ブレードランナー
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また白い鳩が飛び立つ描写もハウアーのアイデアだった[6]

ガフがデッカードに呼び掛ける「彼女も生きられずに残念ですな。だが、誰もがそうかもしれない」という台詞も、演じたオルモスによって付け足され、脚本にあった「お見事ですな」に続けて去り際に言った言葉が、思いもかけず完成した映画に残されたという[22]

ロサンゼルスの街にさまざまな人種が入り乱れて生活する様子を描写するため、日本語をはじめとする多国語の看板、日本語を話す店主が切り盛りする露店、日本語による話し声が多用されている。また、「ふたつで十分ですよ」[30]とハリソン・フォードとやりとりしている寿司屋の主人ハウイー・リーは、ロバート・オカザキという日系アメリカ人俳優である[31][注釈 13]。以下に代表的なものを挙げる。

日本語でイリヒカタムク(入り陽傾く)という声と芸者が現れる「強力わかもと」の広告はシド・ミードのアイデアとされ[15]、実際の製品は胃腸薬だが避妊薬という設定で登場する[32][33][注釈 14]

「゜コ゛ルフ月品〔ママ〕」[28]「日本の料理」など日本語の看板、ネオンサイン、壁面の落書き。

デッカードが屋台で日本語を話す店主にメニューを注文する際のやりとり[30]

デッカードを連れ去るパトカー(エアカー)のドアに漢字で『警察995』の正式表示[34]

いくつかのシーンで、シチュエーションに合わない日本語のガヤ(雑踏での台詞)が繰り返し使用。

またミニチュア・クルーによる演出外の趣向として、『未知との遭遇』のマザーシップや、『スター・ウォーズ』のミレニアム・ファルコン号、そして『ダーク・スター』の模型が画面に登場する[15]
デザイン

監督のリドリー・スコットはSFホラー『エイリアン』(1979年)に次ぐSF作品となる本作でも、卓越した映像センスを発揮した。従来のSF映画にありがちだったクリーンでハイテクな未来都市のイメージを打ち破り、環境汚染にまみれた酸性雨の降りしきる、退廃的な近未来の大都市を描いた。これは、シナリオ初稿を書いた、ハンプトン・ファンチャーが、フランスの漫画家メビウスが描いたバンド・デシネ短編作品『ロング・トゥモロー(英語版)』(原作は『エイリアン』の脚本家ダン・オバノン)での[3]、「混沌とした未来社会でのフィリップ・マーロウ的な探偵の物語」をイメージしていたためだった。

劇中の無国籍で混沌としたロサンゼルスのイメージは、メビウスの作品そのものである[注釈 15]。スコットは映画のスタッフにメビウスの参加を熱望したが、アニメーション『時の支配者(フランス語版)』の作業に携わっていた彼は、衣装デザインのみの参加となった[注釈 16]。また、インタビューでは度々エンキ・ビラルの作品の世界観を参考にしたとの発言が出ている。

撮影に使用されたタイレル社本社ビルのミニチュア(前面部分の一部)
ニューヨーククイーンズ区アストリアの動画博物館(Museum of the Moving Image)(英語版)の展示品
(2019年4月17日撮影)

シド・ミード

本作を特徴づけているものの一つが、「ビジュアル・フューチャリスト」ことシド・ミードによる一連のデザインである。

ミードは最初は作品に登場する車両のデザイナーとして着目され、起用された。1979年に出版された個人画集の中の1枚である「雨の降る未来の高速道路の情景」に目を留めたリドリー・スコットが、作中に登場する未来の自動車のデザインを依頼したことがきっかけであった[36]

当初はミードは車両のみを担当する予定であったが、ミードは自身のデザインに対する姿勢として「工業製品は、それが使用される状況や環境とセットでデザインされなければならない」というポリシーを持っており、「未来の乗用車」のカラーイラストの背景に描かれた未来都市のイメージに魅了されたスコットは、車両以外にも室内インテリア、未来の銃、パーキングメーター、ショーウィンドー等のセットや小道具のデザインを依頼し、さらに建築、都市の外観、列車や駅、コンピュータ等のインターフェースに至る、作中に登場するありとあらゆる工業製品のデザインを依頼した[37][注釈 17]

ただし、ミードが本作のためにデザインしたものが全て劇中で使われたわけではなく、幾つかのものはスコットにより「未来的にすぎる」という理由で却下されている[38]。未来の銃(後述「#デッカードブラスター」参照)や、医療用のカプセル型ベッド(後述「#没シーン」参照)等である。

ミードはこれまでも美術やメカデザイン等で映画に参加していたが、本作で初めて以降の肩書きである「ビジュアル・フューチャリスト」を名乗り、またエンドロールにおける単独クレジットがなされた。
フォークト=カンプフ・マシン

フォークト=カンプフ・マシン[注釈 6]は、対象がレプリカントであるかどうかを判断するためにブレードランナーが使用する一種のポリグラフ嘘発見器)で、呼吸などの身体機能を測定し、毛細血管の膨張による血流の増大や、質問に対しての心拍数および眼球運動を測定して判定する装置である[19]

1982年、初公開時のプレスキットの説明には非常に高度な形態の嘘発見器の一種で、虹彩の筋肉の収縮と、身体から放出される目に見えない浮遊粒子の存在を測定する。
稼働するベローズは後者の機能のために設計され、機械に不吉な昆虫のような印象を与えます。
主にブレードランナーによって使用され、慎重に選定された言葉で質問することにより対象の共感反応の程度を測定することで、容疑者が本当に人間であるかどうかを判断します。

とある。シド・ミードによるフォークト=カンプフ・マシンのデザイン画

スコットはこの検査装置をデザインするにあたり、「ハイテク機器のようには見えない」「対象者を威嚇するような感じに」「デリケートな装置に見えるように」という要望を出した[39]。ミードは彼の出した要望に対して、「自室の机の上のライトに大きなタランチュラが取り付いている」というビジュアルイメージを思い浮かび、そのイメージに従って、見た者に「生きているような感じ」を与えられるものをデザインした[40]。デザインの意図としては「視線を合わせられ続けることの威圧感」「機械が呼吸しているように見えることへの気持ち悪さ」を感じさせることを念頭に置いている[40]

なお、プロップとして製作された装置にはカメラ機能はなく、モニターには実際にそのシーンで「検査」されている俳優の瞳が映っているわけではない。俳優たちの瞳のクローズアップも撮影されたが、モニタに当たる部分に投影されているのは、科学教育用フィルムの素材提供会社より調達された別人の瞳の映像である[40](そのため、レイチェル役のヤングは瞳がブラウンであるにもかかわらず、モニターではグリーンに映っている)。
フューチャーカーフロリダ州のアメリカ警察殿堂博物館(英語版)(American Police Hall of Fame&Museum)に展示されている“デッカード・セダン”
(2010年9月4日撮影)

前述のように、ミードは当初「カーデザイナー」として起用された。彼の描いたコンセプトデザイン[41]は、カスタムカーデザイナーのジーン・ウィンフィールド(英語版)によって、デッカードの乗るセダンやセバスチャンの乗るバン[注釈 18]など、セダンタイプのものからコンパクトカータイプのものなど、25種類に及ぶ各種の車両にリファインされた[43]。当初は57台が製作される予定で[注釈 19]、予算と製作期間の問題から台数は半分の25台に減らされたが、納入前に工房で火災が発生して2台が焼失し、最終的には23台が納品された[44][注釈 20]


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