プロパガンダ
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対立者が存在する者にとってプロパガンダは武器の一つであり[3]、自勢力やその行動の支持を高めるプロパガンダのほかに、敵対勢力の支持を自らに向けるためのもの、または敵対勢力の支持やその行動を失墜させるためのプロパガンダも存在する。

本来のプロパガンダという語は中立的なものであるが、カトリック教会の宗教的なプロパガンダは、敵対勢力からは反感を持って語られるようになり、プロパガンダという語自体が軽蔑的に扱われ、「嘘、歪曲、情報操作、心理操作」と同義と見るようになった[1]。このため、ある団体が対立する団体の行動・広告などを「プロパガンダである」と主張すること自体もプロパガンダたりうる。

またプロパガンダを思想用語として用い、積極的に利用したウラジーミル・レーニンソビエト連邦や、国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)とナチス・ドイツにおいては、情報統制と組み合わせた大規模なプロパガンダが行われるようになった[注釈 1]。そのため西側諸国ではプロパガンダという言葉を一種の反民主主義的な価値を内包する言葉として利用されることもあるが、実際にはあらゆる国でプロパガンダは用いられており[1]、一方で国家に反対する人々もプロパガンダを用いている[4]。あらゆる政治的権力がプロパガンダを必要としている[5]

なお、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)は、戦争や人種差別を扇動するあらゆるプロパガンダを法律で禁止することを締約国に求めている[6]

報酬の有無を問わず、プロパガンダを行う人々を「プロパガンディスト(propagandist)」と呼ぶ[7]
プロパガンダの種類

プロパガンダには大別して以下の分類が存在する。ホワイトプロパガンダの例。痴漢の撲滅を目的とした大阪府警による中吊り広告。
ホワイトプロパガンダ
情報の発信元がはっきりしており、事実に基づく情報で構成されたプロパガンダ[1]
ブラックプロパガンダ(英語版)
情報の発信元を偽ったり、虚偽や誇張が含まれるプロパガンダ[1]
グレープロパガンダ
発信元が曖昧であったり、真実かどうか不明なプロパガンダ[1]
コーポレートプロパガンダ
企業が自らの利益のために行うプロパガンダ。
カウンタープロパガンダ
敵のプロパガンダに対抗するためのプロパガンダ[1]
プロパガンダ技術

アメリカ合衆国の宣伝分析研究所(英語版)は、プロパガンダ技術を分析し、次の7手法をあげている[8]

ネーム・コーリング攻撃対象をネガティブなイメージと結びつける[注釈 2]恐怖に訴える論証
カードスタッキング自らの主張に都合のいい事柄を強調し、都合の悪い事柄を隠蔽、または捏造だと強調する。
バンドワゴンその事柄が世の中の趨勢であるように宣伝する[注釈 3]衆人に訴える論証
証言利用「信憑性がある」とされる人に語らせることで、自らの主張に説得性を高めようとする。権威に訴える論証
平凡化その考えのメリットを、民衆のメリットと結びつける。
転移何かの威信や非難を別のものに持ち込む[注釈 4]
華麗な言葉による普遍化対象となるものを、普遍的や道徳的と考えられている言葉と結びつける。

また、ロバート・チャルディーニ(英語版)は、人がなぜ動かされるかと言うことを分析し、6つの説得のポイントをあげている。これは、プロパガンダの発信者が対象に対して利用すると、大きな効果を発する[9]

返報性人は「利益が得られる」という意見に従いやすい。
コミットメントと一貫性人は自らの意見を明確に発言すると、その意見に合致した要請に同意しやすくなる。
また意見の一貫性を保つことで、社会的信用を得られると考えるようになる。
社会的証明自らの意見が曖昧な時は、人は他の人々の行動に目を向ける。
好意人は自分が好意を持っている人物の要請には「YES」という可能性が高まる。ハロー効果
権威人は対象者の「肩書き、服装、装飾品」などの権威に服従しやすい傾向がある。
希少性人は機会を失いかけると、その機会を価値のあるものであるとみなしがちになる。

ウィスコンシン大学広告学部で初代学部長を務めたW・D・スコットは、次の6つの広告原則をあげている[10]
訴求力の強さは、その対象が存在しないほうが高い。キャッチコピーはできるだけ簡単で衝撃的なものにするべきである。

訴求力の強さは、呼び起こされた感覚の強さに比例する。動いているもののほうが静止しているものより強烈な印象を与える。

注目度の高さは、その前後に来るものとの対比によって変わる。

対象を絞り、その対象にわかりやすくする。

注目度の高さは、目に触れる回数や反復数によって影響される。

注目度の高さは、呼び起こされた感情の強さに比例する。

J.A.C.Brownによれば、宣伝の第一段階は「注意を引く」ことである。具体的には、激しい情緒にとらわれた人間が暗示を受けやすくなることを利用し、欲望を喚起したうえ、その欲望を満足させうるものは自分だけであることを暗示する方法をとる[11]。またL.Lowenthal,N.Gutermanは、煽動者は不快感にひきつけられるとしている[12]

アドルフ・ヒトラーは、宣伝手法について「宣伝効果のほとんどは人々の感情に訴えかけるべきであり、いわゆる知性に対して訴えかける部分は最小にしなければならない」「宣伝を効果的にするには、要点を絞り、大衆の最後の一人がスローガンの意味するところを理解できるまで、そのスローガンを繰り返し続けることが必要である」と、感情に訴えることの重要性を挙げている[13]。また「大衆は小さな嘘より大きな嘘の犠牲になりやすい。とりわけそれが何度も繰り返されたならば」(=嘘も100回繰り返されれば真実となる)とも述べた。

杉野定嘉は、「説得的コミュニケーションによる説得の達成」「リアリティの形成」「情報環境形成」という3つの概念を提唱している。また敵対勢力へのプロパガンダの要諦は、「絶妙の情報発信によって、相手方の認知的不協和を促進する」ことであるとしている[13]
歴史

有史以来、政治のあるところにプロパガンダは存在した。ローマ帝国では皇帝の名を記した多くの建造物が造られ、皇帝の権威を市民に見せつけた。フランス革命時にはマリー・アントワネットが「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と語ったとしたものや、首飾り事件に関するパンフレットがばらまかれ、反王家の気運が高まった。

プロパガンダの体系的な分析は、アテネで紀元前6世紀ごろ、修辞学の研究として開始されたと言われる。自分の論法の説得力を増し、反対者への逆宣伝を計画し、デマゴーグを看破する技術として、修辞学は古代ギリシャ古代ローマにおいて大いに広まった。修辞学において代表的な人物はアリストテレスプラトンキケロらがあげられる。古代民主政治では、これらの技術は必要不可欠であったが、中世になるとこれらの技術は廃れて行った。

テレビインターネットに代表される情報社会化は、プロパガンダを一層容易で、効果的なものとした。わずかな費用で多数の人々に自らの主張を伝えられるからである。現代ではあらゆる勢力のプロパガンダに触れずに生活することは困難なものとなった。
国家運営におけるプロパガンダの歴史プロパガンダは独裁国家のみならず、民主主義国家でも頻繁に行われた。画像は第二次世界大戦中にドイツ・日本の枢軸軍を「自由の女神を破壊する悪魔」として描き、戦争の大義を説こうとするアメリカ合衆国のポスター。「どうにも止まらないこの怪物を止めろ……限界まで生産せよ!これはあなたの戦争だ!」と呼びかけている。

国家による大規模なプロパガンダの宣伝手法は、第一次世界大戦期のアメリカ合衆国における広報委員会が嚆矢とされるが、ロシア革命直後のソ連[14]で急速に発達した。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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