ベータマックス
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しかし、ベータ方式を基に策定された放送用規格「ベータカム」は、20年以上に渡り世界の放送業界のデファクトスタンダードとなり、デジタルベータカムHDCAMなど、再生互換性を持つ製品バリエーションを増やしながら2016年3月末まで販売されていた[4][5]。また、ベータ方式の録画用ビデオテープソニーマーケティングが運営するソニーストアで注文可能だったが[6]、この録画用ビデオテープも2016年3月をもって出荷終了することがアナウンスされた[2]

2009年、「VHS方式VTRとの技術競争を通じて、世界の記録技術の進歩に大きく貢献した機種として重要である。」として、家庭用ベータ方式VTR1号機「SL-6300」が国立科学博物館の定めた重要科学技術史資料(未来技術遺産)として登録された[7]
名称

『Betamax』の名称は、記録方式として磁気テープ上の未記録領域であるガードバンドを廃し(βIsモードにはガードバンドあり)、記録再生ヘッドのアジマスを互い違いにずらしてフィールド単位の信号を隣接して記録する「アジマス記録方式」が「情報を詰めてベタに記録している状態」から通称「ベタ記録」と開発現場で呼ばれていたこと、テープローディング時の形状がβの字に似ている、英語の「better(ベター、より良い)」に響きが通じ縁起が良い、などから「ベータ」案が提言され、それに最高・最大という意の「MAX」を組み合わせて命名された[3]
フォーマット概要ベータマックスのビデオテープ

記録方式:FM ヘリカルスキャンアジマス方式

記録ヘッド数:2

ヘッドドラム径:74.487 mm

ヘッドドラム回転数:約30 Hz(約1800 rpm

テープ幅:12.65 mm(1/2インチ

テープ送り速度:βI・βIs - 40.0 mm/s / βII - 20.0 mm/s / βIII - 13.3 mm/s

記録トラック幅:βI - 約58 μm / βIs - 39 μm(ソニー機)・33 μm(NEC機) / βII - 29 μm / βIII - 19.5 μm

信号方式:(ノーマルモード、その他のモードは記録モード一覧を参照)

映像信号:周波数変調(FM)シンクチップ:3.6 MHz/白ピーク:4.8 MHz:クロマ信号:低域変換方式

音声信号:2チャンネル長手方向記録(ノーマル音声トラック)、FM変調記録(Beta hi-fi)


テープ仕様

厚み:L-500以下 - 19.0 μm / L-750 - 14.5 μm / L-830 - 12.5 μm / EL-500・EL-750(ED Metal)- 19.0 μm

保磁力:60kA/m(Betamax)、124kA/m(ED Metal)

残留磁束密度:180mT(Betamax)、260mT(ED Metal)


規格の経緯

一般的に画質の良さが特徴として謳われていたが、本来の基本規格(後にβI・ベータワンと命名)から、VHSとの競合で生まれた2倍モードであるβII(ベータツー)へと実質的標準モードが移行した時点でVHS標準モードとは大差がなくなり、ソニー製ベータが解像感優先の再生画でVHSがSN比ノイズの少なさ)優先の再生画といった「再現性の差異」がそれぞれの特徴となった。

画質についてはソニー製機種の傾向が大きく取り上げられていたが、東芝は解像感とSN比のバランスを重視した平均的な調整で、NEC・三洋電機がβIIIモードの再生画質に配慮するためSN比を重視しVHSに近い画質、といったメーカー毎の傾向もあった。

なお、日本電子機械工業会により、EIAJ CP-0511(磁気記録用カセットVTR及びカセット(ベータフォーマット方式12.7mm平行2リール形))として、日本工業規格では、JIS C 5582(ベータフォーマット方式12.65mm(0.5in) 磁気テープヘリカル走査ビデオカセットシステム)として規格が定められていたが、いずれも廃止されている[8][9]
録画モードの推移

ソニーはUマチックと同等の性能・機能を維持した上での小型化を目標としていたため、録画時間は1時間(K-60テープ使用時)とされていた。しかしVHSが当初より2時間録画を標準としており、それへの対抗としてテープ速度を1/2とした記録モードを開発、後にβIIと命名されベータ方式の実質的標準記録モードとなった。

しかし基本フォーマットに対し偶数倍のテープ速度では、記録方式のアンマッチングによる再生画への影響が大きく(いわゆる「H並べ」不成立によるモアレ発生や特殊再生の対応困難など)、それに対応するため再生画の信号処理が当初規格(βI)から変更されている。これを基にしてβIII(長時間録画モード・βIから見て三倍モード相当)やβIsモード[注釈 4]が構築され、新しいベータマックス及び賛同各社の共通フォーマットとなった(ベータフォーマット)。このことは、βIIでの音質や特殊再生機能の面で後々まで禍根を残し、また当初方式のβIモードがベータフォーマット標準仕様から外れたため、再生できる環境が限られることとなった(ソニーのみβI再生機能を存置・他メーカーはサポートせず)。

テープ別録画時間(単位:分)モードテープ速度K-30K-60L-85L-125L-165L-250L-330L-370L-500L-660L-750L-830
βI/βIs40.0mm/s3060101520304045608090100
βII20.0mm/s60120203040608090120160180200
βIII13.3mm/s9018030456090120135180240270300


