くさび形のフォイヤーはガラス天井のもとにギフトショップやカフェテリアが入り、それら施設が退去した本館は展示スペースが広がった[11]。16世紀の建築物「ヘロニモの回廊」は石材を1点ずつ取り除いて解体、周辺の建物群の基礎構造の補強工事が終わると、当館の新しい別棟として再建にかかり、工事中は壁が崩れないように水圧ジャッキで支えた[12]。本館から地下空間を伸ばし、解体修理した別の建物とつないだ。
2016年11月、イギリスの建築家ノーマン・フォスターとカルロス・ルビオ・カルバハルが手をたずさえてサロン・デ・レイノス(英語)の改修にあたると発表された。この合同事業では、ブエン・レティロ宮殿から移築したという由緒のある建物に3200万ドル相当の予算をあて、本館の別棟に位置付ける。公開設計コンペにかけ最終審査に残った8社[注釈 5]を比べ、フォスター&ルビオ社が採用された[13]。審査の初回の段階47候補の段階から選抜され、最終段階に残った国際チームである[14]。
建物の買収は2015年に成立、2005年まで武器庫であった。この改修が終わると、床面積はおよそ61,500平方フィート (5,710 m2) 広がり、そのうちの27,000平方フィートを展示スペースにあてる計画であった[14]。ところがスペイン政府からなかなか増床計画の認可が降りず待機が続き、2021年には改修予算3600万ユーロがついた[15]。
コレクションカテゴリ:プラド美術館の所蔵品も参照
プラド美術館はおよそ8000点超の油彩画、彫刻約1000点、版画約4800件、素描約8200件、さらに美術史に関する多くの書類を収めている。絵画作品は2021年時点で展示中約1400点[16]、他の美術館や研究所へ貸与中3100点前後とされた。その他の作品は保管庫にある[20]。
当美術館の名が世界に知られる要素とは、何と言ってもルネサンス、バロック絵画を中核とした膨大なヨーロッパ絵画の収集機関としてである。歴代スペイン王の趣味やスペイン史を如実に反映した点が特徴であり、西洋美術史の展示は系統的あるいはバランスが取れていると言うよりも、一方で収蔵品には時代、国、画家の偏りがある。他方、並べて語られる欧米の美術館であまり見ることのない画家は数多く、その作品を集中的に収蔵している点が当美術館の独自の魅力となっている。
スペイン絵画エル・グレコ『胸に手を置く騎士』(1580年頃)ホセ・デ・リベーラ『聖フィリポの殉教』(1639年)ディエゴ・ベラスケス『ラス・メニーナス』(1656年)フランシスコ・デ・ゴヤ『マドリード、1808年5月3日』(1814年)
5000点近く収集するスペイン絵画は中世から20世紀初頭にいたり、フアン・デ・フランデス、ルイス・デ・モラレス、エル・グレコ、ホセ・デ・リベーラ、フランシスコ・デ・スルバラン、ディエゴ・ベラスケス、バルトロメ・エステバン・ムリーリョ、ルイス・メレンデス、フランシスコ・デ・ゴヤなどの多数の作品を初め、比類のないコレクションを誇っている[21][22][23]。スペイン絵画の全貌に触れられるコレクションとして世界で唯一であり、フアン・サンチェス・コターン、フェデリコ・デ・マドラーソ、マリアノ・フォルトゥーニ、ホアキン・ソローリャなど、スペイン以外ではほとんど作品を見ない画家まで網羅している。そしてスペイン絵画を代表するディエゴ・ベラスケスとフランシスコ・デ・ゴヤの宮廷画家ふたりの画業は、全生涯の作品を展示する。前者の作品は最高傑作『ラス・メニーナス』を含む約50点、後者も代表作『マドリード、1808年5月3日』、『カルロス4世の家族』を含む130点超を数え、当館の収蔵品を抜きに、この画家両名の神髄に触れることはできない。加えて当館はエル・グレコの作品も『受胎告知』等スペイン時代の代表作のみならず、イタリア時代の作品まで40点近く収蔵している。
重要作
ジャウマ・セラ:『トベの聖母』
バルトロメ・ベルメホ:『シロスの聖ドミニクス司教推戴』
フアン・デ・フランデス:『キリストの磔刑』
ルイス・デ・モラレス:『授乳の聖母』
エル・グレコ:『エジプトへの逃避』、『聖三位一体』、『寓話』、『胸に手を置く騎士』、『聖アンデレと聖フランチェスコ』、『受胎告知』、『キリストの磔刑』、『聖霊降臨』、『羊飼いの礼拝』
フアン・サンチェス・コターン:『狩猟の獲物、野菜と果物のある静物』
ホセ・デ・リベーラ:『デモクリトス』、『女の戦い』、『イサクとヤコブ』、『聖フィリポの殉教』、『ヤコブの夢』