読者をシリーズに引き込んでおいて神秘学の啓発を始めるのは当初からの狙いだった[44]。ムーアはコミックのストーリーテリング自体を一種の魔術的体験と捉えており[50][51]、「創作のプロセスを自家薬籠中の物にする」ために「科学と理性の縁を踏み越えて」[52]、アレイスター・クロウリーの流れをくむ西洋魔術を実践していた。本作の構想を得たのはマジックマッシュルームを食べてカバラの生命の樹について瞑想していた時だとも発言している[53]。ムーアは自身が体験した意識の変容をコミックでただ伝えるのではなく、絵と文を通じて読者の潜在意識に働きかけ[54]、同じ体験を与えることを目標にしていたという。それはムーアにとって、2001年の同時多発テロ以来全体主義の傾向を強めていく時代にあって、個人の精神を解放するための手段だった[55]。… 現代アメリカ文化とは … 思想を制限して人間が考えられる内容を減らすことをいうようだ。ほとんどオーウェル流のやり方だ。そこで私たちは[『プロメテア』で]こう言おうとした。いいか、無神論者や再生派キリスト教徒、ムスリム、そういう分断された絶対的な立場に立つ必要なんかないんだ。人間には可能性の巨大なパレットがあって、人はそれを自由に試すことができる。きっとその方が建設的な頭の使い方だし、そうすればこの世のほぼあらゆる存在にもっと畏敬を感じられるようになる。これはロマン主義の考え方と非常に近い。ウィリアム・ブレイクはロマン主義者で、オカルティスト、預言者でもあった。全部同じことなんだ。 ? アラン・ムーア、スザンナ・クラークによる2007年のインタビュー[56]
シリーズが魔術の指南書に変質したことで、単なるスーパーヒーロー物語を求めていたファンが離れていったことは否めない[43][57]。初期のある号はダイレクト・マーケット取次を通した販売数が29000部(月刊タイトル中70位)だったが[28]、カバラの宇宙観を解説するストーリーが11号にわたって展開される間に数千部の売り上げが失われた。ムーア自身の言葉では、本作を読んで「大脳皮質を破壊されて不満を感じる機能が失われた」読者だけがシリーズを買い支えていたという[58][59]。
『プロメテア』で余すところなく描かれた「世界の終り」は、ムーアの過去作でたびたび提示されてきた同テーマの集大成だと評されている[60][61]。ムーアは本作の完結後にメインストリーム・コミック界からの引退を表明し[25][61]、その後スーパーヒーロー・ジャンルで大きな仕事をすることはなかった。ABCレーベルの作品は大半が終了し、残った作品もDCコミックスから別会社に移籍した[26][62]。 2018年1月、本作の権利を所有するDCコミックスは、『ジャスティス・リーグ・オブ・アメリカ』第24号でメインの作品世界にプロメテアを取り入れた。
シリーズ完結後の展開