2 g

ビタミン
ビタミンA相当量β-カロテン(44%) 350 μg(39%)4200 μg
チアミン (B1)(10%) 0.11 mg
リボフラビン (B2)(17%) 0.20 mg
ナイアシン (B3)(4%) 0.6 mg
パントテン酸 (B5)(4%) 0.20 mg
ビタミンB6(11%) 0.14 mg
葉酸 (B9)(53%) 210 μg
ビタミンC(42%) 35 mg
ビタミンE(14%) 2.1 mg
ビタミンK(257%) 270 μg

ミネラル
ナトリウム(1%) 16 mg
カリウム(15%) 690 mg
カルシウム(5%) 49 mg
マグネシウム(19%) 69 mg
リン(7%) 47 mg
鉄分(15%) 2.0 mg
亜鉛(7%) 0.7 mg
(6%) 0.11 mg
セレン(4%) 3 μg

他の成分
水分92.4 g
水溶性食物繊維0.7 g
不溶性食物繊維2.1 g
ビオチン(B7)2.9 μg
硝酸イオン0.2 g
ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[35]。廃棄部位: 株元


単位

μg = マイクログラム (英語版) • mg = ミリグラム

IU = 国際単位

%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。

生葉の可食部100グラム (g) 中の熱量は20キロカロリー (lcal)、水分量は約92%で、炭水化物は3.1g、タンパク質2.2g、灰分1.7g、脂質0.4gが含まれる[6]β-カロテンビタミンB群ビタミンCビタミンE鉄分葉酸が豊富なことで知られる[32][2]緑黄色野菜であるホウレンソウの濃い緑色は、黄色色素のカロテンと青色色素のクロロフィル(葉緑素)が合わさったものである[6]


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