上述のように、シャボフスキーは文書の内容を正確には把握していなかったが、さらに、政令案の通知文が既に記者達に配布済であると思い込んでいた。そのため、エールマンら記者にとってはシャボフスキーの回答が初耳であり、エールマンがその内容を問いただした。
エールマン
それはいつからなのですか。
シャボフスキー
えっ、何ですか。
エールマン
直ちにですか。
シャボフスキー
つまり皆さん、私のところにはその通知が来ていますが、そうした通知はもうすでに…広く連絡済みで…あなた方はすでにお持ちでしょう[71]。我々はもう少々手を打った。ご承知のことと思う。なに、ご存じない?これは失礼。では申し上げよう[76][注 17]。
ここでシャボフスキーはクレンツから渡された報道発表用の書類を取り出し、内容を読み上げた。
シャボフスキー
よろしい。外国への個人旅行はそのための諸前提(旅行目的と親戚関係)を欠いても申請が可能である。許可は短期間で与えられる。民主共和国の人民警察所轄署VPKAの旅券・住民登録担当課は恒久的出国のためのビザを即刻交付するように命令を受けている。その際には恒久的出国のための現行法の諸前提が整っている必要はない。恒久的出国は民主共和国から連邦共和国への全ての国境通過検問所を経由して行う。したがって民主共和国の国外代表部が暫定的に付与できる出国許可や共和国の身分証明書による第三国を通じての恒久的出国は不要となる。…旅券問題は今は答えられません。それは管轄外の問題でもあります。私には全く解りかねますが、旅券は…まぁ誰もが旅券を持てるためにまずもって交付されるべきでしょう。…ところで我々が欲したのは…[77]。
この政令案は、この日中央委員会で承認されたが、まだ閣僚評議会(内閣)の閣議では決定されておらず、正式な政令ではなかった。本来この政令は、この記者会見よりも後のタイミングで閣議決定を行い、11月10日に発表し、直ちに発効することになっており、シャボフスキーに渡された政令案の文書が10日に報道発表するための文書であったが[78]、細かい事情を把握していなかったシャボフスキーは、すでに閣議決定されており、また公表もされているものと勘違いしていた[注 18]。ちなみに実際に記者会見の後、政令は正式に閣議決定され、東ドイツ国営通信が政府報道官の発表として伝えている[79]。
口頭で政令の内容を伝えた後、エールマンから発効のタイミングについての問いがあった。本来の発行日は翌10日であったが、シャボフスキーの手元の文書には、発効期日は書かれていなかった。
エールマン[注 19]
それはいつ発効するのですか。
シャボフスキー
私の認識では『直ちに、遅滞なく』ということです(Das tritt nach meiner Kenntnis… ist das sofort, unverzuglich.)[70][80][注 20][注 21]。
映像外部リンク
「直ちに、遅滞なく、です」と答えるシャボフスキー
1989年11月9日
"Sofort, unverzuglich" - ARD・ターゲスシャウ(tagesschau.de)
問題の発言はリンク先の動画で55秒頃から。