『ヘブライ書』の著者については『ヘブライ書』の中には明記されていない[1]。はっきりしているのは差出人不明の手紙であるということである。第11章では旧約聖書の登場人物多数に触れていることから、著者は旧約聖書に精通している人物であることがうかがえる[2]。 使徒パウロではないかという説を初めとして、『ヘブライ書』の著者を巡る議論は古代以来続いてきた。かつて『ヘブライ書』をパウロ書簡の一つとする分類法も行われていた。 本文中には他のパウロ書簡のような著者に関する情報が何もない。『ヘブライ書』に見られる思想そのものはパウロに近いが、文体や用法などは明らかに違っている。序文もパウロ書簡のそれとは異なっている。特にポイントとなるのは著者が他者からキリストの教えを受け取ったと語っている部分である。パウロは『ガラテヤの信徒への手紙』の中で自分がイエス自身から福音を受けたことを強調する。 パウロ以外で著者とされるのは、パウロの協力者シラス、『クレメンスの第一の手紙』の著者とされる教皇クレメンス1世、福音記者ルカ、アレクサンドリアの無名のキリスト者などである。テルトゥリアヌスは『使徒言行録』に現れるバルナバが著者であるといっている。マルティン・ルターは同じく使徒書に現れるアポロ 前述のように、『ヘブライ書』の筆者については論議があり、筆者がパウロであるとする説は多く東方に行われてきた。ムラトリ正典目録などからは、西方では『ヘブライ書』がパウロ書簡とみなされず、したがって正典の一部とされていなかったことがうかがえる。『ヘブライ書』が正典と全教会において広く認められるのは397年のカルタゴ教会会議
使徒パウロではないかという説
使徒パウロ以外ではないかという説
新約聖書中での位置づけ
こうした経緯から『ヘブライ書』は、新約聖書の正典確認後、今日に至るまでパウロを著者とする書簡群と公同書簡の間に置かれている。 近代の批判的聖書学で本書がパウロとは無関係であることが確認されたため、時に公同書簡に含めたり、それと同等の扱いをすることがある。 『ヘブライ書』は特定の状況下に置かれたキリスト者のグループにあてて書かれた。『ヘブライ書』を注意深く読むと本書のあて先となった人々が以下のような特徴をもっていたことをうかがい知ることができる。 ユダヤ人キリスト教徒にあてられたという説は有力ではあっても決して全ての人が認めているわけではない。本書は(このようなタイトルがつけられたことからもわかるように)2世紀以来、ユダヤ人キリスト教徒にあてられたと見られていた。 アメリカのリベラル神学者エドガー・グッドスピード 著者はモーセの律法の、従来考えられていた意味をとらえなおし、そこに新しい意味を与えようとしている。またレビ族の祭司職はキリストの祭司職の予型であるとし、ユダヤ教の犠牲の式はキリストの十字架の予型となったという。さらに福音はモーセの律法を更新するものでなく、廃止するものであるという。初代教会に存在したエビオン派という、ユダヤ教の習慣をすべて維持したままキリスト教徒になった人々に対する批判として書かれたと見ることができる。本書簡ではパウロのキリスト論を繰り返し引用しながら新しい契約が古い契約にとって変わったということを強調している。
近代の批判的聖書学での位置づけ
書簡のあて先
七十人訳聖書の形で旧約聖書を知る改宗者であること。
13:14と13章の罪のリストからは都市生活者であること。
10:32-34からは一度迫害にあったこと。その迫害はそれほど過酷なものではなかった(12:4)が、再び迫害にあう可能性が予見されている。(12:1-3、13:12-13)
一部の人々は神殿における儀式にはもう参加していない(10:22)。いまだに儀式に参加している人たちはそれによって自らの信仰が揺らいでいる。
おそらくユダヤ教から改宗したキリスト教徒でありながら、再びユダヤ教へ戻ることを考えている人々であろう。著者はユダヤ教の動物の犠牲はキリストの十字架での犠牲の後では意味を持ち得ないことを強調し、「幕屋の外で」(すなわちユダヤ教を離れて)キリストに従うことを求めている。
13:24で著者はイタリアの信徒たちからの挨拶を伝えている。これは本書がイタリアで書かれたことをうかがわせる。あるいは逆に、イタリアにいる信徒たちの集団に、イタリアから書簡の発信地に移住してきた信徒たちが挨拶を送っているのかもしれない。
リベラル神学者の見方
執筆の目的
脚注^ ヘブル人への手紙(口語訳)#第1章から13章
^ 短いながらもアブラハム、イサク、ヤコブ、エサウ、ヨセフ、モーセ、ラハブ、ギデオン、バラク、サムソン、エフタ、ダビデ、サムエルに触れている(ヘブル人への手紙(口語訳)#11:17-32
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パウロ書簡