K-30 / K-60はβII登場に伴い、L-250 / L-500に表記を変更した。

Beta hi-fi

元来から音声記録トラックの問題で音質が優れているとは言い難かった各ビデオ規格だったが、ベータフォーマットにおいてはβIIモードがVHS標準モードよりテープ速度が遅くなることからなおさらに不利となった。そのため再生イコライザの調整で音質のバランスを取ろうとしたがヒスノイズが目立つなどしたため、ソニーは一部の上位機種(SL-J7・SL-J9などのステレオ対応機)にβNR(ベータノイズリダクションdbx、および東芝が開発したadres、三洋電機が開発したSuper Dに限りなく近い音声ノイズリダクションシステム)を搭載するなどし、音質面での劣勢をカバーすべく努力していた。

1983年には、音質面での不利を克服し更なる差別化を図るため「Beta hi-fi」(音声FM記録)を開発しベータ陣営各メーカーが採用、圧倒的な改善が図られてVHSとの大きな差別化となった。しかしわずか1ヶ月後にはVHSも独立ヘッドで磁気深層記録を行うVHS-HiFiを導入し、これに追随した。

Beta hi-fi方式は映像ヘッドでBeta hi-fi記録を行うため、VHS-HiFi方式に見られる映像・HiFi音声のトラッキング不一致が原理的に発生せず、他機での再生時も安定して再生が行えるメリットがあった(ただし、他機再生ではDCノイズが発生しやすい欠点もあった)。また、VHS-HiFi方式で問題となったヘッド切り替えタイミングのスイッチングノイズは原理的に発生しない。しかしその一方、映像用と同一のヘッドを用いて映像信号帯域の隙間に記録する方式としたため、音声記録帯域を確保する必要から映像信号帯域が若干削られ、それが画質劣化を招くこととなった(映像記録帯域の狭小化や、hi-fi音声信号が映像信号に干渉することによる解像度低下など)。また、映像記録帯域を若干削っているため、hi-fiでない従来のベータデッキでhi-fi記録のビデオを再生すると、hi-fi音声記録帯域の一部も映像信号として出力してしまうため、映像にビートノイズが入る弊害も起こった[10]

Hi-Fi化による画質劣化を本格的に改善するため、当時の磁気テープ性能の目覚ましい向上を背景として、一部機種(SL-HF300など)ではFMキャリア周波数を3.6MHzから4.0MHzへと400kHz高周波数化することで解像度低下を補い(後述のHi-Bandベータ導入以後に「隠れハイバンド」などと呼ばれた)、併せて従来よりギャップの狭いヘッドを用いることでβIIモードで問題となっていた隣接トラックからの影響を減らすことに成功、さらにβIIモードでの特殊再生対応として追加ヘッドを搭載するなどした結果、これまでと違った再生画質を追求することが可能となった。

Hi-Fi化による画質劣化は、第1号機のSONYのSL-HF77においては発売当初から既に問題となり、画質改善キットと呼ばれる追加対策が行われた。キットはFMキャリア周波数を3.6MHzから4.0MHzへシフトアップするハイバンド化と、それに伴う基板の部品交換・設定変更だったようで、メーカーでの改造(取付)対応としていた。

ユニークなところでは、映像ヘッドでBeta hi-fi記録を行うという特性を生かして、Hi-Fi回路を別売り(HiFiプロセッサー)にして、追加増設することでBeta hi-fi対応可能なノーマル音声対応デッキ「BetaPlus」もソニー、およびアイワからそれぞれ発売された。
Hi-Bandベータ

ハイファイ音声導入後に行ったFMキャリアの高周波数化の実績を踏まえ、正式にFMキャリアのさらなる高周波数化を施して解像度低下を補い、狭幅ヘッド使用による隣接トラックの影響排除と併せた再生画の再調整を施し、総合的な画像の品質向上を図ったものが「Hi-Bandベータ[注釈 5]」フォーマットである。同時に、より高画質な記録と当時流行しつつあったビデオ編集時のダビングによる画質劣化を抑える目的で、テープ速度をβI相当に速めることで磁気情報量を増した「βIsモード」を開発(旧βI規格とは異なる)、それのさらなる高解像度化を図った「SHB Hi-Bandモード」(SHB-βIs、当初はスーパーハイバンドと銘打たれていたが商標登録に支障したため名称を変更)も続けて開発・搭載し、「高画質録画ならベータ」というイメージ戦略を展開した。
EDベータEDベータテープ。誤消去防止用のツメがスライド式になっており、場所も異なる。元の場所には穴が開いており、ツメが折れた状態となっている

詳細は「EDBeta」を参照。

その後も更なる「高画質記録」を目指し、VHS陣営が一歩先に開発したS-VHS方式に対抗すべく、記録方式を再設計したEDベータ(ED-βII・ED-βIII)を開発した。その名前が示すとおり、単なるS-VHSの後追いではなく、EDTVへの対応を見越した規格だった。

EDベータは高価なメタルテープを使用して高度な記録領域を得て、FM輝度信号の白ピークレベルを9.3MHzに拡張し、水平解像度500TV本を実現するなど、S-VHS方式より高解像度を得た。だが、結果としてテープの価格を高く設定せざるを得ず、酸化鉄磁性体(従来方式用と同じテープ素材)の高性能テープ使用を前提として開発されたS-VHSには、テープ価格で最終的に大きな差を付けられた[注釈 6]

地上波アナログ放送水平解像度は330本、BSアナログ放送で350本、レーザーディスクは430本程度が限界であり、S-VHS規格の水平解像度400本で十分対応でき、EDベータの水平解像度500本は明らかにオーバースペックだった。


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