ベロ毒素
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始めて Vero cell cytotoxin(VT)と命名[1]

1983年 O'Brien らは、VT が志賀赤痢菌の産生する志賀毒素と免疫学的に共通性があることを報告し、志賀毒素様毒素(Shiga-like toxin, SLT)と呼んだ[4]。同時期に Scotlandらは、VT遺伝子がバクテリオファージによって水平伝達されることを示唆した[5]

1985年 Scotlandら は,VTには志賀赤痢菌の産生する志賀毒素に対する抗体によって中和されないものもあることを示した。志賀毒素と免疫学的に同一なものをVT1、免疫学的に異なるものをVT2と呼んだ[5]

1997年 米国のボルチモアで行われた3rd International Symposium and Workshop on Shiga toxin (Verocytotoxin)-Producing Escherichia coli Infections (VTEC '97)において志賀赤痢菌の産生する毒素を志賀毒素(Stx)、EHEC の産生する毒素を志賀毒素1(Stx1)と志賀毒素2(Stx2)とすることが提唱され、名称を統一化[2]

作用メカニズムベロ毒素の作用メカニズム
(1) 正常な細胞のタンパク合成。(2) ベロ毒素によるタンパク質合成阻害。詳細は本文を参照

正常な細胞では、DNAから転写されたmRNAは、リボソームにおいて読み取られ、アミノ酸が結合したtRNA(アミノアシルtRNA)の働きによって、mRNAの配列に応じてアミノ酸の鎖が伸長していき、ペプチドからタンパク質翻訳される。

EHECから分泌されたベロ毒素は、5つのBサブユニットによって、宿主細胞の細胞膜にあるガングリオシドの一つであるGb3(Gal-Gal-Glc-セラミド)に結合し、エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれた後、Aサブユニットだけが細胞質に入り込む。Aサブユニットは、真核細胞のリボソームに含まれる28SリボソームRNAのうち、4324番目のアデノシンに作用して、その糖鎖を切断しアデニンを切り出す活性(N-グリコシダーゼ活性)を持つ。わずか1塩基の変化であるが、28SリボソームRNAのこの領域はリボソームにとって重要な領域であり、この1塩基の変化で、新しいアミノアシルtRNAがリボソームに結合できなくなる。このため、タンパク質の伸長ができなくなってタンパク質合成が阻害され、最終的に細胞はアポトーシスを誘導[6]され死滅する。

このベロ毒素の作用は、ヒマ種子に含まれる猛毒の植物タンパク質として知られるリシンと共通するものである。リシンの活性サブユニットもまたN-グリコシダーゼ活性によって28SリボソームRNAの4324番目のアデニン切断によるタンパク質合成阻害を行うが、リシンの場合はA1B5からなるベロ毒素と異なり、1つの活性サブユニット鎖とジスルフィド結合した1つの結合サブユニット鎖から構成されており、細胞内に輸送される過程がベロ毒素とは異なる。
ヒトに対する毒性

EHECや赤痢菌が主に腸内で産生したベロ毒素は腸管上皮細胞に作用して出血性の下痢を起こすだけでなく、その一部は血液中に吸収されて全身に移行する。ベロ毒素の受容体であるGb3ガングリオシドは、特に内皮系の細胞に多いことが知られており、これらの細胞が多く、また毒素排出に重要な機能を担っている腎臓にベロ毒素が作用すると、溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こす原因になるほか、脳では急性脳症が引き起こされる。

EHECによる感染時には、体内から速やかにベロ毒素を除去することが重要である。この目的で活性炭を経口投与し、腸内に分泌されたベロ毒素を吸着して取り除く治療が行われている。HUSによる人工透析を実施している場合には、血中からの毒素除去も行われる。一方、感染症の治療法として一般的な抗生物質の投与については、腸管内でEHECが死滅する際に大量のベロ毒素を放出するとの考えから、使用すべきでないという意見がある。
脚注^ a b Konowalchuk J; Speirs J; Stavric S (1977). “Vero response to a cytotoxin of Escherichia coli”. Infect. Immun. 18 (3): 775?9. PMC 421302. .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}PMID 338490. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC421302/. 
^ a b c 清水健、「腸管出血性大腸菌が産生する志賀毒素の発現様式と菌体外への放出機構 ?志賀毒素転換ファージの構造と機能からの考察?」『日本細菌学雑誌』 2010年 65巻 2号 p.297-308, doi:10.3412/jsb.65.297, 日本細菌学会
^ a b 牧野耕三、品川日出夫、「遺伝子の再編成と水平伝播による細菌の病原性獲得『化学と生物』 2000年 38巻 2号 p.83-92, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.38.83, 日本農芸化学会
^ O'Brien, A.O., Lively, T.A., Chen, M.E., Rothman, S.W., Formal, S.B. (1983): Escherichia coli O157:H7 strains associated with haemorrhagic colitis in the United States produce a Shigella dysenteriae 1 (SHIGA) like cytotoxin. Lancet 1, 702.
^ a b Scotland, S.M., Smith, H.R., Willshaw, G.A., Rowe, B. (1983): Vero cytotoxin production in strain of Escherichia coli is determined by genes carried on bacteriophage. Lancet 2, 216., doi:10.1016/S0140-6736(02)93043-6
^ 藤井潤、「【細菌タンパク毒素の新たな理解へ向けて】 ベロ毒素に関する新たな知見」化学療法の領域. 25, (5), pp.755-764, 2009-04. (株)医薬ジャーナル社, ISBN 978-4-7532-8029-2

外部リンク

山崎伸二、竹田美文、「Vero 毒素の構造と生物活性」『臨床と微生物』 23, 785-799, 1996-12-24,
NAID 10016087775

竹田美文、「志賀毒素とvero毒素(志賀毒素様毒素):構造と作用機序」『臨床と微生物』 16, 67-75, 1989, NAID 80004395190


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