ヘブライ文字
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ハスモン朝が成立する紀元前2世紀から紀元前1世紀に制作がはじまったと考えられるクムラン出土の死海文書などを見る限り、紀元前後のユダヤ人の文字は聖典、俗文書を問わずほぼアラム文字系である方形ヘブライ文字に移行したようであるが、死海文書中では神名である「YHWH」など若干の単語を古ヘブライ文字で書き分けている例が見られる[3]。また後代のラビたちも古ヘブライ文字を「ヘブライ字(ket?b 'ibr?)」と称しているため、バビロニア捕囚後も一部古ヘブライ文字は生き続け、この時期には現行の「方形ヘブライ文字」と「古ヘブライ文字」との峻別・併用・使用上の差異が存在したとみて間違いないだろう。

いっぽう北イスラエル王国領であったサマリア地域では古ヘブライ文字が生き続け、紀元前3世紀頃には古ヘブライ文字に装飾的な要素を加えた独自のサマリア文字の祖形が出来上がったようである。中世のサマリア文字は死海文書中の古ヘブライ文字と近似している。
書体の変化

各地に離散したユダヤ人ごとに異なる書写の伝統があったが、聖書を筆写するためのヘブライ文字は古い書体を保ち続けた。これに対して注釈に使われる目的では行書的な書体が発達した。たとえば中世イタリアで発達したラシ書体 (Rashi script) が知られる。日常の目的のためには筆記体が発達した。現代の筆記体は、16-17世紀に中央ヨーロッパで使われはじめたアシュケナジムの筆記体から派生したものである[6]
非ヘブライ語系言語へのヘブライ文字の適用ニューヨーク州カーヤス・ジョエルの看板。英語とイディッシュ語。ニクードは使用せず

離散ユダヤ人はヘブライ語とアラム語だけでなく、各地でさまざまな言語を使用したが、とくに重要なものにイディッシュ語ラディーノ語ユダヤ・アラビア語群があり、いずれもヘブライ文字による表記が行われた[7]。それぞれの言語を表記するために文字体系が拡張されている。

イディッシュ語は12世紀以来ヘブライ文字で書かれたが、正書法が統一されることはなく、さまざまな異なる綴り方が存在する。ヘブライ語・アラム語に由来する語は伝統的なつづり字を採用し、ドイツ語系の単語はドイツ語正書法に1対1で対応するように綴る「語源的」な綴り方と、実際のイディッシュ語の発音を反映した「形態音韻論的」な綴り方の対立がある[8]。1936年に制定されて翌年出版されたYIVO(イディッシュ科学院)方式がおそらく最もよく使われている[9]。YIVO方式は破裂音を表すダゲシュ、摩擦音を表すラフェ、スィンの点、および母音の読みを一意に区別するための記号を使用している[10]

イディッシュ語にあってヘブライ語にない子音は、摩擦音を表すラフェ記号を使ったり、二重音字によって表した。

子音t??fv
表記????????‎, ??

YIVO方式では準母音とニクードを組み合わせ、母音を完全に表記する[11]

母音aoiueeyayoy
語中?????????????
語頭??????????????????

あいまいさを生じる可能性のある場合は点で区別される。例:???? vu, ??? yi, ??? ui など[10]
文字
時代による発音の違い

ヘブライ語は長い時代に広い地域で使われてきたため、発音には時代差・地域差が大きい。アシュケナジム式ヘブライ語セファルディム式ヘブライ語イエメン式ヘブライ語などでさまざまに異なる発音がなされるが、ここでは中世のティベリア式発音と現代イスラエルの標準的発音についてのみ述べる。

聖書が書かれた紀元前1千年紀のヘブライ語の発音は不明な点が大きい。フェニキア文字は22の子音を区別するが、当時のヘブライ語はそれよりも多くの子音があったため、1つの文字が複数の音を表していた(多音性)。ヘレニズム時代までは少なくともヘット(?)、アイン(?)、シン(?)に2種類の音が割り当てられていたと考えられている[12][13]

ティベリア式発音では、これらの子音のうちシン(?)の2種類の音の区別のみが残っており、ラテン文字ではそれぞれ?および?と翻字される。後者は現在ではサメフ(?)と同音になっているが、古くは別の無声歯茎側面摩擦音/?/のような音であったと考えられている。

ティベリア式発音ではまた、/p/,/t/,/k/,/b/,/d/,/g/ の6子音はその位置により異なって発音された。おおまかに言って、語頭あるいは重子音になったときに破裂音になり、母音に後続した場合(重子音の場合を除く)には摩擦音 /f/,/θ/,/x/,/v/,/d/,/?/ で発音されていた。これらのうち、現代ヘブライ語では /f/,/v/,/x/ のみが摩擦音化する。

上記の歴史的な理由から、通常/f/は語頭に出現しないし、/p, b/が語末に来ることもない。しかし現代ヘブライ語では「????」(fanati「狂信的な」、英語fanatic)のような外来語に語頭のfが出現することがある[14]

ティベリア式発音ではヴァヴ(?)は半母音の /w/ だったが、現代では摩擦音/v/になっている。

ティベリア式発音ではセム語に特徴的な強勢音があり、テット(?)は /t?/、ツァディ(?)は /s?/、そしてクフ(?)は /q/ であったが、現代語ではそれぞれ /t, ts, k/ になった。ヘット(?)は同じくセム語に特徴的な無声咽頭摩擦音/?/、アイン(?)は有声咽頭摩擦音/?/であったが、これらもそれぞれ無声軟口蓋摩擦音 /x/、声門破裂音 /?/(または無音)に変化した。

これらの音声変化の結果、現代語では複数の文字が同音になっており、文字と音声の関係は複雑化している。
文字表

現代ヘブライ文字の基本字母はいずれも子音を表し、22字がある。うち、5字(? ? ? ? ?)は、語末にのみ使われる特別の字形(ソフィート)をもっているため、合計すると27字になる。各文字とその読み・発音は、以下の通り[15]

名称字母語末形筆記体数価ティベリア式発音現代の発音
??lep? アレフ(alef)?1? /?//?/、ゼロ
b?? ベート、ヴェート[16](bet)?2b /b/, ? /v//b/, /v/
gimel ギメル(gimel)?3g /?/, ? /?//?/
d?le? ダレット[17][18](dalet)?4d /d/, ? /d//d/
h? ヘー(he)?5h /h//h/
w?w (vav)ヴァヴ[17][18]?6w /w//v/
zayin ザイン(zayin)?7z /z//z/
??? ヘット[17][18] (chet)?8? /?//x/
??? テット[17][18] (tet)?9? /t?//t/
y?? ユッド[17][18](ヨッドとも[16])(yod)?10y /j//j/
kap? カフ、ハフ[16](kaf)??20k /k/, ? /x//k/, /x/
l?me? ラメッド[17][18](lamed)?30l /l//l/
m?m メム[17][18] (mem)??40m /m//m/


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