プリマヴェーラ
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『プリマヴェーラ』の全体的な画面構成は、当時人気があったフランドルタペストリーによく似ている[5]
主題ボッティチェッリが1482年頃に制作した神話画『パラスとケンタウロス』。『プリマヴェーラ』と対になっていた作品だと言われている[6]

描かれている人物像について様々な説が唱えられてきたが「精妙な神話世界に肥沃や多産の寓意が込められている」という解釈が主流となっている[1]。エレーナ・カプレッティは2002年の著書「ボッティチェッリ」で、現在の主流となっている『プリマヴェーラ』の解釈を次のように要約している。この作品を鑑賞する流れは向かって右から左である。(春を告げる西風の神)ゼピュロスが3月の冷気を吹き飛ばし、ニンフクローリスを拉致して自分のものにしようとしている。後に彼(ゼピュロス)と結婚した彼女(クローリス)は神の地位へと引き上げられ、春の女神となってバラの花を大地へと撒き散らしているのである[7]

この場面はオウィディウスの『祭暦』を下敷きとしている。『祭暦』に記されている物語では、樹木のニンフであるクローリスが生来の魅力で春を告げる西風の神ゼピュロスを魅了した。ゼピュロスはクローリスにつきまとって力ずくで自分のものにしてしまう。このときクローリスの口から花々が溢れだし、クローリスは花の女神フローラへと姿を変えたというものである。そして『祭暦』では「これ以来、世界は様々な色彩であふれるようになった」と続いている。クローリスとゼピュロス。

ギリシア語で「khloros」は緑色という意味で、クロロフィルの語源にもなっている。「クローリス (Chloris)」という名前も緑色を連想させ、このことがボッティチェッリがゼピュロスを青緑色で表現した理由ではないかとされている[8]。画面中央の女神ヴィーナスが主宰するオレンジ園は、メディチ家の象徴である[9]。ヴィーナスは暗色のミルトスの前に立っている。古代ギリシアの詩人ヘーシオドスの『神統記』では、ヴィーナスと同一視されるアプロディーテは、切り落とされて海を漂流していた天空神ウラノスの男性器に付着していた精液から誕生したとされている。貝殻に乗って島に漂着したときにヴィーナスの裸身を隠していたのがミルトスの葉であったことから、ミルトスはヴィーナスの象徴となっていた[10]。キューピッドに狙いを付けられながら踊る三美神はメディチ家を意味する色の宝石で身を飾り、真紅の布をまといを持つマーキュリーは荒天をもたらす雲からオレンジ園を守っている[7][9][8]

『プリマヴェーラ』に描かれている神話の登場人物のうち、前述の人物像の特定については研究者の間でも見解がほぼ一致しているが[11][12][13]、花模様のドレスを着用しているのは春を擬人化したプリマヴェーラであり、ゼピュロスに襲われそうになっている女性像がフローラだとする説や[14]、真紅の布をまとっているのはマーキュリーではなくマーズだとする説などもある[15]

さらに『プリマヴェーラ』には、メディチ家が後援した人文主義者マルシリオ・フィチーノプラトンに関する著作で有名になったプラトニック・ラブの概念が主題になっているという説がある[6][16]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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