ベイツ型擬態
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この自然主義(英語版)的な説明は、当時ウォレスや1859年に『種の起源』を著したチャールズ・ダーウィンによって提唱されたばかりの進化論の考え方とよく一致するものである。提唱された当時ベイツの理論の持つダーウィニズム的性格は、アカデミアの内外を問わず反進化論者からの激しい批判を浴びていた[3]
警告色とベイツ型擬態の進化「警告色」も参照キオビヤドクガエル (Dendrobates leucomelas )は典型的な警告色をもつ有毒のカエルである。

生物のほとんどには捕食者がいて、常に進化的軍拡競走に晒されている。すなわち被食者はできるだけ捕食を免れるように適応し、そして捕食者はその適応に対抗してできるだけ効率よく捕食できるような適応をする、というせめぎ合いで進化が起こっている。捕食者にできるだけ見つからないように適応した生物もいる一方で、ヘビハチスカンク悪臭といった捕食者に対する化学的な防御策を進化させた生物もいる。そうした生物はシグナル理論(英語版)で言うところの「正直なシグナル」として、捕食者に対する警告となるような明瞭なシグナル(典型的には派手な体色)を示す場合が多い。そうした警告シグナルが目立つ種ほど、捕食者への毒性が強いという相関があることがわかっている[4]

ベイツ型擬態をする生物は、警告色を持つ生物の体色を効率よく模倣することで、捕食者に自らが不味であるかのように思い込ませるという戦略をとっている。この戦略の成否は、擬態先の種(モデル)の毒性の強さと、その地域におけるモデルの個体数に依存している。モデルの毒性が強いほど、捕食者がベイツ型擬態をする種を避ける可能性が高まる[5]。モデルの種の個体数も、頻度依存選択の観点から考えて擬態の成功には重要な要素であると言える。モデルの個体数が多いと、多少擬態が不完全であったり体色が異なったりしても、擬態者は捕食者に避けられる。有害な獲物を捕食してしまう可能性が高い状況下では、少しでも有毒な可能性があるものは捕食を避けるという戦略が、捕食者にとって有利となるからである[6]。一方モデルの個体数が少ない場合、擬態者の側では、擬態をより精巧にするような進化が起きる。なぜなら、モデルの個体数が少なくそれに出会う可能性自体が低い場合、捕食者にとって、不完全な擬態をしている種を躊躇なく捕食する戦略が成り立つからである[7]。頻度依存選択のために、ベイツ型擬態をする種に多型がみられるという珍しい例もある。アオジャコウアゲハ(Battus philenor )に擬態するトラフアゲハ(Papilio glaucus )がその一つの例で、ベイツ型擬態になっている暗色型の個体ほかに、擬態をしない明色型の個体もみられる。この多型はメラニン合成に関わる一つの遺伝子によって制御されることがわかっている[8][9]
他の擬態様式との比較「ミューラー型擬態#ベイツ型擬態との関係」も参照.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}有名なベイツ型擬態の例であるシロオビアゲハ(上)。有毒のベニモンアゲハ(下)に擬態している。

ベイツ型擬態は、捕食者などからの攻撃を避けることを目的とする、防御的擬態の一種である。また、ベイツ型擬態は「分離した disjunct」系である。すなわち、捕食者、擬態者、モデルの3者の全てが別種である[10]

防御的擬態であるベイツ型擬態は、ペッカム型擬態とも呼ばれる攻撃擬態とは対照的である。すなわち、攻撃擬態は防御的擬態とは逆に、擬態者が獲物の獲得といった積極的な利益を求める擬態だからである。例えばPhoturis 属のホタルは、別のホタルのメスの出す光を真似ることでそのホタルのオスを誘引し、捕食してしまう。これは攻撃擬態の典型例である。その他に、捕食者が全く関与しない擬態様式もある。分散のための擬態がその一例で、例えばある種の菌類は胞子を散布してもらうため、腐肉の匂いを出して昆虫を誘引する。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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