以上のように諸々の経緯はあるが、「デッカード=レプリカント説」を断定出来るような描写はどの版の劇中にも存在しない。 フォードは、この映画については長年否定的であった。これは、興行的に失敗したことの他に、撮影が一旦終了したにも拘らず、何度も追加撮影のために呼ばれたのに我慢ができなくなったことによるという。 また、レイチェル役のショーン・ヤングが、撮影中にフォードから乱暴に扱われたという理由で[26]、不仲のまま撮影が行われたという経緯がある[注釈 10]。ディレクターズ・カットが公開された1992年には、「デッカード=レプリカント説」をめぐってスコットと揉めたこともあった。こうした経緯があり、長い間作品の事を語りたがらなかった。しかしある時期からは「本作以降、出演作を自由に選べるようになった」と述べるなど、態度を軟化させるようになり、積極的ではないがインタビュー等にも答えている[注釈 11]。その後、続編となる『ブレードランナー 2049』への出演も快諾した。 映画『エイリアン』のSEや、救命艇ナルキッソス号が母船ノストロモ号から切り離される際のシークエンスで表示されるモニター画像をさりげなく挿入するなど、スコットのお遊びが散見される。ディックの小説『高い城の男』の世界観(枢軸国が勝利した世界)が想定されている可能性がある。 レプリカントのリーダー、バッティ[注釈 12]役のルトガー・ハウアーは人造人間の狂気と悲哀を好演した。ラストの独白シーンの台詞や演出は、本来の台本が長すぎると感じた彼が撮影時に提案したアドリブで、要約したピープルズの脚本に独自の台詞を加えて完成した。「雨の中の涙のモノローグ」(Tears in rain monologue ガフがデッカードに呼び掛ける「彼女も生きられずに残念ですな。だが、誰もがそうかもしれない」という台詞も、演じたオルモスによって付け足され、脚本にあった「お見事ですな」に続けて去り際に言った言葉が、思いもかけず完成した映画に残されたという[22]。 ロサンゼルスの街にさまざまな人種が入り乱れて生活する様子を描写するため、日本語をはじめとする多国語の看板、日本語を話す店主が切り盛りする露店、日本語による話し声が多用されている。また、「ふたつで十分ですよ」[30]とハリソン・フォードとやりとりしている寿司屋の主人ハウイー・リーは、ロバート・オカザキという日系アメリカ人俳優である[31][注釈 13]。以下に代表的なものを挙げる。 またミニチュア・クルーによる演出外の趣向として、『未知との遭遇』のマザーシップや、『スター・ウォーズ』のミレニアム・ファルコン号、そして『ダーク・スター』の模型が画面に登場する[15]。 監督のリドリー・スコットはSFホラー『エイリアン』(1979年)に次ぐSF作品となる本作でも、卓越した映像センスを発揮した。従来のSF映画にありがちだったクリーンでハイテクな未来都市のイメージを打ち破り、環境汚染にまみれた酸性雨の降りしきる、退廃的な近未来の大都市を描いた。これは、シナリオ初稿を書いた、ハンプトン・ファンチャーが、フランスの漫画家メビウスが描いたバンド・デシネ短編作品『ロング・トゥモロー
ハリソン・フォード
演出
日本語でイリヒカタムク(入り陽傾く)という声と芸者が現れる「強力わかもと」の広告はシド・ミードのアイデアとされ[15]、実際の製品は胃腸薬だが避妊薬という設定で登場する[32][33][注釈 14]。
「゜コ゛ルフ月品〔ママ〕」[28]「日本の料理」など日本語の看板、ネオンサイン、壁面の落書き。
デッカードが屋台で日本語を話す店主にメニューを注文する際のやりとり[30]。
デッカードを連れ去るパトカー(エアカー)のドアに漢字で『警察995』の正式表示[34]。
いくつかのシーンで、シチュエーションに合わない日本語のガヤ(雑踏での台詞)が繰り返し使用。
デザイン
劇中の無国籍で混沌としたロサンゼルスのイメージは、メビウスの作品そのものである[注釈 15]。スコットは映画のスタッフにメビウスの参加を熱望したが、アニメーション『時の支配者(フランス語版)』の作業に携わっていた彼は、衣装デザインのみの参加となった[注釈 16]。また、インタビューでは度々エンキ・ビラルの作品の世界観を参考にしたとの発言が出ている。 本作を特徴づけているものの一つが、「ビジュアル・フューチャリスト」ことシド・ミードによる一連のデザインである。 ミードは最初は作品に登場する車両のデザイナーとして着目され、起用された。1979年に出版された個人画集の中の1枚である「雨の降る未来の高速道路の情景」に目を留めたリドリー・スコットが、作中に登場する未来の自動車のデザインを依頼したことがきっかけであった[36]。 当初はミードは車両のみを担当する予定であったが、ミードは自身のデザインに対する姿勢として「工業製品は、それが使用される状況や環境とセットでデザインされなければならない」というポリシーを持っており、「未来の乗用車」のカラーイラストの背景に描かれた未来都市のイメージに魅了されたスコットは、車両以外にも室内インテリア、未来の銃、パーキングメーター、ショーウィンドー等のセットや小道具のデザインを依頼し、さらに建築、都市の外観、列車や駅、コンピュータ等のインターフェースに至る、作中に登場するありとあらゆる工業製品のデザインを依頼した[37][注釈 17]。 ただし、ミードが本作のためにデザインしたものが全て劇中で使われたわけではなく、幾つかのものはスコットにより「未来的にすぎる」という理由で却下されている[38]。
撮影に使用されたタイレル社本社ビルのミニチュア(前面部分の一部)
ニューヨーク、クイーンズ区アストリアの動画博物館(Museum of the Moving Image)(英語版)の展示品
(2019年4月17日撮影)
シド・ミード